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2022.05.30

【芝居】「親の顔が見たい」渡辺源四郎商店

2022.5.5 19:00 [CoRich]

なべげんの畑澤聖悟が昴ザ・サード・ステージに2008年に書き下ろし、なんどか本公演や新国立劇場(試演会)などでの上演後、海外での上演・映画化を経て2021年劇団での上演予定だったが映像配信のみになった作品、満を持して。6日までスズナリ。

初演がTOPSだったことすらすっかり忘れているワタシです。昴では会議室だった舞台は、キリスト教の学校の礼拝堂のようにベンチ状の座席が舞台を向いていてスズナリに広い空間を生み出します。

現役の教師が書いたのは10年以上前のことなのに残念ながら全く古びない題材、生徒のいじめと自殺という事件に、向き合うと云うより向き合わない親たちの物語。長い歴史のあるキリスト教名門私立の女子校で親やあるいは祖母も通っていたという設定はもしかしたら伝統ゆえに縛られていたかもしれないけれど、伝統ゆえに立ち直れるかも知れないという一筋の希望を感じさせます。

同窓会の会長、教師夫婦、帰国子女のシングルマザーだがやり手、やっとの思いでねじ込むように入学した生徒だったり、あるいは祖父母が来ていたり。それぞれのグラデーション。親たちみなが自分の子供が罪を犯したと納得したうえで会いに出て行ったあとの終幕、教師夫婦が残るシーンが初演にあったか記憶がおぼろだけれど、「これから裁判がある」とむしろ身構えるのは教師という立場ゆえにこの後に起こりうることの過酷さを知っているからこそ。だから向き合うのか、それとも逃げ続けるのかは明確には示されないけれど、ひとたび脱落して叩かれる側になれば再チャレンジが困難だといういじめの構図が、実は親たちがこれから直面するこの国の人々の在り方の映し鏡になっているのだと今さらに気付いて、絶望するワタシなのです。

老夫婦(祖父母)を演じた猪股俊明と羽場睦子の実直できちんと育ってきたというかつての日本の矜恃(という感じ方もこれはこれで一歩間違えば危ないのだけれど)の体現。教師夫婦を演じた佐藤誠・森内美由紀のなべげん鉄板の二人、夫の振り幅目一杯の豹変する感じの凄さ、しかし力強く生き抜く妻の心強さ。同窓会長を演じた山村崇子の傍若無人ともいえるある種のヒール感としての迫力。新聞配達店店長を演じた三上陽永のまっすぐな、しかしどこか後ろ暗さを持ってそうな造型。

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2022.05.24

【芝居】「フェアウェル、ミスター・チャーリー」theater 045 syndicate

2022.4.29 19:00 [CoRich]

第一回のかながわネクスト枠に選ばれた3年ぶりの再演作。 5月1日まで神奈川県立青少年センター、スタジオHIKARI。

映画館を舞台にかつて作られた伝説のカルト映画をリブートする話をベースに、二人の男、一人の女が織りなす物語。初演はどこか勢いで作られような感じはあって、良くも悪くも荒削りで、かつての桜木町駅など幻想的なシーンかと思えば敵陣突破みたいな話だったりと、カッコいいシーンをつなぎ合わせたような楽しい体験だったけれど、今作を見てから振り返ると、物語というよりも予告編だったな、と思ったりするのです。とはいえ、その「予告編」で「かながわネクスト」枠を勝ち取ったわけでたいしたもの。 大型の豪華カジノ船がそのまま大岡川を遡り係留するというのは多分今回書き加えられたシーン。この荒唐無稽さも物語全体の楽しさに寄与しています。映画の「向こう側」が現実世界を侵食しているのだ、という幻想的なシーンの置きどころ、あるいは横須賀に攻め入って果てる三人組といったぐあいに、初演のピースをうまくはめ込んできっちり本編を仕上げたなあと思うのです。

記憶がザルなワタシなので、元々の映画が「別々の未来から来た二人の男が自分の世界を救うために一人の女を取り合う」というストーリーだったかも朧気。それに幻のバージョンとか、ライターが地上げ屋になるなど覚えてないのか、今作で細部を作り込んだかは判然としませんが、たしかに物語の奥行きや手触りというか雰囲気も何倍もパワーアップしています。舞台奥に映写する映画のシーンとおぼしきカットも格好いい。

