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2022.06.28

【芝居】「ふすまとぐち」ホエイ

2022.6.4 14:00 [CoRich]

劇団野の上の旗揚げ作 (1, 2) をホエイとして上演。 物語のベースはもちろん変わらず、東京拠点のホエイでの上演なのか、セットはこれまでの旅公演前提で引っ越しパックに収まる物量よりは大幅にバージョンアップ。きっちりと立て込んでいて確かに見やすいのです。

初演から10年以上を経て、自分が変わったなと思う視点は傍若無人な姑がおそらくは病院のベッドで観ている夢。嫁が引きこもりつつ家事を支えて居るという理不尽な、芝居序盤の場面から時間を遡り、結婚、あるいは息子が恋人を連れて来る走馬燈。最初はとてもいい関係だったのに、どこでボタンを掛け違えたのか、どこでこうなってしまったんだろうとぼんやりと漂い感じ考える感じがとても切ないのです。親が歳を取り、性格が徐々に互いに変わり、関係が変化するということを体験したからこそ感じるのかなぁと思ったり思わなかったり。

2010年版では出戻りした長女の娘、2012年版では今作と同じ嫁を演じた三上晴佳はこんなに理不尽な目にあっているのに時にコミカルに、きちんと生きている人間の造型の細やかさに磨きがかかり。代わって娘を演じた井上みなみはこまっしゃくれた感じで、敏感に家族の雰囲気を感じ取る繊細さ。ちょいダメな長男と親戚の子を一人で演じ分けた中田麦平の振り幅、そしてちゃんと東北のことば。「早起きの会」の一人を演じた森谷ふみは3本の中で最もフレンドリーなのにあからさまに怪しいという人工的なコミカルを感じさせ驚くワタシだったり。

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2022.06.27

【芝居】「花柄八景」Mrs.fictions

2022.5.14 18:00 [CoRich]

Mrs.fictionsの新作は噺家を題材にした近未来SF風味で、しかし外連もいっぱいに。80分。アゴラ劇場。

コンピュータとの対戦に敗れ人間の噺家は絶滅寸前に追い込まれた。ふがいない戦い方に弟子達も見切りを付けて出てしまう。初音ミクのCGによる落語は人気を博し大人気となった近未来。
サバを食べてしかし地獄から舞い戻ってしまう男、家に忍び込んだパンクロックのカップルと拾ってきたストリートチルドレンを弟子にすることにする。

日本風家屋、畳の部屋。それなりに弟子が居たけど人間が破れ落語は大ブームなのに人間の噺家はもうお払い箱という時代の中で、社会からはみ出してるような若者を拾って、なんか楽しげだったり、噺家修行っぽかったりと家族とも単なる師弟ともちがう雰囲気の人々の物語。通り過ぎていく人々、あるいは逝く人、継ぐ人という骨組み。サバ食べて死んだけど地獄から戻ったりという落語の片鱗がところどころにあったり、魅力的なタイトルの新作落語らしいもの(「シド&ナンシー」なんか聴いてみたい)が示されたり、ともかくもそういうタイトルを詰め込んで楽しさ倍増ではあるのだけれど、おそらくはその噺のことを知らなくても、ドタバタだったりコミカルだったり、あるいは侘び寂びっぽい感じの詰め合わせはきっと楽しくて。

噺家であることは江戸落語の風情の暮らし方をしなきゃ行けないわけでは勿論なくて、(そりゃそうだ、プロの噺家だって現代を生きている)、どんな出自でも、どんな人物でも、その人の語りがあれば噺になるんだということが物語をずっと通底してて、楽しく生きてる人々の物語はもう、もしかしたらファンタジーかと思うぐらいに現実の絶望を感じたり(個人の感想です)。

パンクのカップルを演じた今村佳佑、永田佑衣は長屋の働き盛りという雰囲気、徐々に神髄を理解していく成長する人物をきちんと。ストリートチルドレンを演じた(前田悠雅)は魅力的な造型、バカっぽい喋りの中に時々真理を突く与太郎ってことかしらん。ずっと二つ目の弟子を演じたぐんビィは落語というもののルールをさりげなく挟みつつ、物語をガイドする頼もしさ。師匠を演じた岡野康弘は枯れた感じから、若者の熱に当てられて弾けたりする振り幅が楽しいのです。

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2022.06.18

【芝居】「焔 〜おとなのおんなはどこへゆく〜」下北澤姉妹社

2022.5.14 14:00 [CoRich]

見慣れた役者の多い座組ですが、ワタシは初見の劇団。105分。駅前劇場。

臨海部タワーマンションのパーティールーム。いわゆる「お嬢さま」高校ダンス部のOGたちの家族。精神科医の女と事実婚パートナーが住んでおり、それに憧れてOGの友人家族が引っ越してきた。歓迎のため、後輩OGのシングルマザーを呼ぶ。

