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2022.01.18

【芝居】「vitalsigns」パラドックス定数

2021.12.19 15:00 [CoRich]

パラドックス定数の新作。深海探査艇の救助に向かった潜水艦の中での5人の会話。110分。12月28日までサンモールスタジオ。

救難信号を受けた救助艇が深海調査艇に向かう。無線での通信はできるが、言葉の雰囲気に違和感を感じつつ、3人のクルーを救助する。彼らは体温が異常に低く、声での会話をせずにコミュニケーションがとれているようで、人間でない何者かになってしまっていることを感じ、陸に連れ帰るべきかを悩む。

潜水艇を思わせる半球状の骨組みに、簡素な設えのベンチというシンプルな舞台。助けた三人が人間でない何者かになってしまっていることを感じ取り、あるいは救助に向かった側の一人も中途半端ではあるけれど何者かになってしまっているというシチュエーション。徐々に、海底から噴出した熱水に混じっていたバクテリアが人体を乗っ取ったというSF風味の骨格はあるけれど、作家が描くのはそのサスペンスではなく、あくまでも理解を超えた異者を目の前にしたときに感じ対応する人間の姿を、実に細やかに。どこかウルトラセブンを思わせるような見応えのある会話劇なのです。

異物である三人の側も慣れない身体を持て余し、あるいは人間という異物を目の前にして警戒するという、両方の視点があることをきちんと誘導するのがとてもよいのです。そこをスタートにして恐怖、理解、憐れみや差別といった感情のグラデーションな変化、あるいはそれがないまぜになった混乱した心を描くことで「自分は何者なのか」を見つめ直すように観客を誘います。終幕、低い体温ゆえに人ならざるものだということはすぐにわかってしまうけど、せめてそれを長引かせようと軍手を渡すシーンが印象的。長い時間一緒にいたから自分たちも同じようになってしまうかもしれないある種の恐怖や諦めを抱えながらも、駿河湾沖に再び出て行く二人、希望と絶望がないまぜになったよう。

リーダを演じた西原誠吾の感情の変化の振り幅と細やかなグラデーションが見事で物語の背骨になっています。クルーを演じた神農直隆は「半分だけ変化」のどうにも中途半端な立場のコミカルさを纏い、二人の丁々発止が実に楽しく、救助された三人を演じた植村宏司、堀靖明、小野ゆたかの間にあるグラデーションと合わせ、濃密な会話空間をつくりだします。

史実を下敷きにした隙間を描くのが巧い作家だけれど、幾つかある彼女の完全オリジナルな物語の中でも、コロナ禍の中で上演されることで、人々の分断とか、いつまでもなくならない差別の物語がきちんと届くし、この作家を追い続けたいと思うワタシです。

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