初演のときとは市長が替わり「とりあえずカジノだけは止めた」けれど、何かすっきりしない、裏がありそうな雰囲気はそのまんまに。なんか映画にしてもそんなアウトローっぽいものも多い印象だったりするこの町の雰囲気を存分に。最近の芝居でも「湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。」とも近しい雰囲気。なんかヨコハマの街の後ろ暗い感じ、繁華街と警察や権力との癒着などモヤモヤする気分を娯楽に昇華するのは、たぶん戦後しばらくの映画の在り方と同じで、その雰囲気を存分に帯びて芝居にするという幾重にもメタな感じも奥行きを感じるのです。

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2022.05.23

【芝居】「幸せの標本」ノックノックス

2022.4.29 15:00 [CoRich]

劇団では何回か上演しているようですが、ワタシは2017年の完全版のみ拝見しています。 RED/THEATERで5月1日まで。作者による「あとがき」が公開されています。 (1, 2, 3, 4, 5)

舞台に土を持ち込んだ舞台でホンモノの樹木でいっぱいの舞台。植物を育てる女、船長と呼ばれる男の他、犬、鳥、とかげといった動物たちが出入りし、会話をするという物語と、舞台奥の生演奏、あるいは水に色のついた液体を滴らしたものを幻灯のように映すという基本のフォーマットは変わらず、劇団のマスターピースを感じさせます。

のんびりとコミカルなやりとりの日常を描きつつ、実は深刻な食糧危機の中最後の望みとなる植物の再生を試ている宇宙船。シリアスな話題だけれど鶏のフンとして葉の花が芽吹くという流れはストレートで実に穏やかな物語の気持ちよさ。

今作に関して云えば、研究者を演じた伴美奈子、犬を演じた藤谷みきという背骨となる二人が2017年と変わらないためか、ワタシにとっては気持ちいい空間の気持ちよさはそのまま。劇場がザムザからREDに変わったけれど、これも意外にしっくりと変わらない空間に仕上げられていて、それはこのパッケージの強靭さを感じさせるのです。

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2022.05.17

【芝居】「グレーな十人の娘」競泳水着

2022.4.29 12:00 [CoRich]

劇団競泳水着としては久々に拝見するミステリー、千穐楽一本前の回に。95分。復活したシアタートップス(THEATER/TOPS)にて。

四人の娘を育てた叔母。長女は子を産み起業で渡米、三女、四女は上京し、今は五女と暮らす。次女は窃盗をしたのに自首していない。 10年後、叔母が結婚するといい娘たち、婚約者の娘たちが集まるが睡眠薬で気を失い、財布がなくなったりする。

刑事コロンボ世代のワタシにとってミステリーはそれぞれの登場人物が切実にしたい行動を起こした結果、誰かが巻き込まれて殺されたり財産が奪われたりという事件が起き、その謎を解くと言うジャンルだと思っています。その立ち位置で今作を観るとミステリーと云うにはワタシにとっては少々物足りない感じ。一番大きな企みをした人とその友人たちによって為されたのだという全体の構造は理解出来るものの、ワタシにとってはその人物がここまで大がかりに復讐のようなことをしてしまう、という切実さが伝わりづらくて、それはおそらく演技と云うよりはもっと切実さが伝わる背景が欲しいのです。

家族が団らんを思い出し取り戻す物語、としてみればそれぞれの人物の細やかさが見えてきたりします。つまりホームドラマなのかなと思ったりします。もちろん女優の芝居を作らせたら右に出るものなしのこの作家、女優たちをあざやかに、それぞれに見せ場を作り見せるのです。

叔母を演じたザンヨウコ、人がよくしっかりした、というこの家族を支えてきたのだという説得力をしっかり。婚約相手の長女を演じた橋爪未萠里の安定感。

ワタシにとっては2009年以来のTOPS( 1, 2)。 本当に数え切れないほど通った劇場でここにまた戻って来れたのが嬉しいのです。裏口っぽいところから階段を上がり、という構造がそのままだったり、客席に昇る階段の位置や客席の傾斜に至るまで本当に懐かしく。さらにトイレがきちんとアップデートされていて劇場の魅力がアップしているのです。駅チカで通える劇場がホントに嬉しくて。

