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2022.07.24

【芝居】「岸田國士戦争劇集(白)」DULL-COLORED POP

2022.7.9 15:00 [CoRich]

作品3本を時系列に並べて岸田國士の人物を描く試み。120分。アトリエ春風舎。「動員挿話」はだいぶ前にリーディングで拝見したきりで他の二本は初見です。

少佐が出兵することになり、馬丁を連れていくと云うがその妻が許さない。が、馬丁は仲間が皆行くから、と。 動員挿話(青空文庫)
流頭(ルーズベルト)と茶散(チャーチル)の電話での会話。 戦争指導者(青空文庫)
出兵することになった男、子どもの頃に片眼を失明させてしまった親友は行けないのでその代わりに二人分働く、という。 かへらじと(青空文庫)
岸田國士が生まれ軍人だったりフランス留学だったりという時系列に作品を並べます。

「動員挿話」はすっかり忘れていたけれど、激情する妻の理と友が行くならという夫の理、少佐夫婦は目を掛けてきた夫婦だと思っているが、そこで断られると思っていなくて混乱する物語。現在の日本という国の視点で観れば劇場する妻の視点から見てしまいがちなワタシです。少佐夫人の演じた石田迪子の凛とした美しさ、馬丁の妻を演じた伊藤麗は激情したら手をつけられないと思う迫力の持ち味が説得力。

「戦争指導者」はごくごく短い会話、これが面白いかはよく分からないけれど、インターミッション的な効果。

「かへらじと」は町の人々を音声で作り、大勢の物語をごく少人数で回すコンパクトな作り。心に刺さったことをずっと悔やんでいる男、二人分働いて、死んでもいいという決意はなるほど戦争末期に発表されたという時代の背景。軍に行った男を演じた國崎史人は若い男が決意を秘めた凜々しさ。片眼を失明した男を演じた函波窓は力強く生きていくという終幕は希望を描く説得力。

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2022.07.18

【芝居】「アカデミック・チェインソウ」MCR

2022.6.26 14:00 [CoRich]

MCRの新作。105分。スズナリ。

修学旅行のホエールウオッチングの途中で行方不明になり無人島にたどり着いた女子高生と教師たち。救助はやがて来るだろうと気楽に構る女子高生。いわゆるスクールカーストの階層を移ろうとするときの軋轢だったり、先生への恋心で行動がギクシャクしたり頭の中でメロディがなったり、それを見て戸惑う友だちとか、平均的でおとなしく何物でもないことの不安だったりと、若さゆえなのか、学校の中のあれこれが無人島でも全く変わらない日常の面白さ。それにしてもまあいいおっさんである筈の作家の、女子高生に対するこの解像度の高さ。まあ私もオッサンなのでその解像度が正しいのかはわからんのですが、少なくともリアルだと感じるワタシです。

いっぽうで離職を決めていて最後の修学旅行だったのにこの状況の重責に押しつぶされそうな担任のあれやこれやがもう一つの物語の軸。妻に別れを切り出されたり、生徒を深く想うのに何かあったら責められるのは自分だということなどイロイロ限界を迎えて弾ける寸前。演じる堀靖明はMCR常連で、キレてるのにコミカルですらある造型が見事なのだけど、本作ではあくまで真面目に生きる人物がキレてコミカルに見えるけれど、その裏にある耐えがたいストレスという深刻な状況という重層的な人物がワタシを捉えて放さないのです。

いつまでも変わらない日常が無人島に来ても変わらないまま、しかも助けが来ないままずっと時間が過ぎているという状況は、どうも時間軸が同じ一日をループしていると気付くというSFがするりと潜り込む終盤が見事。一人が毎晩見ている夢だけがその日の前日に繋がっているからそこから助けを求めるという荒唐無稽もなんか力わざで押し切る見事さ。楽しい。無人島からの変わらない日常からは抜け出したとしても、もしかしたら彼らが戻る日常は抜け出しようのない飽き飽きしたループがこれからも繰り返すかも知れない、というのはちょっと絶望的だと感じ足りもするワタシです。

女子高生なのに波止場のマドロスな造型を終始一貫して演じきる加藤美佐江と、男にはモテまくるのに自己評価が異様に低く破滅的ですら女を演じた三澤さきのカップルが見事なコミカルリリーフでリズムを作るのみならず、終盤では物語を解決に向かわせ、ハリウッドかと思わせるハッピーエンドだったりもして圧倒的な安心感。

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2022.07.17

【芝居】「小刻みに戸惑う神様」SPIRAL MOON

2022.6.18 14:00 [CoRich]

ジャブジャブサーキット(JJC)の2019年作をSPIRAL MOONで。105分。「劇」小劇場。録画録音に加えて、メモが禁止というアナウンスがあってちょっと厳しいアタシですw。

