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2021.12.30

【芝居】「老いと建築」阿佐ヶ谷スパイダース

2021.12.5 13:00 [CoRich]

阿佐ヶ谷スパイダースの新作。なぜか地元のKAATではなく、ずいぶんと久々のまつもと市民芸術館小ホールで。コロナ禍以来、初めて関東圏外へ脱出しました(ワタシが)。135分。大千穐楽。

大きな家。年老いた女が一人で暮らしている。中央に座る大きなテーブル。足が弱り二階三階にあがらなくなっていて、一階で暮らしている。夫のアトリエだった部屋を留学生に貸して家を維持してきた。その命日だと集まる人々。娘は滅多に寄りつかなかったが夫とは別れ、母の介護に通うようになり、息子は自由で若い恋人を連れてきたりする。

三世代の人々、住んでいる老婆(=「わたし」)の夫(=「あなた」)の命日前後を物語の主軸に据えてはいるけれど、同時に舞台に居る役者たちが同じ時間の人物というわけではなく、家の中と外の境界も曖昧で、観客は時間も場所も境界がぼやけて振り回され溶け合う感覚。

時間軸順にむりやり並べて見ると、妻と夫はこの家をどうするか建築士に相談して暖炉と薪ストーブで言い争い、安心だと思っていたら夫の浮気が発覚し、夫の死後にその仕事を継げたとは云えないけれど不自由なく暮らし、娘と息子を育て、それぞれに自由に暮らし、あるいは孫が訪ねてきたり。この物語を細かいピースに分割してシャッフルすることでこの家にまつわる事実、関係、雰囲気を徐々に観客に開示していくという手際が実に見事だと後から感じるワタシです。

同じ家にずっと居て、しかしもう入らない部屋があったりするという家の中の薄暗い場所のように、これまでの人生の影が重なりあい、ところどころ、不意に見え隠れすることがシャッフルの効能。 老婆の視点が中心になるけれど、ときおり娘や孫の視点に変わるのはちょっと面白い。短いとはいえない上演時間だけれど、さまざまな枝葉が丁寧に描かれることで醸し出される重厚さを生むのです。

娘が夫と別れるいきさつも、もう一つの物語。忙しすぎて家族を顧みない夫が娘だけは溺愛しすぎる事で芽生える不安。それをくみ取り娘を弟に預け、母親(老婆)が決断し夫と浮気をしたことにして別れさせること。何を最優先に考えるかのそれぞれの視点がぐるぐる回るのです。

歳を取りつつあるワタシはそろそろ切実になる介護のあれこれが身に迫るのです。親子だけでは成り立ちづらい会話をヘルパーという第三者が入ることで話がまとまる感覚だったり、家に取り付けられた手すり(役者が棒を水平に持ち、手すりになるのは秀逸)を頼りに歩くようになる母親の姿だったり、それなのに介助を嫌がる感じだったり。断絶状態から介護のために通うようになった娘が母親の手を取る終幕は巡り巡って着地する安心なのです。

阿佐ヶ谷スパイダースだからの安心な役者陣。弟を演じた富岡晃一郎は記憶力が薄い(ワタシは勝手に親近感w)けれど、押さえるところは押さえていつつふわふわと生きる感じが絶妙。若い恋人を演じた木村美月との切実な生き急ぐ感じのバランスも面白い。語り部というわけでもなく、見守る人として機能する建築家を演じた伊達暁は作家の視点を担うようで丁寧で安心。別れた夫を演じた(作家も兼ねる)長塚圭史は物語後半の圧倒的な悪役を担う責任。母親を介護する娘を演じた志甫まゆ子も実に説得力のある造型。

ワタシにとってなにより印象的なのは老婆を演じた村岡希美なのです。初めて拝見したのは「カラフルメリイでオハヨ97」の頃で、若くスピード感のある役者という印象だった彼女だけれど、今作では身体は弱っていてもきっちり考えて決めて行く老人を説得力を持つ役者になったという感慨。そりゃ四半世紀にも届けばワタシも彼女も変わるのは当たり前ではあるんだけど。

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2021.12.28

【芝居】「TOKYO LIVING MONOLOGUES」DOLL-COLORED POP

2021.11.27 18:00 [CoRich]

