【芝居】「山中さんと犬と中山くん」うさぎ庵(渡辺源四郎商店)
2021.9.5 14:00 [CoRich]
80分。元々は春風舎の予定を(公演を中止したコマを使って)アゴラ劇場に変更。大きく三つのパートで構成。9月7日まで。配信あり。
1)犬を預かって帰宅した妻。テレビを見ている夫に声をかけるが、あれ、誰だろう、私は誰だろう。
2)短編5つ。a)女の家に通う男と連れらていく犬、些細なきっかけで通うのを止めて半年が経ちもう一度訪ねてみるが現れたのは老婆で、しかし骨付きの唐揚げの味は一緒だと犬だけが知っている。b)輪廻転生局で待つのは犬を希望する面々で、使役犬なら犬種が選べるといわれるが皆愛玩犬を希望して納得しない。c)女房をとった大工が家に戻らず心配した女房にあの日と同じ犬が現れる。d)ガラス箱の中で目覚め兄弟たちは去って行ったが気がつけば一人ガラス箱の中、辞める店員が引き取る。e)劇場に居着いた犬は俳優に恋をして神の思し召しで人間になるが、シェイクスピアの書いた台詞しか話すことが出来ない。
3) (中山くんの縁談は再演)
ほぼ素の舞台、山中さんから犬を預かった夫婦の話、犬にまつわる短編5つ、堀部安兵衛こと中山くんの話で構成。間には丁寧な消毒や換気をこまめに。
「山中さん〜」の話は妻が別の男に入れ替わったり、隣の山中さんだと言い張る夫だったり、あるいはセリフの少ない役に変わりたいと言い出したり。生活での夫と妻をあたかも芝居の役のように入れ替えるちょっと不思議なスケッチのような短編。あきらかに混乱はしているけれどみなが穏やかでちょっと遊んでる感じすらするので、物語を楽しむよりは役者たちの「遊び」を眺めるような楽しさがあります。預かってきた犬を演じた西川浩幸、犬といえばキャラメルボックスでのスヌーピー役が印象的ですが、こういう素朴な喋らない役での独特な感じの健在を久々に拝見するのもワタシ的楽しさ。
短編は、椅子を5脚で役者がスタンバイ、場所を入れ替わりながら一人の役者が立ってリーディングというスタイル。
たとえば浮気相手の女が少し合わない間に老婆になってるが同一人物と犬だけが独特な味付けの唐揚げで気づいてたり、犬への生まれ変わり希望の混乱の中で役者のロボットが望んだ転生のことだったり、戻らない大工を待ち続ける女の傍らの犬の話だったり、ペットショップで売れ残り続けた子犬の話だったり、俳優に恋してシェイクスピアのセリフだけ喋れるようになった犬の話だったり。こちらもそれぞれの不思議を併せ持つ寓話のような短い話。作家のオリジナルなのか、それとも原作があるかは知らないけれど、役者の口調や間合いのちから。
「中山くんは〜」は堀部安兵衛が堀部家に入る前を描く創作。噂が噂を呼ぶ高田馬場の決闘から取り立てて貰える人生のあるポイントをコミカルに。武士でいる意味、終わらない仇討の輪廻などそうまでして武士で居続ける意味をちょっと問い直したり。初演とはずいぶん役者の年齢もキャラクタも変わってる気はするけど、これもまた役者が変わると芝居の印象が変わるという感じ。
全体を通して観ると、正直に云えば稽古場の様々な実験の蔵だしと言う感じは否めません。が、たとえば最初のふたつは、どこか不思議な小さな物語のそれぞれがこれからの物語の萌芽になる雰囲気はあって、成長が楽しみで。再演の一本は雰囲気が随分違っても、これもまたバリエーションの一本になると思うのです。
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