慣れない葬儀の場、逃げたままの夫(登場しない)、スタッフが足りず、フリーの葬儀プロデューサーなる人物が出てきたりと、現実から虚構が地続きというのが昨今のJJCの作風と思うワタシです。記憶力がザルな私なので、JJCの上演を仔細に覚えて居るわけではないけれど(自分のblogが外部記憶なので助かるw)、芝居がそもそもだからなのか、びっくりするほどJCC風味、スノップな台詞はきっちり。だけど、何か違うのは何だろうと考えると、JJCにあった宙に浮いた感じが減って、より自分たちの生活からの地続き感が増したということかな、と思ったり思わなかったり。

葬儀プロデューサーを演じ演出を兼ねる秋葉舞滝子のある種の迫力。びっくりするほどオバちゃんの女性にみえるのはちょっとビックリな環ゆらあるいは、僧侶を演じた(ここに私はスノップを感じる役)中根道治など、横浜界隈で見慣れた役者がいるのはアタシの安心感だったりもします。

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2022.07.16

【芝居】「Secret War-ひみつせん-」serial number(風琴工房改め)

2022.6.11 18:00 [CoRich]

「ドライブ・マイ・カー」の女性ドライバー役の三浦透子を迎えて、いわゆる登戸研究所の物語。6月19日まで東京芸術劇場シアターウェスト。

取材に訪れた女、「中国人」の老人に会って、話を始める。
太平洋戦争の「登沢」研究所に勤める研究者たち。軍の「ひみつ戦」のために作られた研究施設。それゆえに毒薬や家畜から作った伝染病ウイルスを研究し、実戦投入をすべく働いている。
オフィスにはタイピストとして3人の女性が働いている。女であるから学問は要らないと言われたり、いわゆるいいとこのお嬢さんだったりという人々は和文タイプを操って書類を作り続けている。若い女性と男性が同じオフィスで働いていたりすると、恋模様も起きて。

毒薬や伝染病、あるいは偽札、風船爆弾、電波兵器といった特殊な(ゲリラ戦に近い気もする)軍事研究の施設の史実を背骨にしつつ、そこでタイピストとして働いていた女性たちの物語を軸に。終戦時に徹底的に焼却・破壊されたなかでタイピストが密かに残していた「雑書綴」というシンボルを中心に描きます。

いろいろ思うところはあっても命令だから開発し、実験する研究所の男たちと、科学が好きだけれど女性というだけで研究者になれなかったり、あるいは稼がなければいけない女性が和文タイプという技能を身につけてこの研究所で働くのです。とはいえ、ちょっと恋心があったり甘酸っぱかったり、立場が違ったり、つまらない映画を誰かと話したくて職場の男子と話したことを咎められたり、代用コーヒーという日常も見え隠れ。

いよいよ大戦末期、線の細い毒薬の男は石井部隊(731)に、もうひとりは牛疫の伝染の研究に外地に。石井部隊への転属を前に命を絶ったり。

外地に赴任した男が50年を経て中国人とその土地に馴染み、あるいは日本人であることを隠して生きて来た長い年月。訪ねた女性は「雑書綴」を隠して生きて来たタイピストの女性の孫だという映し鏡のよう。

「雑書綴」を持っていた女性、その孫の二役を演じた三浦透子はそのコントラストをきちんと。出迎えた中国人となった老人を演じた大谷亮介が実に歴史を背負ってきた男の穏やかな造型を丁寧に。松村武、森下亮、佐野功といったいわば詩森組の役者の頼もしさ。しかもアラポテ大使となった森下亮のポテチのお土産までついて嬉しくて。

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2022.07.05

【芝居】「バロック」鵺的

2022.6.11 14:00 [CoRich]

鵺的の2020年初演作を早くも再演。 6月19日までザ・スズナリ。配信は7月26日まで。 110分。

初演でも感じたことですが、ともかく序盤はとりわけ逆光ばかりでチカチカして、顔には照明を当てず、誰が誰やらというストレスフルな時間がわりと長く続くことは変わりません。まあ、私の老いつつある眼が理由という可能性も否定できませんが。中盤にさしかかればそれは大きな問題ではないのだけれど、序盤でどんな人物がどんな関係を先に知りたがるワタシにはもう少し見やすさが欲しい感じではあります。

小劇場とは思えないぐらいに立て込まれた舞台セット、あるいは派手な照明、あるいはSF風の味付けなど物語の魅力は変わりません。再演なので、どこを変えたのかと思ったりもするけれどわりと観た芝居を忘れがちな私には正解がわからず。強いて言えば、終盤のあの世、のテーブルでのシーン、初演にはあったかな、と感じるワタシです。

初演からの続投組と今回初参加の役者がだいたい半々ぐらいの座組になっています。 続投組はみな飛び道具のようで魅力的。とりわけ娘たちを演じた春名風花、福永マリカ、あるいは浮浪者を演じた吉村公佑は一度観たら忘れない感じがありありと蘇ります。 初参加組では私が見慣れているというせいもあるけれど、父を演じた中田顕史郎は初演の佐藤誓とはまた違う「軽さ」が魅力的。秘書を演じた小崎愛美理のややコミカルな雰囲気も楽しく。 続投組のもう一人、見えてしまう不動産屋を演じた白坂英晃は本当に私にとって見やすいリズムを作り、あるいはSF的な設定を素早く納得させる説得力がとても頼もしく。

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