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2022.05.13

【芝居】「安心して狂いなさい」中野坂上デーモンズ

2022.4.24 17:00 [CoRich]

ワタシ的に佐藤佐吉演劇祭のラストを飾る一本。100分、北とぴあ・ペガサスホール

没入感が売りのメタバース。システムの不具合でログアウト出来なくなっていて混乱している。この世界の「住人」たちは不安を抱えながらもシステムの復帰を待っている。開発者やシステムオペレーターなども混じり合って。

沢山の人々が出入りするオンラインコミュニティ、ログアウト出来ないというファンタジー設定(そりゃ、端末の電源切ればいいじゃんと思いがちなワタシ)で混乱したり、混乱しないでぼんやりしたり何かを成し遂げようとする人々。イマドキの芝居でそうそうできない雑踏というかパーティ会場のような雰囲気はちょっと懐かしい感じも。舞台はロビーぐらいの広さの場所に、出捌けの口が多数。多くの人が入り乱れての賑わい感をきっちり。正直に云えば、ワタシの加齢が人々の顔認識能力を低下させているせいか、このアバターの人々が単にシステムのバグの結果そうなっているのか、あるいは単に現実でも変な人なのかが解りづらい気はするのです。が、賑わいのワチャワチャな雰囲気の楽しさ。

物語らしいものはあまり読み取れず、多くの人々が交錯する場を描くことが今作の魅力なのだと思います。ぼんやり見ていると、あれ、この人がこっちに仲良しだったりとかがそこかしこに。わりと記憶力がザルなワタシ、時間が経てばさっぱりと忘れちゃうんだけどw。

終演後暫く経ってから公開された(ですよね、どっかに書いてあったのかしら) 相関図を見ればああそうだと断片を思い出したりします。でもこれ、ライブで観てるんだから、観客としてはその場で読み取りたいけど出来なかったワタシです。

終幕ちかく、頭の中にだけ居る人のモチーフがとてもよい。それは入れ子になってマトリョーシカな感じ。ああそうだ、第三舞台「朝日のような夕日を連れて」を思い出したりするワタシです。

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2022.05.11

【芝居】「秘密」劇団普通

2022.4.23 18:00 [CoRich]

劇団普通 (1, 2, 3) の新作。120分。4月24日まで王子小劇場。

父母の二人暮らしの家で、母は入院することになって娘が実家で在宅勤務をすることにして父親の面倒を見ているが車は運転できないのでいろいろ不便もある。兄は子供が居て時々子供や妻を連れて来ていて介護サービスを調べたりもするが自分では背負わない。親戚の夫婦は仕事を辞めて親を介護している。近所の同級生の親が気に掛けてくれている。

この劇団については最初に企画公演で拝見した「告白」があまりに手強くて苦手な印象でしたが、2019年の「病室(初演)」では難しさよりも人々の機微を丁寧に描くように変貌しているように感じて驚いたのです。今作はさらに丁寧に人々を描くということ磨きか掛かったという印象があります。

実家を出ていたけれど、母親の入院の間、一人では暮らせない父親の面倒を見るために在宅勤務などを駆使して実家で数週間同居することを選んだ娘。息子の方はたまに孫を連れてきたりはするしいろいろ調べたりと彼なりに真剣ではあるけれど、あくまでイベント的に支えるだけで日々を支える介護的なことは担わないのです。何もない日常の筈だけれど明らかに老いて頑固さと認知的な歪みが見え始めている父親、入院を経て弱気になった母親、それまでは見えていなかった老いた両親の姿を間近というより身を以て感じ取る娘の、ある種の絶望感が物語全体を覆います。たまにやってくる親戚は仕事を辞めた妻が親の介護を担うことになっていて自分の将来を暗示するよう。

親の介護ということが見え始めた現在のワタシにとっては、今作の今というタイミングが直球で突き刺さります。親本人がどう感じているかはわからないけれど、同じエピソードを繰り返し話すことだったり、たまにしか合わない人にはちゃんとしているように振る舞えたり、近所に住む親と同世代の夫婦は気にしてくれているけれど、本当の助けにはならないと感じることだったり。