11/28までSTUDIO MATATU SHIN-OCHANOMIZU。 劇場内にはスマホなどで無数に仕掛けられた配信カメラを観客もZoomに参加して映像や音を聞く体験込み。90分。

客席を囲むように四つの部屋。配信部屋の女は焼肉したりザワークラウトのAMSRしたり。乙女部屋の女装男は会社員で大量のサービス残業、会社に電話したけど。本部屋の男は国粋主義あるいはネトウヨで信じ切っていて。ゴミ部屋の女はエロ配信的なこと、ぬいぐるみが孤独を癒やし、知り合いの男が訪ねてきたりする。

それぞれが自分の部屋に居て日々の営みをする人々。陰謀論ばかり目にして日本人が貶められてると思い込む人々のエコーチャンバー。 「号令が聞こえる」ということを拠り所にしてその日に備え続け、練馬の焼肉屋では芸能人と政治家が児童を搾取しているという「噂」で襲撃に盛り上がる人々。

引きこもりを続けていると、何か同感したものに関したものをフォローしつづける結果、全世界が自分とおなじ感覚を持つという錯覚を見事に描いています(私は意識的に絶対わかり合えなそうな人を(少しだけ)フォローするけれど)。一人で消費するコンテンツとしてのAMSR配信を耳に入れたイヤホンで聴くのも楽しい。

私が観た回のキャスト。 本部屋あるいはネトウヨの男を演じた大原研二は、迫力が凄くて、いろいろマッチョを信じる信念の造型。 配信部屋の女を演じた大内彩加、大量の食べ物、いい匂いなど手数の多い役だけれどAMSRの楽しさは彼女のおかげ。 乙女部屋の男を演じたホリユウキは、私の席からは観づらいポジションだけど、黙々と作業を続けて、できあがったモノを纏う熱量をきちんと。 ゴミ部屋の女を演じた湯舟すぴかは家の中がこんなでも、力を貰う存在のおかげで頑張る前半、後半は不穏に扉の外に飛び出し、血まみれで戻るというわりとショッキングなシーン。切実な想いを抱え続ける人物像がきちんと立ち上がるのです。

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2021.12.23

【芝居】「カナリヤ」日本のラジオ

2021.11.20 18:00 [CoRich]

2015年初演(CoRich)の2020年5月再演の中止を経て、1年半ぶりの再演。私は初見です。80分。11月23日まで駒場アゴラ劇場。取材ノートと名付けられた物語世界そのままのカラーの当日パンフ付きがすばらしい。

母の食事に毒を盛り、観察し続けていた少女が医療少年院を出たとき、「ひかりのて」の幹部となっていた兄は教団内部に妹を匿うが、妹自身は教団の教えに忠実ではないものの、そこで暮らしていた。新たな出家信者、広報、怪しい小包を運ぶやくざ風の男、取材といって出入りするオカルト系ライター。

オウム真理教の史実を骨組みに世間から隔絶されつつある教団の広い部屋を舞台に描かれる物語。パンフはその前日譚からさまざまな背景を補強していて、この教団が三人の幼なじみが立ち上げ、三人はそれぞれに幹部となっていて、様々を経て大きくなった戸惑いもあったりということがわかります。この場所を作った一人は、前科を持つ妹を匿うように暮らしていて、その薬物の能力が緩やかに教団につながり、しかしテロ事件を起こした薬物はまた別のもののようで。

教団を骨組みにしながら、物語を貫くのは幹部の兄と匿われる妹、それぞれの想い、とりわけ兄の想いとして感じるワタシです。想いがあるから匿うし、その能力を直接にはつかわないという想いの深さ。それまでは教団のいわゆる「手かざし」をしなかった妹が終幕にはもう帰って来られないことを感じ取って行うというのも丁寧な描き方なのです。

信者を「アンダ」、外部の人間を「アウタ」と呼ぶような造語も教団ぽさを補強します。

兄を演じた横手慎太郎は妹を想いながらも教団の存続を優先しようとする造型の説得力。妹を演じた沈ゆうこはのほほんとしているように見えてしかし持っている能力とそれを使うことにためらいがないという人物をきっちり。広報局長を演じた田中渚はきっちりスーツ姿、正直に云えば体型ぴっちりでなんか凄い。取材者を演じた安東信助は軽口を叩いて物語の序盤を私たちの視点から繋げるブリッジを。

