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2021.09.22

【芝居】「湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。」KAAT神奈川芸術劇場

2021.8.28 17:30 [CoRich]

新たな芸術監督を迎え今年度より導入されたシーズン制の最初のテーマは「冒」の幕開け。 130分、9月12日までKAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ。ちなみに、読みは「みなとよこはま・あらぶるいぬのさけび、しんそう、さんにんきちざ」

横浜の小さなホテル。出入りするヤクザと悪徳警官たち三人。みなとみらい地区で行われた博覧会で悪徳警官とヤクザが作った五億円の行方がわからなくなって数年後。警官は息子も警察官になり、昇進を控えてあの時のことを精算したいと考えている。三人の誰かが持っている筈なのだけど、行方は解らない。

三人吉三は2014年に観ていて、そのときもかなり複雑な物語と感じていたワタシです。横浜生まれの作家・野木萌葱、まあ何かと評判の悪い神奈川県警のヤクザっぽさとヤクザ、そして大金が動いたであろう横浜博という枠組みで物語を組み立てます。元々の三人吉三では「三人の吉三」が差し違えることが終幕となる物語だけれど、今作ではさらにその親たち(ヤクザと悪徳警官)という二階建てに。差し違える親の世代と舟に乗りこの小さな世界を抜け出す若者たち、そして親の悪行を引き継ぐ舎弟たちという終幕は、終わる過去があっても閉塞が続く今、しかし開ける未来を望むように感じるアタシです。

ホテル・鯨楼を舞台にして、町のことを清濁併せて知り尽くす年老いたマスターと、メイド姿で撃たれても生き返る「ヒトガタ」の存在は、この小さな世界を観ている二人の視点は、年老いて何もかも知っている視点と、生まれ変わるたびに新たに学習していく若い視点の対比になっていて、親子の物語の相似形にも見えたりするのです。

正直言えば、無料で配役を知る術がないのは劇場を背負う演目なのにあまりにけち臭いし、初見の俳優の名前を知る術を奪うという意味で俳優にも失礼に思います。紙を配るのがリスクだというなら、終演後に壁に貼るなり、劇場のwebページに記せば良いだけのこと。有償のパンフは見応えあれど、これも配役表が一箇所になっておらず、あまりに見づらいのです。

【追記】
9/8昼時点では、パンフ売り場の隣に配役表を貼りだしていたとのコメントを頂きました。ワタシが気付かなかっただけ、かもしれません。
というわけで、配役表を勝手に記します。

  • 悪徳刑事たち
    • 玉城裕規 (柄沢純/和尚吉三) 息子 キャリア警察官
    • 渡辺哲 (柄沢正次) 父 地元横浜の所轄警察官
    • 筑波竜一(新井淳史) 中堅の所轄警察官 警官を辞めてまっとうになろうとする
  • 切れ者ヤクザたち
    • 岡本玲 (弁財瞳/お嬢吉三) 娘 売人の元締め 晶を売人として雇う
    • 山本亨 (弁財三郎) 父 切れ者ヤクザ
    • 若杉宏二 (奈良郷統介) 舎弟 跡継ぎになろうとするが娘が跡を継ぐと知り裏切るか
  • 不器用なヤクザたち
    • 森優作 (矢部野晶/お坊吉三) 息子 札幌からやってきた。やはり不器用
    • ラサール石井 (矢部野光男) 父 不器用ヤクザ
    • 伊藤公一(竹野克哉) 舎弟 なかなかうまくいかない
  • まわりの人々
    • 村岡希美(行山由香子) 晶・瞳の母親
    • 大久保鷹(人形師) ホテル・鯨楼を経営
    • 那須凜 (ひとがた) 撃たれても生き返る

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2021.09.12

【芝居】「丘の上、ねむのき産婦人科(A)」DULL-COLORED POP

2021.8.21 18:00 [CoRich]

ダルカラの新作は子供を産むことについてカップル達の物語の短編で巡る120分。元々の性別によって演じられる(A)と男女を入れ替える(B)で。ワタシは(A)を。8月29日までスズナリ。そのあと大阪。配信は9/26日まで。

地方の町の産婦人科の待合室に集う人々、それぞれの物語。
19歳のカップル、町を出たい女、収入が十分ではない二人は産むかどうかを迷う。
大手企業の管理職の妻と家事を担う夫。妊娠でもギリギリまで働きしかし、子供のことも心配で。
大企業の部長である夫、二回り以上年下の専業主婦。ファミレスに集う友達たちとオンラインでお茶会を。体調は悪く家事もできないことを負い目に感じていて。
飲食の男、プログラマの女。結婚するかどうするかをずっと議論する。こんな時代に子供を産むか、ブライダルチェックを受けたりもする。
コロナ禍の中、共働き会社員の夫婦ふたりとも在宅勤務の日々。出かけたい気持ちを語り合う。子供を産んだらどこに出かけられるだろう。
45歳の医者の妻と作家の夫。不妊治療の日々、タイムリミットに焦る、人工授精を決める。
1971年、工場で働く夫。妻は親戚からの妊娠の圧力、妊娠すれば粉ミルクや帝王切開をよしとしない圧力が更に。