終盤、退院してきた母親と少しの間暮らすけれど、入院前は出来ていた食事の支度を億劫がるようになりなだめすかして食事を用意して貰おうとしたり、あきらかに両親揃ったとしても老いのステップが一つ進んでいます。入院前の元通りに戻ることはないのだろうというある種の不穏さ。終幕近くに至り、娘が帰る日、送り出した両親は並んで座っていて時間が過ぎていきます。何もしないままにただ座っているだけで時間が過ぎ、終幕、娘が戻って来るのです。それは同じ日に戻って来たか、あるいは少し経ってからのことかはわからないけれど。

茨城弁の台詞で構成された今作、車が無いと不便ではあるけれど、無くてもギリギリなんとかなりそうな市街地という設定。娘が車の運転ができれば随分違う印象にはなるのですが、そこを丁寧に塞いでいて、ここに戻って両親と暮らすことがどれだけ大変なことかが語られた上で、何もせず座っている両親の前に娘が戻ってくる終幕。言葉は悪いけれど、ある種の絶望感。全体を見渡すと2時間かけて、両親の介護に絡め取られる娘の物語をゆっくりたおやかに、しかし逃げ道は全部塞いで描いている、と読み取るワタシです。

全編茨城弁がわりとフィーチャーされがちだけれど、どうしてもこの言葉でなくてはとは思わないワタシです。とはいえ広い意味での首都圏の過疎地ではないぐらいのさじ加減をこの言葉が絶妙に作り上げています。裏を返せば、いろんな方言のバージョンであってもいいかもしれません。日本中、これぐらいの老いた市街地は本当に沢山あるのだから、それは日本中どこにでも遍在する現在を描いていると感じるのは、自分がその入り口に立っているからかもしれません。

父親を演じた用松亮は序盤からトップスピードで(しかし序盤はあくまでコミカル。これも凄い)、しかし悪意はこれぽちもないイノセントな増デイで逆にこの場所のままならなさを描きます。母親を演じた堤千穂、きっと入院前はこの家を守り続けてきたであろう姿と、入院で弱気になり、退院しても外面は取り繕えても「暮らす力」が衰えたという人物を繊細に、広いダイナミックレンジでしっかり。娘を演じた安川まりは健気といえばそうだけど、途中できちんと気持ちを爆発させる振り幅の見事さ。兄を演じた三瓶大介はコミカルさが勝る役者という印象だけれど、今作ではホントに「普通に暮らす人」を高い解像度で。近所の老人を演じた小野ゆたかがびっくりするぐらい、きちんと老人、だけれど頼りになりそうでならないという絶妙なさじ加減がとてもいいのです。

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2022.05.05

【芝居】「未明の世界」GHOST NOTE THEATER

2022.4.23 15:00 [CoRich]

ギャラリーを舞台に小川未明の童話のリーディングにすこし動きを付け、生演奏を付けて上演。60分。4月23日までスペース&ギャラリー弥平。

北の海に住む人魚は人間の生活に憧れ、子供だけは人間のもとで生活させたいと陸に産み落とす。子供の居ない老夫婦がその人魚を拾い神からの授け物だと思い育てることにする。成長した人魚は老夫婦が商う蝋燭に絵を描き、それを持った船乗りは災難に遭わないという噂が立ち大人気となる。それを聞きつけた香具師は老夫婦を説得し、人魚を連れ去ってしまう。「赤い蝋燭と人魚」 (青空文庫)
金儲けの上手な男は、不幸を訴える物に金を恵むようになると、つぎつぎと押し寄せるようになり、キリがないと考えてきっぱりと金を恵むのを止める。世間からの非難を浴びるようになった男は町を逃げ出して船に乗り、人の勧めで静かで平穏な町にたどりつく。「船でついた町」 (青空文庫)
寒い冬の夜、星たちが地上をみつめている。貧しい親子の家で寝ている子供は夢を見ている。夜明けが近づいているころ、子供たちが起きて親の手伝い、働き始める。「ある夜の星たちの話」 (青空文庫)

不勉強にして知らなかった小説家・童話作家の小川未明の三編をリーディング。特徴として挙げられるらしい人が死んだり、町が滅びたりといった少しばかり不穏な物語もあったりしてなかなかハードな短編。

「〜人魚」は信心深い老夫婦が人魚を育てるがしかし、目先の金に目がくらみやがては町が滅ぶほど人が居なくなるという物語。子供の頃に聞いたらかなり印象に残るだろうなぁと思うワタシ。蝋燭の明かり、波の音を思わせる道具を使い、ゆったりと語るリーディングで生まれる静かな空間で語られる物語の奥行き。

