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2022.03.27

【芝居】「家族のカタチ」タテヨコ企画

2022.3.5 19:00 [CoRich]

3月6日までシアター風姿花伝。そのあと大阪で20日まで。

ブラジル人住人も多い古い団地の一角にあるこども食堂。古くからあるスナックの常連たちが中心に、隣の元飲食店のスペースを使って営まれている。高齢化が進んで町内会のイベントも難しくなりつつある。進学で町を離れた女が恋人を連れて久しぶりに訪れる。ここに三人の親がいる、という。

一人の娘から母親と呼ばれる三人の女と、別の一人の息子から母親と呼ばれる女を軸に描きます。いわゆる産みの親を知らずに育った娘が結婚を前にルーツを探ろうという気持ちが物語の原動力。その子育ても一筋縄ではいかなくて、育てていた娘を置いて渡米してしまった女、その母親と同居していたシングルマザーがその跡を継いで育て、そして渡米していた女はパートナーを連れて戻ってきて。そして娘は母親に会うことができる、という終幕はそれぞれの女たちにとって未来につながる希望と成長の物語なのです。それは娘が結婚によって親になる一歩を踏み出すこのタイミングだからと感じるワタシなのです。

もう一組の親子の物語はたまたまここで住むようになった男は産みの親を探しているけれど、相手は乗り気ではなくて。が、偶然顔見知だと知ってしまうという話なのだけれど、三人の母親の物語に巧みに挟み込まれる周到な伏線を伏線をスルスルと織り上げるのです。

ピアニストを演じた舘智子はお母さん、という雰囲気の説得力。その母親を演じた辻川幸代もどんと構える安定感。シングルマザーを演じた牛水里美は三人目の母親というよりは歳の離れた姉のようで厳しいこともきちんという造形。ピアニストのパートナーを演じた西山竜一は街の顔役というしっかりした人物を。娘を演じた福永理未はしっかりと成長した次の世代の女性像で未来を描くよう。婚約者を演じた加藤和彦は人のいい感じがとてもほっこりと。シングルマザーに恋心抱く先生を演じた村田与志行はなかなか言い出せない感じのちょっと情けない中年男の雰囲気がとてもいいのです。現在のスナックのママを演じた久行志乃ぶのコミュニティを支える一人という人物に説得力があります。その息子を演じた、まえかつとは実の母親を知ってしまう瞬間の瞬発力。ブラジル人を演じたミレナは町内会の次世代の担い手という力強さ。NPO代表の女を演じたあさ朝子、安心できるこの場所を作るというプロデューサー的な、できる女の雰囲気が実に良くて。

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2022.03.19

【芝居】「ジャバウォック」肋骨蜜柑同好会

2022.3.5 15:00 [CoRich]

肋骨蜜柑同好会の新作は、怪獣被害をめぐる人々に透け見える現在に相似のファンタジー。110分。3月6日まで楽園。

突然現れた大きな鳥のような怪獣。異臭を放ち、ある程度の距離に近づいた人は異臭が感染する。それ以上の被害も死者も出ていないが、正体も生態も掴めないまま二年が経っていた。異臭の感染は時間が経つとなくなる症状が多数だが、たった一人、最初の目撃者で感染した女はこの二年異臭から回復しないまま入院療養をしている。

市役所の職員たち、小説家になりたい記録する若い男、神社の娘、実体がわからない縦割り行政の隙間に鳥獣駆除業者として入り込もうとするヤクザたち、感染者の女が大家として持っていた家に住んだ元大学教授、研究者をめぐる物語。

異臭対策のマスクと突然現れ、制御のしかたがわからない恐怖の対象の怪鳥。序盤で描かれるのはその混乱が二年続き新しいノーマルが日常となった日々で、コロナ禍の現在を重ね合わせるよう。怪しげな科学者や利権を狙うヤクザの登場はどこか俗っぽい日常の延長の雰囲気をまといます。

中盤で現れる「常世(とこよ)の設計図を書き換える」ことによって現れる怪物というSFめいた設定もまたメッセンジャーRNAの延長線上のように思われるけれど、徐々にそれは一人の孤独な男が一人の女に思い入れた結果だというファンタジーがぐんぐんと現れます。 獣害対策の役人の女の家に伝わる矢じり、ヤクザの娘が弓を放つという神事で雲散霧消する怪物と孤独な男の切なさ。それまでバラバラに見えていた人々が奇跡のように繋がっていく終盤はゴジラのようでやけにカタルシスがあったりするのです。