19歳から45歳までさまざまな年齢、さまざまな属性の男女を妊娠や出産という断面で描く事で今の日本で妊娠が、あるいは女性が社会の中でどういう状態になっているかを誠実に描きます。若者は収入に不安がある現状から抜け出そうとしても妊娠がそれを阻むことになったり、バリバリと働く女性が出産して仕事を離れると舐められるという強迫観念だったり、専業主婦という立場で何一つ不安がないように見えても、自分を殺して生きていくことの辛さだったり、今この時代に子供を産むことがいいのかと考えることだったり、子供が居ると行動が子供中心になっていくことのちょっと寂しい気持ちだったり、子供を望んでいてもそうならなかった焦りだったり。

更には過去の日本での夫婦の姿を描くことで、実は今も亡くなっていない母親に対する同調圧力、お腹を痛めた出産や、いわゆる母乳神話だったりという根深く変わらない今を描くのがとてもいいのです。更には最後の場面ではどんな年齢でも男女を問わずでも子供を授かることができるようになる未来を希望として描くのです。現在のさまざまを面として描き、過去と未来を直交させて描くことで何倍にも厚みを感じるのです 。

ワタシは(A)を観たけれど、男女入れ替えた(B)ならばもっといい意味で誇張しデフォルメされてメッセージが強くなるような気がします。いわゆるダブルキャストでステージ数を稼ぐのはあんまり好きじゃないワタシですが、これは両方観るべきだったと後悔したりするのです。(まあ配信観ればいいんだけど)

いわゆるバリキャリを演じた湯船すぴか、序盤で妊娠する姿すら仕事にしてしまう貪欲なしかしクールビューティな感じがとてもよく合っていて。体調がすぐれない専業主婦を演じた大内彩花のゆるふわ服から突如全く印象の違う服へのダイナミックな変化と格好良さ。不妊治療する夫婦を演じた木下祐子・塚越健一の穏やかなしかしキリキリと高まる感情を持つ妻と見守る夫は夫婦こうありたい、というよさ。

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2021.09.06

【芝居】「ガムガムファイター」佐藤佐吉演劇祭実行委員会(佐藤佐吉賞Reborn)

2021.8.14 13:00 [CoRich]

2016年初演作の5名編成から9名編成に変えての公演予定でしたが、1名の降板をへて8名で上演。90分。王子小劇場。 戯曲デジタルアーカイブでも原作戯曲が公開されています。

もともとは登場人物5名、主役の四十男とその姉、ラブホテルの若者アルバイトとその姉、つきまとうおばちゃんの霊という役者の夫人だったのだけれど、今作では四十男、アルバイトと姉、つきまとうおばちゃんという核の人物四人に絞り込み、残りの四人の役者で様々な人物を描写するように構成されています(降板前はどういう構成の予定だったかは気になります)。なるほど、人数が居ることは、例えばその場の空気感や周囲の音を、人々という存在を描き出すことの意味を感じるのです。

四十男を演じた安東信助がやけに説得力があるのは、ワタシがファンに過ぎるという気もしつつ。若いアルバイトと姉を演じた鈴木研、小川夏鈴、ひっそりとしかし明るく暮らす二人の家のありかた、近くのデパートという名の大きめのスーパーへ出かける三人のシーンはホントに泣くアタシなのです。亡霊となったおばちゃんを演じた井内ミワク、初演とは違うベクトルの人物を造型していて目が離せないのです。

箱馬を使って上演するスタイルの劇団の初演に比べて、今作は壁のように立って可動の二枚のパネルという演出の違いも楽しいのです。

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2021.09.04

【芝居】「ザ・シェルター」ベイサイドリーディング

2021.8.7 15:00 [CoRich]

横浜ベイサイトスタジオでリーディングをする実験室公演、ワタシは初見の北村想の1980年代作品。73分。コロナ禍の中、真っ暗にはしないで空気の流れを作りつつという上演が安心の劇場です。(小さい規模だからできるけれど)

会社で作っている核シェルターの販売に先立ち社員の家の庭に仮設したシェルターで家族が3日を過ごしてレポートを送ることになる。社員である夫、その妻、娘、夫の父親の4人家族の実験が始まる。

40年以上前から繰り返し上演されている戯曲。再び核戦争があるかもしれないなか、しかし発売前のモニターで社員がシェルターを試し、地下にこそ埋めてないけれど、コンピュータの誤作動で扉が開かず、水も無くなって家族がちょっとパニックになって、しかし日常に戻るというやや牧歌的な距離感も時代を感じさせるのです。しかし、その物語が古びているということはありません。

モニターという実験に巻き込まれる家族たち、時間をどうやって潰すかに戸惑う時間、突然の停電にややパニックになる夫、しかし花火のためのロウソクが使えると機転を利かせる祖父(核爆発の後ではシェルター内で酸素を消費するのがいいかはともかく)など、家族が助け合うという構図は台風の思い出になるのです。ファミリードラマに着地する物語は、人々が会いづらくなってる今だから安心が嬉しいのです。

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