【芝居】「或る、ノライヌ」KAKUTA
2021.9.25 17:00 [CoRich]
KAKUTA、15年振りの劇団員のみでの上演という新作。160分(休憩込み)。愛知県で初日を迎え、東京・すみだパークシアター倉で10/5まで。その後配信(も終わってしまいました。感想遅くて恐縮至極)
探偵を辞めた女は住んでいるマンションを引き払い探偵事務所だった部屋に寝泊まりしている。その雑居ビルに妻が居る恋人の家で飼われていた犬が繋がれているのを見つける。メモには預かって欲しいことだけが書いてあり行方がわからない。会社にも出ておらず、自宅にも戻っていない。
女の兄は2014年の大晦日の夜、新宿の街中で会社の不正を大声で叫びながらで全裸で暴れていて、妹である女が引き取ることになる。同じ大晦日の同じ雑踏で血まみれの男は同郷の女と久しぶりに出会う。
行方不明の男は札幌に居るらしい事を突き止め、女は犬と元の助手、兄と共に車で北へ向かう。
元探偵の女の不倫の恋人と、北海道から上京した男が都会で再会した同郷の女、行方の解らなくなった二人を別々に探し札幌へ向かう流れを軸に、出会い、別れる人々を描きながら、独りであること、あるいは人と暮らすようになることを点描しながら、時に哲学的なことを言ったりする犬たちを併走させて物語を進めます。
雑居ビルのある街角という場所の雰囲気を説明する台詞ではなく、音やあるきまわわる人々、漏れ聞こえる会話という膨大な手間をかけて描く序盤。時間は長くなりがちで、そのわりに物語に寄与する情報がそれほど多くなるわけではないけれど、映像ならワンカットで示せるけれど、演劇でこう描くという決心。あとから考えるとコロナ禍の今から見れば懐かしささえ感じる風景が立ち上がるのです。
長めの上演時間なのに、観ているときに油断すると置いてきぼりを喰らうような濃密さが同居する物語で、軸となる人物はもちろんあるけれど、むしろ海外の連続ドラマのように何人もの人々それぞれの人生を丁寧に描く作風である最近の作家です。折り込まれるのは会社の不正の告発、時間が経ってもあまり変わらない被災地、カルト集団に囚われた肉親を救い出そうという人、あるいはそれを見守り支える人々。声高に最新の話題というわけではなくて、何時の時代でもあり、現在もあることをきちんと背景に敷き詰めるのです。
いくつかのシーンがとても良いのです。札幌から上京する二人が大晦日の東京で再会し弁当を作って貰う関係になったりしたところから、映画、クラブとデートをしていく一連の流れはそこだけでミュージカルのようでうっとりするぐらいにワクワクするのです。あるいはクルマで北海道に向かうロードムービー風から海岸で出逢うトラックドライバーの女の一連の流れ。あるいは民泊した家の家族の温かさ、夫を亡くし言葉を失った妻を気遣う人々、森の中で迷子になり不安に苛まれる犬など。もっとも、この見応えのあるシーンを山ほど入れた結果、上演時間の長さや油断するとどこに物語が向かうか解りづらくなる、ということもあるのだけど。
物語の着地点、ワタシは「奇跡は起こらない」と感じたのです。いわゆるハッピーエンドではないけれど、戻るべき所に戻ったり、収まるところに「填まって」っていったり。札幌まで探しに来た二人は当初の目的は達せられなかったけど、次のステップにすすんでいったり。象徴的なのはカルトから救われた筈の妹は自分の意思で戻ってしまうこと。放浪していた犬は「ママ」の元へ戻るとか。正しい道なんかなんかなくて、なるようになるしかなくて、何かが起こり変化する人々を、きちんと丁寧に描くのです。
被災地で拾われた犬を演じた谷恭輔がいわゆる「子供の視点」で物語を眺めるイノセントさを可愛らしく。元探偵の女を演じた桑原裕子は周囲が見えず目的にひた走る珍しい役。北海道から出てきた男を演じた森崎健康は挫折から幸福を何スイングもする翻弄されてもきちんと歩む人物をきちんと造型。元探偵助手を演じた細村雄志は中盤までの物語を牽引する重要なアンカーとなるポジションをしっかり。
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