【芝居】「秘密」劇団普通
2022.4.23 18:00 [CoRich]
劇団普通 (1, 2, 3) の新作。120分。4月24日まで王子小劇場。
父母の二人暮らしの家で、母は入院することになって娘が実家で在宅勤務をすることにして父親の面倒を見ているが車は運転できないのでいろいろ不便もある。兄は子供が居て時々子供や妻を連れて来ていて介護サービスを調べたりもするが自分では背負わない。親戚の夫婦は仕事を辞めて親を介護している。近所の同級生の親が気に掛けてくれている。
この劇団については最初に企画公演で拝見した「告白」があまりに手強くて苦手な印象でしたが、2019年の「病室(初演)」では難しさよりも人々の機微を丁寧に描くように変貌しているように感じて驚いたのです。今作はさらに丁寧に人々を描くということ磨きか掛かったという印象があります。
実家を出ていたけれど、母親の入院の間、一人では暮らせない父親の面倒を見るために在宅勤務などを駆使して実家で数週間同居することを選んだ娘。息子の方はたまに孫を連れてきたりはするしいろいろ調べたりと彼なりに真剣ではあるけれど、あくまでイベント的に支えるだけで日々を支える介護的なことは担わないのです。何もない日常の筈だけれど明らかに老いて頑固さと認知的な歪みが見え始めている父親、入院を経て弱気になった母親、それまでは見えていなかった老いた両親の姿を間近というより身を以て感じ取る娘の、ある種の絶望感が物語全体を覆います。たまにやってくる親戚は仕事を辞めた妻が親の介護を担うことになっていて自分の将来を暗示するよう。
親の介護ということが見え始めた現在のワタシにとっては、今作の今というタイミングが直球で突き刺さります。親本人がどう感じているかはわからないけれど、同じエピソードを繰り返し話すことだったり、たまにしか合わない人にはちゃんとしているように振る舞えたり、近所に住む親と同世代の夫婦は気にしてくれているけれど、本当の助けにはならないと感じることだったり。
終盤、退院してきた母親と少しの間暮らすけれど、入院前は出来ていた食事の支度を億劫がるようになりなだめすかして食事を用意して貰おうとしたり、あきらかに両親揃ったとしても老いのステップが一つ進んでいます。入院前の元通りに戻ることはないのだろうというある種の不穏さ。終幕近くに至り、娘が帰る日、送り出した両親は並んで座っていて時間が過ぎていきます。何もしないままにただ座っているだけで時間が過ぎ、終幕、娘が戻って来るのです。それは同じ日に戻って来たか、あるいは少し経ってからのことかはわからないけれど。
茨城弁の台詞で構成された今作、車が無いと不便ではあるけれど、無くてもギリギリなんとかなりそうな市街地という設定。娘が車の運転ができれば随分違う印象にはなるのですが、そこを丁寧に塞いでいて、ここに戻って両親と暮らすことがどれだけ大変なことかが語られた上で、何もせず座っている両親の前に娘が戻ってくる終幕。言葉は悪いけれど、ある種の絶望感。全体を見渡すと2時間かけて、両親の介護に絡め取られる娘の物語をゆっくりたおやかに、しかし逃げ道は全部塞いで描いている、と読み取るワタシです。
全編茨城弁がわりとフィーチャーされがちだけれど、どうしてもこの言葉でなくてはとは思わないワタシです。とはいえ広い意味での首都圏の過疎地ではないぐらいのさじ加減をこの言葉が絶妙に作り上げています。裏を返せば、いろんな方言のバージョンであってもいいかもしれません。日本中、これぐらいの老いた市街地は本当に沢山あるのだから、それは日本中どこにでも遍在する現在を描いていると感じるのは、自分がその入り口に立っているからかもしれません。
父親を演じた用松亮は序盤からトップスピードで(しかし序盤はあくまでコミカル。これも凄い)、しかし悪意はこれぽちもないイノセントな増デイで逆にこの場所のままならなさを描きます。母親を演じた堤千穂、きっと入院前はこの家を守り続けてきたであろう姿と、入院で弱気になり、退院しても外面は取り繕えても「暮らす力」が衰えたという人物を繊細に、広いダイナミックレンジでしっかり。娘を演じた安川まりは健気といえばそうだけど、途中できちんと気持ちを爆発させる振り幅の見事さ。兄を演じた三瓶大介はコミカルさが勝る役者という印象だけれど、今作ではホントに「普通に暮らす人」を高い解像度で。近所の老人を演じた小野ゆたかがびっくりするぐらい、きちんと老人、だけれど頼りになりそうでならないという絶妙なさじ加減がとてもいいのです。
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