怪しげな科学者を演じたフジタタイセイは怪しさ満点で物語に説得力。ヤクザの娘を演じた永田佑衣は神事を担う凛とした説得力。役所の室長を演じた吉田覚は困らせられる人の良さ満点。研究所研究員を演じた安東信助もまた怪しいのだけれど、膨大なセリフが物量で説得力。

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2022.03.11

【芝居】「純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて」アマヤドリ

2022.2.20 16:00 [CoRich]

アマヤドリの新作。ずいぶんと久々に拝見しました。2月27日までシアター風姿花伝。105分。 似顔絵付きの相関図がありがたい。

妹は結婚相談所の職員の女に恋心を抱くが、彼女は愛情を抱かないアロマンティックだという。 姉は男の恋人がいるが、ポリアモリーを自認し、おなじポリアモリーの男とその恋人の女で一緒に暮らすことを提案するが、ポリアモリーでない人々にはそれが受け入れられないいっぽう、不倫の恋人がいたり、片想いしてきている童貞男につれなかったり。

ポリアモニーの二人、アロマンティックの女という「少し一般的な恋愛観とは異なる」三人を軸に、それを巡って振り回されたり寄り添ったりあるいは何か隠し事をする人々の移ろいを描きます。それぞれの人の特性の境界領域の軋轢を描くけれど、衝動的というよりは理性的な会話がベースになるのは作家の特性、と感じるワタシです。

正直にいえば、ワタシにとっては少々要素を入れすぎた結果セクシュアリティを総花的に描いていて、ワタシにとって作家の強みである鋭い視線が弱いと感じるのです。

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2022.03.03

【芝居】「あいついつまでもやってる」トローチ

2022.1.23 15:00 [CoRich]

2020年4月の上演予定だったものを同じキャストでバージョンアップして公演。1月30日まで赤坂RED/THEATER。

立ちゆかなくなりつつある予備校。経営は生涯学習を掲げ大人向けスクールに軸足を移しつつあるが、予備校全盛期に使われていたときのまま残っている講師室はそのまま残っているが、講師たちの仕事は少なくなっていて、別のスタッフとして働いていたりする。
社員の家族向けのファミリーデイイベントの委員として選ばれたスタッフ達はやる気がないが、最近設備補修のスタッフとして雇われたシニア採用の男はヤケに熱く、巻き込こまれていくスタッフたちはかつての教え子を思い出す。彼は勉強にはやる気を見せないのに6浪してずっと通っていて、みんな彼の事を覚えている。

代ゼミが校舎を集約するというニュースを目にしたのはいつのことだったか。それを反映したような現在と、盛況だったかつての時代を重ね合わせ、いわゆる「お騒がせ」な生徒や職員を軸にして描きます。かつては講師だった人々もスタッフに替わっている職員も多く「くすんだ」日々を送っているのだけれど、その「お騒がせ」な人物が現れ、インパクトがかつて賑わっていた時代を思い浮かべるばかりでなく、くすんだ日々を過ごしていた人々それぞれに彩りを感じるようになるのです。それは「ファミリーディ」という一日の出来事でしかないかもしれないけれど、確実に何かが変わる、つむじ風のような「おじさん」の存在が楽しくなるのです。

6浪の受験生だった彼を諦めているような、諦めていないような母親の存在がまたとても良くて。同一人物というわけではないはずだけれど、ファミリーディに年配の母親を呼ぶことを目標にしていた彼が当日休んだということ、それは母を亡くしたということ切なさ。

お騒がせな受験生もしくはおじさんを演じた辻親八のイノセントな雰囲気、しかし実はちゃんと芯は通っている人物の造型の奥行きがとてもよいのです。母親を演じた柿丸美智恵はずいぶん時間が経ってから現れる人物だけど、一瞬でかっさらう存在感。翻弄される事務員を演じた菊池美里は得意なキャラクタの安心感。講師を演じた山口雅義の一癖も二癖もな雰囲気が楽しく、かつての英語教師を演じた小林さやかが弾けるファミリーディが楽しい。

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