「〜町」は都会の何事も競争になる雰囲気と対比して、のんびりした平穏な町は開けてないからこうなのだ、というのは少々牧歌的に過ぎる感はあるし、都会の上流階級ゆえのバイアスめいた視線を感じたりもするけれど、すこしばかりの悪意どころか、むしろ持ちあげる気持ちでこういう物語を描いていた時代なんだなぁと思ったりもします。

「ある夜〜」は夜中から夜明けまでの時間、空の星からの視線で寝ている町が少しずつ動き始める時間帯をズームアップしたり、引きの画で見たりを繰り返して描く物語。特定の教訓めいたことというよりは少しばかりの感想を挟みつつ、あくまで天からの視点で情景を淡々と描く、もっとも映像っぽく感じる一編。

家からはわりと近所のギャラリー。晴れた日に散歩がてらにふらりと訪れるのはちょっと嬉しい時間だったりもします。

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【芝居】「放課後、ミドルノート」route.©︎

2022.4.16 16:00 [CoRich]

ワタシは初見の劇団です。90分。4月17日まで王子スタジオ1。

中学校。クラスには人気者と無視されたり馬鹿にされたりしているグループ。ウサギが殺された事件はなんとなくクラスで馬鹿にされている女子のせいだと思われている。カースト上位にいるかなえとクラスでは目立たなかったユキはウサギに石を振り下ろした秘密を共有し友だちになる。一緒に喫茶店に行っても同じ物を買うことが出来ないユキは、かなえに600円のフラペチーノを買っても怒られない男の人と結婚して大きな家に住むことを夢見てバージンロードを歩くまねごとを繰り返す。かなえは父親を殺すと約束するがそれが果たせなかった日、ユキは裏切られることには慣れているといい姿を消す。
何年か経ち同窓会でユキがAVに出ていると噂になり盛り上がるが、かなえは乗れない。それぞれに仕事をしていて漫画家になったりアパレルで忙しくしていたり。恋人も居るし、結婚を考えている。敷かれたレールの上に乗っただけで手に入りそうな幸せ、幸せになれなかったらと考えたりもする。

シンプルにパイプ椅子とテーブル風、奥にはカーテン風の白い幕、風船が飾ってあったりとどこかカワイイを意識した雰囲気。前半は中学生のころ、残酷にスクールカーストがあるクラスでしかし、上位カーストに紛れ込んだ貧しく父親からの暴力を受けている少女は、男の人に殴られない、ということと大きな家という幸せのアイコンを夢見ていて。後半はその友人だった女を中心に。敷かれたレールの上にいるだけで幸せが約束されていそうで、しかし幸せになれなかったらという気持ちがなんか気持ちのあちこちに入ってきたりして。

香水の最初の香り(トップノート)から暫く経ってからの香りである「ミドルノート」をタイトルに。生まれてからしばらく経っての思春期から成長し結婚するぐらいまでを描いた今作はその時期をミドルノートと称して。前半の不穏であきらかに不幸な女、後半にはほとんど登場せず終盤にニュース音声で「50歳の男を刺した」として、おそらくは中学生で姿を消したあのときから幸せになれないままの人生であることが示されます。物語の視点は、その友人の方で、不穏な気持ちや揺れ、だけれどワタシはここに居る、という雰囲気の物語、なるほど女性の人生の一端を瑞々しく切り取るのです。

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2022.05.04

【芝居】「夜ふかしする人々」戯曲本舗P

2022.4.16 19:00 [CoRich]

戯曲のブラッシュアップを目指す創作団体の企画公演。夜の人々という共通軸の短編三本。 4月18日まで小劇場メルシアーク神楽坂。100分。

毎晩団地を見つめる見慣れない男に管理人の男が声をかける。浮気調査に来ているのだという。以前団地に住んでいたが女と別れてから旅に出ていて時々ここに戻ってくる男も居合わせて。「浮遊している、俺ら」(水中散歩 / 美崎理恵)
吹きさらしの荒野の夜。寝袋のような袋を傍らに置いた女。友と待ち合わせるためやってきた男、杖に導かれ道を探してやってきた女。「アンフォルム」(戯曲本舗 / サカイリユリカ)
通夜、通夜振る舞いも片付き静かになった祭壇を前に故人の娘が親と話をする。「機種変更」(Sky Theater PROJECT / 四方田直樹)

