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2021.10.11

【芝居】「ズベズダー荒野より宙へ‐」青年座

2021.9.19 14:00 [CoRich]

休憩15分、180分。20日まで。トラム。 第二次世界大戦後、ソ連。東西対立の中ドイツ人ロケット研究者たちを強制収容し、ナチスドイツの進んだ技術を吸収し自らのロケット開発を進め、世界初の人工衛星、有人飛行とリードしていったが、アメリカは月着陸で先頭に立つ。

宇宙開発競争の初期トップを走っていたソ連の「中の人」たちの物語。初の有人宇宙飛行に成功したガガーリンこそ有名だけれど、死ぬまでほとんど名前が表に出ることの無かった人々、とりわけ、プロジェクトのトップ・セルゲイとエンジンの開発トップ・グルシュコの確執を含んだ関係を核に、ナチスドイツの科学者を得てキャッチアップしトップになってもそれが色あせていく日々を描きます。

物語の冒頭はドイツのロケットをコピーしたソ連製ロケットを見つめるドイツ人とソビエトの科学者たちのぎくしゃくした感じからチームになって走り出していく時期。東西冷戦、ソ連にとっては軍事と同時にオリンピックと同様に国威を見せつけるための道具としての宇宙開発という時代を経て、レーニンからスターリンの粛清の時代を経てフルシチョフが宇宙開発自体に意味を見出し、政治が原因となった二人のトップの仲違いをとりなそうと努力したりという人間臭い人々を細やかに描く後半が圧巻なのです。とりわけ、些細な手術の失敗で命を落としたセルゲイをガガーリン、フルシチョフが遠くより見守るシーンの細やかさ。史実の隙間に創作をするりと潜り込ませる作家の真骨頂の一つなのです。

おそらくはどちらの陣営も相当に無理をした宇宙開発。衛星を飛ばすこと、ライカ犬を飛ばすこと、有人飛行をなしとげ、しかし同じドイツ人科学者でありアメリカに渡ったフォンブラウンの力で急激にキャッチアップしつつある米国を引き離すべく二人乗り宇宙船ヴォスフォートに三人乗せるために宇宙服なしで飛ばすこと、月の裏側をやっとの思いで撮影し、しかし月面への着陸は成し遂げられず。経済的にも厳しくなり宇宙開発に関してはアメリカ一強の時代へ。技術者・科学者としては月面着陸や火星探索すら夢見るロマンを持ちつつ、そして沢山のアイディアを持ちつつも実現し得なかった「人間」たちを描くのです。

セルゲイを演じた横堀悦夫が落ち着き払う造型、まさに宇宙開発トップでチームを率いる大黒柱の説得力。人間戦車ことフルシチョフを演じた平尾仁 がともかく人間くさく、愛らしさほど感じてしまうのです。分厚い年齢層の役者陣を抱える青年座だからこそできる重厚な布陣。ワタシは子どもの頃に宇宙開発の様々を夢中になって読みあさった世代ですが、東西冷戦の時代、ソ連に関してはスプートニクからライカ犬、ガガーリン頃までは知っていても、それ以外の殆どは今から思えばアメリカの宇宙開発ばかりでした。そんなヴェールの向こう側をのぞき見る楽しさを持ちつつの人間たちのドラマの迫力なのです。

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