格差があからさまな昨今、あきらかに「上流」な暮らし向きの一室。事実婚子無しで医者の夫婦はやはりそれなりに豊かで、憧れて引っ越してくる専業主婦と週刊誌記者の夫婦は子供はいるがいわゆる中流で、あるいは子供4人のシングルマザーと若くミュージシャンでギグワークで生計を立てる二人は招かれてはいるけれど、とうぜんここで暮らすことは叶いません。経済的な違いと格差をグラデーションで並べ、さらには結婚のさまざま、子供の有無で立ち位置が変わること含めたグラデーションでいくつもの軸を配して立体的に並べて描く物語。高校時代の仲のいい先輩後輩ではあっても、ここまでのあからまさな格差となると親密とはいきづらい気はするけれど、50歳前後で振り返る女たち、ときにマウント。ぎゅっと濃縮した箱庭のよう。

さらには浮気を疑い疑われる夫婦、略奪婚の過去の因縁のいった愛憎、整形したと告白するマンションのコンシェルジェに見え隠れするルッキズム変わらない現実、週刊誌記者が狙う政治家の公文書偽造やそれに怒らない日本人など、正直にいえば箱庭とはいえこれだけの話題を100分ほどとは詰め込み過ぎな感じは否めませんが、明確な問題意識の発露をベースにした物語のベクトルは強力にぐいぐいと牽引するので、思いのほかとっちらかった印象にならないのがちょっと凄い。

医師の女を演じた松岡洋子のみなぎる自信、憧れる専業主婦を演じた明樹由佳の欲しいものは背伸びしても手に入れる迫力、シングルマザーを演じたみょんふぁのバイタリティ溢れる強さのコントラスト。コンシェルジェを演じた関口秀美のある種のツクリモノ感すらある凛とした造型。 明樹由佳、西山水木といえばの手話「風」のてぶりを交えたジェストダンス、今作では人数の多さも相まって迫力すら。

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2022.06.11

【芝居】「コーラないんですけど」渡辺源四郎商店

2022.5.8 19:00 [CoRich]

渡辺源四郎商店で2016年初演作。 (1, 2) 去年は無観客で配信したもの(未見)をリベンジ上演。10日までスズナリ。

今まで拝見してきたときよりも格段に「戦争」が現実として世界を動かしている現在というだけではなく、為政者はもっとカジュアルに若者を戦場に送り出せるようにしようということばかりしてきたし、私たちはそれを止められなかったという無力感を感じるようになったワタシです。

二人の役者が息子と母親を入れ替わりながら演じるというフォーマットは変わらないのだけれど、男女でしかも体格が大きく異なるなべげんの二人が演じていた2016-17年版に比べ、今作は二人とも男性でしかも年齢も体格もそう大きくは変わらない役者によって演じられていて、経験を積み重ねた巧さはあっても、役の切り替わりがグラデーションのようでやや不明確な印象。母と息子が分化していない一体のものと感じられていて、少々戸惑う反面、なるほど「互いに自分の一部」ということを鮮明にしたのかなと思ったりもします。

若い役者によって演じられた初演の瑞々しさといちがいには比べられないし、現実が変わって笑える話ではなくなりつつあるという戦慄なのか、物語への没入感という意味ではいまひとつ浸りきれない感じではあったりするのです。

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2022.06.04

【芝居】「静寂に火を灯す」螺旋階段

2022.5.8 14:00 [CoRich]

8日まで神奈川県立青少年センタースタジオ HIKARI。第一回かながわネクストのもう一本。105分。

小田原なのになぜか「みちのく製菓」サブレ生産工場の事務室。社長の自宅を兼ねていて取引先や知り合いなども出入りしている。長男は引きこもっているが、ある日、自殺してしまう。

小さな事業所の事務所といった風情の舞台。事務机や応接セット、コピー機やPCなどでリアリティがあります。

日常の小さな組みあわせを人情喜劇風に描く序盤。家族や従業員や出入りする人々の会話の端々に現れるピース語られるのは、長男がごく普通の穏やかな少年だったのに、身内を助けるために傷害事件になったことをきっかけに引きこもっていったこと。後半に至り、唐突に長男は自殺してしまい、残された人々は兄を立ち直らせられなかった自分を責めたりするけれど、しかし兄の見え方ヒトそれぞれで、それぞれが自ら立ち直って行く未来を感じるワタシで、それは人々が悲しみを落ち着かせていく過程なのだと思うのです。たとえば並行して語られるサブレの風評被害からの復活もまた、人の生き死には大きな波だけれど、人々の営みはそれでも続いていくのだと対比して見せるのが巧いのです。

母親を演じた田代真佐美は人々をまとめる力、父親を演じた露木幹也が家事担当という人なつこさと構図の面白さ、出入りの業者を演じた水野琢磨はさまざまに喜劇的な立ち位置をきっちり、兄の同級生を演じた中根道治はその想いを内包する繊細な造型、事務員を演じた岡本みゆきの仕事出来るヒト感がすごい。

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