「浮游している〜」はあんまりパッとしない中年男たちの、過去の繋がりとパッとしない今の自分語りというフォーマット。別れを経験したりしてそれなりに酸いも甘いも重ねた男たち。引きこもっていた過去から人から必要とされることに喜びを感じる、というのはたとえばサラリーマン定年後の設定でも通用しそうな幅があります。あるいは旅をし続けている男というのは無頼なカッコイイ男の感じ。探偵の男は時に詩的に「夜を味方にして」というベースをさりげなく折り込んであって、これが終盤、夜の「さまざま」が見えているということに繋がっていて、短編の物語として綺麗な着地点に至るのが巧い。

「アンフォルム」は物語の設定も人物たちの造型も相当にハードコアでなかなか手強い感じ。「人骨の入った寝袋に寄り添う女」はなかなかに受け入れづらい主人公ではあるのだけれど、やってきた二人との会話のなかで浮かび上がるのは、生まれたときに傍らにあった人骨がたったひとつの他人との繋がりのよすがで、それを他人から母だと言って貰えれば信じられるかもしれないという支え。二人が去った後に支えを失ってしまうようでなかなか終幕までハードな一本。

「機種変更」、いい話に見える(けれどまあ芝居としてはどこにでもありそうな)通夜の親子の穏やかな会話という序盤から中盤にかけてくるりとひっくり返すのがとても見事。その後の理不尽とも言える親子の会話の応酬は時にパワーゲーム、時にドタバタコメディ、時にすれ違いまくりの疲弊するような会話だけれど、とても見応えのあるパワフルさでぐいぐいと引っ張ります。心ない言葉がぐさりと刺さったりもしつつ、しかし亡くなった家族のことを想う夜の歩み寄りに至る終盤のソフトランディング。終演後のトークショーによれば、終幕の「おつかれさま」はそこから更に数年後のもう一人の親を亡くした後の一言とのことなのだけれど、その前と時間も空間もひと繋がりになってる感じがしてやや判りづらく感じるワタシですが、なるほど巧い。

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2022.05.01

【芝居】「リディキュラブ」南京豆NAMENAME

2022.4.16 14:00 [CoRich]

この前この劇団を拝見したのは、2020年の佐吉祭以来。110分。王子小劇場。

地方で付き合っていたカップル、男が上京して彼女のことなど忘れてパーティ女を連れ込んだ日に配達に来たのはバンド活動のため上京したものの売れないまま時間が経った彼女だった。一緒に暮らすことを決め、女はバンドを辞め、男は仕事を辞めてお笑いを志したり姿を消したりしても女は待ち続ける。そのパーティ女をずっと見守る男がいる。

夢を持ちあるいは夢破れて都会の片隅で暮らすカップル二組の物語は昭和か、というぐらいにセピア色に見える世界。ダメな男と一途ゆえに巻き込まれて人生の長い時間を棒に振りながら、次に進もうとしても結局は苦労する道を選んでしまう女。あるいはいわゆるパーティに興じていたカップルの女が余命を宣告され人からどう思われようとバカップル(死語ですかね)で居続けること。物語だけ聞くとふたつともハッピーエンドには思えない物語。

それでも、終演後の感じは馬鹿馬鹿しくも強く生きていくという力。それはボーナストラックのようなアラスカ旅行のシーン。新婚旅行で訪れ、しかし熊に襲われるなかでのなんか歌い上げるパワフルさ。熊のカップルを演じるのがパーティのカップルの役者でなんか力強さと馬鹿馬鹿しさが同居するパワーを感じるのです。

上京したカップルを演じる今井未定、藤本康平のあちこちぶつかりながら前に進んで行く力強さが印象的。バカップルを演じた赤猫座ちこ、板場充樹の哀しさやバカっぽさの振れ幅から生まれるデフォルメがちょっといい。バンドの女を演じた田久保柚香の後輩風情とか、真っ直ぐに先輩を思う気持ちの細やかさ。

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【芝居】「イン・ザ・ナイトプール」コンプソンズ

2022.4.9 14:00 [CoRich]