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2021.12.16

【芝居】「IN HER THIRTIES 2021」TOKYO PLAYERS COLLECTION

2021.11.20 14:00 [CoRich]

「一人の女性の十年間を住人の女優が演じる」スタイルで、20代半となる「~TWENTIES」( 2011年 2013年 2020年は配信で視聴) の続編。2014年に大阪のみで上演された30代版を東京初演。ワタシは初見です。2011年版で20歳、2020年29歳の役を演じた榊菜津美が企画し30歳を演じることも評判の80分。11月21日までサンモールスタジオ。

出版の仕事を続けている女。30歳になった。異動先の上司に振り回され、独立する同僚からの誘いを断り大手の転職を勝ちとったものの、疲れ切って仕事を辞め無職の日々を過ごしたり、フリーランスで働き始めたり。この30歳台、恋はあんまりなかったけど、遠距離恋愛の彼と別れた頃に仕事で出逢って飲み会帰りに二人きりで延々と(清澄白河から調布まで)歩いた男の事が忘れられない。

舞台奥に上手端の30歳からゆるやかな弧を描いて下手端の39歳という形、無関係な二つの「時(場面)」を重ね合わせて会話のように見せるメリハリなど「~TWENTIES」と同じフォーマットの上に、20歳台に負けず劣らずに激動の、しかし年月を経て手に入れた人脈やスキル、あるいはある種のタイムリミットに焦ったりというグラデーションを描きます。

正直に云えば、役者がどの年代に振り分けられたかによって強弱が付く感じは変わりません。とはいえ、別のシーンの相手役の声など、役者それぞれに作演がきちんと配慮しているようにきちんとフックアップしているように感じられる舞台の空間にはワタシは心地よいのです。 (芝居を見るだけの筈のワタシで内部事情をする由の演出と役者の関係を云うのもどうかと思うけれど)

恋心とか、傷ついた心などを俯瞰できるようになった年代。あるいは仕事のスキルを得て、次の場所を探す物語のラインは50を過ぎたワタシにも響くのです。枠組みが変わって上司が替わってストレスを感じて辞めたりも聴いたりする昨今だから響いちゃったかとは思いつつ。

どうしても見慣れた女優が固まる後半の印象が強くなってしまうワタシです。 37歳を演じた工藤さや(@kudou38)、いわゆるプー太郎状態で自分を褒められないけれど、しかし「休む」ことの重要さをコミカルきちんと描き出します。38歳を演じた石井舞(@mai_141)、39歳を演じたQ本かよ(@qmoto) はあのとき断った同僚の活躍を羨む気持ち、しかしこの30歳台を総括し次に進む希望をきちんと。

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2021.12.12

【芝居】「コロナにまつわるホントどうでもいい話」チャリT企画

2021.11.7 18:00 [CoRich]

コロナ禍で作家が感じた点描という雰囲気の小品集。11月9日まで新宿眼科画廊。60分。12月18日まで配信中

11年経ってコロナ終息したけれど、咳したり味や香りを無くした人ほどマスクを早く外す。
♪コロナ、コロナコロナ とさまざまな節回しで
大会の前、陽性者が出て大会に出られない部活。誰が陽性者だったか。
向こうの部屋で咳をしている老人が居て、子供が救急車を呼ぼうというが、母親は取り合わない。

出演した女優がスタッフと話している。いままでに比べてギャラが多すぎる。スタッフは給付金があるので適切な金額を払うという。

「マスクを早く外す人々」の話は感染症の対策というよりはそういう雰囲気だからとマスクを着けたり外したりという人々。反知性主義とまでいうと言い過ぎかもしれないけれど、咳や味覚など明らかに問題抱えてる状態なのに周りの雰囲気が大丈夫そうだからマスクを外す人々の違和感。「節回し」はテレビテーマ曲やCM曲はては国歌まで耳馴染みの節に合わせてコロナの三文字を繰り返し載せるというワンアイディア。何かの批判ではなく、これだけ人の口に上る言葉なら人々の会話の端々にあったかもしれないシーンを切り取るよう。「陽性者の出た部活」は大会に出られなくなること、しかし個人情報を盾にその集団内部でもリンチになりがちな陽性者の特定をさせないのも理解出来るけど、でもなぁ。というもやもやした気持ち。「救急車」はまあ嫁姑の確執みたいなブラックな雰囲気。コロナ禍だからというわけでもない話ではあります。

