【芝居】「フタマツヅキ」iaku
2021.11.3 13:00 [CoRich]
iakuの新作。11月7日までシアタートラム。120分
開店休業状態の還暦近い落語家。近所のギャラリーの管理人はしているが、仕事らしい仕事はしていないが、若い頃からずっと妻が働き支えてきた。親らしいことをしてくれない父親を嫌う息子もアルバイトから介護の仕事に就くことを決めているが、同じバイト先の幼馴染が寄せる好意への反応は鈍い。
男が務めるギャラリーはかつて小さな劇場でお笑いライブが行われていて、男はそこに出演する芸人だった。劇場を閉じたあと、オーナーは父から受け継いだ劇場を閉めギャラリーとしていたが、ほだされて男を管理人として寝泊まりも許している。ある日、男のもとに、元の仲間から介護施設での慰問落語の話が持ち込まれる。
雑居ビルの屋上で所在なさげな女に声をかけたのは、ビルの中の小さな劇場でお笑いライブに出演していた芸人だった。ライブに誘われ、女は通うようになる。
柳家小三治という噺家が亡くなり、その「初天神」をテレビで観た翌日の観劇に因縁を感じずには居られないワタシです。マクラが特徴的だというのもどこか繋がっていたり。本編ではマクラばかりが巧くて噺はほとんど出来ないという設定なのは違いますが。
いちおう噺家ではあってもモノにはならず、芸人時代に出ていた小さな劇場が閉館して劇場主の娘がオーナーとなり開いたギャラリーに半ば温情で管理人としての職を得るどころか寝泊まりしてしまう日々。かつての夢を追い続けるとか、まだ心の中に残っている熱意といえば聞こえはいいけれど、諦めて次に行くことも出来ず積極性の欠片もなく、若い頃のものの残り火が消えていくに任せる男と妻、息子を軸に進みます。男と妻が出逢ったお笑いライブの過去と行き来しながら進む物語を回る舞台で効果的に、実はスピーディに場面を切替えながら実に見やすいのです。
もう芸人として立つ舞台はないと半ば諦めていた男に持ち込まれた慰問落語、表向きはたいした興味がないようにいいながらそれなりに気負って挑み、マクラは何とかなっても本編に入ろうとしたところでしくじって舞台を逃げてしまうシーン。それなりの年齢を重ねた男を主役に据えた物語なのに作家は逃げてしまう情けなさという造型をもってほろ苦く、容赦が無いのです。しかし息子と二人で演じる「初天神」はこれから先がいい方向に変化する予感を感じさせます。
落語家を演じたモロ師岡は年齢を重ねた男のほろ苦さと、でもどこか軽薄さも併せ持った芸人という造型のリアリティ。息子を演じた杉田雷麟 は純粋な若者を眩しく。妻を演じた清水直子は夫と息子の険悪とも言える関係の中で家族を維持しようという強い意志をしっかりと。息子の幼なじみを演じた鈴木こころ、ギャラリーオーナーを演じたザンヨウコは息子と男への淡い恋心と口に出せない気持ちと、しかし軽口を叩く関係性という相似形、この二人の女性の直接の関係はないのだけど不思議と物語のバランスをとっていて。弟弟子を演じた平塚直隆は、芸人ではあってもちゃんと営業して生きていく術を持っている地に足を着いた感じが、二人の芸人の立ち位置のコントラストを表すよう。若い頃の夫婦を演じた長橋遼也、橋爪未萠里は初々しさから恋人、生活を共にしていくという時間のグラデーション。若い頃にはちゃんと時間が進んでいた二人というのは確かに若い役者がやることによる説得力。
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