120分。王子小劇場。初見の劇団です。座付きの作家が書かない、という4連作。

公演で酔っ払って倒れている男、見ている女。その友人の女と久しぶりに出会う。離れていた地元に母親の看病のため戻ってきていた。一緒に戻ってきた恋人は治安が悪いと女の地元を見下している。「ホットライン」(脚本・演出 宝保里実)
花見をしている幼なじみのイノセントな男女。あるいは女に告白したい男。男が告白しようとしたら、互いの「好きです」が4人全部ベクトルがバラバラで。「confession」(脚本・演出 細井じゅん)
荒川線の車内、乗ってきた男が無賃乗車を咎められ、男を刺す。未来から来た女は男を助けようとするが、失敗が続き、この場面をずっとループしている。「走光」(脚本・演出 鈴木啓佑)
行方不明の座付き作家・金子は激昂して炊飯器に封印されているという。封印を解くために劇団員たちはアラスカへ向かう。「東京」(脚本・演出 大宮二郎)

「ナイトプール」というキーワードを含む共通点をもちつつ、雰囲気はずいぶん異なる4本。初見の劇団なのでコンプソンズらしさはわからないけれど、さまざまな芝居がぎゅっと2時間の楽しさ。

「ホットライン」は。地元にずっと居る女と地元に居づらくなり離れた女の10年ぶり、夜の公園での偶然の再会を軸とした会話劇。10年ぶりに訪れてもぼんやりした町に仕方なく戻ってきた女、連れ帰ってきた恋人もなんか冴えない感じなの含めてのいろいろ負け帰ってきた感じ。 久々の再会の二人が友だちというか共依存という雰囲気で続く会話の不穏さが持ち味。酔っ払って寝ている男と、地元にずっと居る女も近所の単なる顔見知り以上の何かを感じさせてここにもまた何かの共依存が。蹴られて反撃しようとした酔っ払い、反撃された彼氏が呼んだ警察が連れて行くのが彼氏というのも、この地元の雰囲気を匂わせつつ、物語の区切りとしても巧い。地元に居る女を演じた宝保里実の内気そうに見えて実はなんか強い感じ、地元に戻ってきた女を演じた星野花菜里のややヤンキー感の対比が印象的。

「confession」(告白)は、ガムを呑まない方がいいと注意し合ったりというあまりにイノセントなカップルと、恋人になりたい男と告白される女のバラバラのベクトルの告白に至る序盤という物語の世界をあっという間に作る初速の凄さ。会話してるはずなのに、かみ合わないこのバラバラが、全員がボケ突っ込みを重ねて会話で物語を紡ぐのではなく、空気感を醸し出すだけという力技の思い切りのすごさよ。短編だからこそ成立するという感はあるけれど、巧いなぁと思うのです。イノセントな女を演じた忽那文香がともかく目を引く静かなズレっぷりが凄い。

「走光」は、タイムリープの繰り返しというSF風味。ある問題を解決するために未来からやってくる設定じたいは枚挙に暇が無いほど多くの物語が創られていて、それを無限に繰り返すというのもそう珍しいわけではないけれど、サウンドクラウド(という音楽サイト)しか存在しなくなった未来でそこに残っていた、有名人でもなんでもない作曲者を救うために、別に何でも無い未来の人物が救いに来るというカジュアルな感じがちょっと面白い。曲を聴いて踊る女の姿はそれに重なり合ってちょっとセンチメンタルな感じで。同じシーンを繰り返すことで「人々の気持ちが劣化していく」といういう視点を持ち込み、それゆえに人を刺すことを諦めてしまうというループの終了になるのがちょっと面白い。その中で運転手と車掌がダブル不倫してるという話は明らかに巻き込まれたサイドストーリーなんだけど、こちらはループを抜けた先に修羅場があるということでそれもちょっと面白く。

「東京」は今回表には出てこない作家を探す劇団員たち、封印を解くために裏カジノで儲けアラスカにと言った具合にドキュメンタリーと銘打った、破天荒でデタラメな物語。いちばん大事な思い出を消すことで封印が解かれるという仕掛けで語られる、劇団員との友情だったり、温泉旅行の思い出とか。学生時代の一夜の夜遊び(の象徴としてのナイトプール)、卒業後も続いてきた悪ふざけという語り口。解散を謳うけれど、まあ次回公演も載ってるから、逆にこれは続けることの覚悟を宣言という雰囲気。

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