おおきく5つの物語だけれど「演劇と給付金」にまつわる物語は小さなパートに分けられ他のパートの間に挟まり繰り返されることで、今作の幹となり作家の問題意識を感じます。小劇場演劇はわりと速い段階で給付金支給のための枠組みやノウハウが集積されたように思うけれど(twitterのタイムラインにそういう人が多く、外野から見てるだけの感想ですが)、「うまくやった人々 」の普段の活動に見合ってるのか、みたいな 違和感。今回の給付金のあれこれよりも、これまでの行政と芸術活動の関係の積み重ねが踏み込み不足のまま続いてきたということの発露でもあるよう。

一本の大きな話を構成するには少々小ぶりで、とはいえ今この瞬間を切り取る「ふざけた社会派」を標榜する彼らにとってはこのタイミングを逃すわけにはいかないという雰囲気のオムニバス。

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2021.12.06

【芝居】「ファクト・リ」げんこつ団

2021.11.7 15:00 [CoRich]

結成30周年の記念公演。120分。11月7日まで駅前劇場。

社長そのものの肉体と文字通り一体になっているという会社の工場で大爆発が起こる。 生産部長は何かをひた隠しにしている。行員たちのちぎれた肉体の断片が語りだし、本社から派遣された調査隊はすべてを悟るエキスパートで、工場長が隠している本人の知らないことすらわかってしまう。工場で作られていたものは何もかもゼロで、それなのに大量の小麦粉が仕入れられている。

「30年分の過去作品を木っ端微塵に解体し、そこに転がるあらゆる部品を、今の此処にこそ新構築する最新作!!」という謳い文句で、なるほどディック・ブルーナや粉塵爆発、気力発電や正気税などぼんやり覚えてる断片がたくさん。 工場の物語の軸があるおかげで実は見やすくて、そこに枝葉がいっぱいあるようでお祭り感すらあって楽しい。かつてはハゲ頭のおじさんたちに扮した彼女たちというエンディングだったけれど、そういえばそのネタは無くて、エンディングはスタイリッシュでパワフルなダンスになっていてより洗練されてるのもちょっとすごいなぁと思ったりもします。 何を笑いにしていいか、ということがアップデートされたりアップデートされない層と軋轢をうんだりというここ30年、もちろん彼女たちが作る「笑い」もきちんとアップデートが進んでいてもう二度とできないネタがあったりするんだろうなと思ったり。

観始めたころは劇場の冷房の効き方がすごくて、ワタシの想像ではプロジェクターを冷やしたくてそうしていたのだと思うのだけど、ここしばらくはそんなことなくて年齢を重ねたワタシにも優しい彼女たちの舞台が30年続いたことを言祝ぐ気持ちでいっぱいのワタシなのです。

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2021.12.03

【芝居】「廻る礎」JACROW

2021.11.6 19:00 [CoRich]

吉田茂の評伝劇。120分。11月11日まで座・高円寺1。当日パンフや用語解説集を公式サイトでPDF公開しています。 吉田茂は外交官から選挙に挑む。総裁と目されていた鳩山一郎の公職追放で首相の座に着く。憲法発布からサンフランシスコ平和条約、さらに総辞職までの日々

田中角栄三部作( 1, 2, 3, 4, 5) とゆるやかに繋がる(狩野和馬、林竜三、佐藤貴也、土橋建太が同じ役で出演)ようにその前の時代、間違いなく戦後日本を形作ったものの一つとしての吉田茂を描きます。ぼんやりとは知っているけれどワタシの生まれる前の時代、戦時中から戦後にかけての時代、外交、憲法、天皇のありかたなど、さまざまの「礎」がここを起点してるんだなぁと感じるワタシです。その上でいわゆる安保を受け入れ、押しつけ憲法という自民党のありようもココが起点になるのだなぁと思ったりするのです。

吉田茂と体型とはちょっと違う雰囲気の谷仲恵輔はある種のダンディさをきっちり、ワタシにとっては彼の新しい造型。松谷天光光を演じた 江口逢や山口シヅエを演じた駒塚由衣は結果として社会運動に繋がる女性参政権の萌芽を同じ舞台に乗せることで時代をきちんと描く一翼を担います。

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