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2021.08.22

【芝居】「コメンテーターズ」ラッパ屋

2021.7.22 17:00 [CoRich]

ラッパ屋の新作。7月25日まで紀伊國屋ホール、そのあと北九州。配信もありましたが、終了。100分ほど。

稼いではいるものの、実家の子供部屋で暮らす35歳の息子がblogで語る父の話。
サラリーマン退職後、暇を持て余した父はYouTubeを始め、居酒屋でのオジサン話よろしく世間のことを喋ったりするうち人気になりテレビのワイドショーにコメンテーターとして呼ばれる。

いあわゆるワイドショーを構成するコメンテーターたち。生放送ではあるけれど、台本を配り(番組前に回収し)、コメンテーターたちのキャラクタ立ち位置を予めある程度決めておいて始まる、プロレスというと言葉は悪いけれど、その人の背景とアングルで構成されるという枠組み。コメンテーターとして求められる立ち位置ゆえに、ホントに思っていることと乖離していく感じ。ほんとにそう思うことを言うのか、思ってることとは別の「マスクした」顔がしゃべることという「役者たち」なのだ、ということなのです。

キャラクタを際立たせた人物できちんと喜劇に。語り部となる瓜生和成はその中で自然体での説得力。 五輪直前のこの時に五輪とコロナを巡る旬の話題を交えて風刺的でもある一本、とても魅力的なのです。

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2021.08.16

【芝居】「trust」serial number

2021.7.18 12:30 [CoRich]

日本初のバイアウトファンドを舞台にしたhedgeシリーズ三部作の最新作は独立した一本として140分。7月19日まであうるすぽっと。

インサイダー取引で金融庁の調査を受けてから数年、持ち直してきたバイアウトファンド。激しい競合状態のPHSの業界二位の会社が勝ち抜くための戦略を進める大きな事案を進める中、代表の一人は商社勤めの友人から持ちかけられ、フェアトレードコーヒーの会社の立ち上げの相談に乗る。

hedgeで始め、insiderで波乱を経て力を取り戻しつつある会社。通信事業者という大きな事案を受けるようになっているけれど、一方で社会の問題を解決するために資金が必要な人からの声を聞き、規模は小さくてもそこに必要な資金と続けて行くことが必要なのだと考える人。会社の中での対立というわけではないけれど、それまでは一枚岩で金融という軸で一致していた考え方が、「金ではないリターン」という新たな評価軸に気付くまでの流れを物語にするのです。

テッキーなワタシとしてはPHS会社を巡る2005年ぐらいの時代を反映したような(恐らくはサブに据えられた)物語が好きな私です。当時三社あったPHSの中のDDIポケット(あるいはWILLCOM)と、業界三位のアステル(劇中ではアシタテル、だったかしら)との料金プラン戦略の発表前の漏洩を巡るあれこれ(そこに素人が金融に巻き込まれつつあるFXという単語も混ぜつつ)、日本でのiPhone、スマートホンの端緒となるW-ZERO3っぽい端末が未来といて見えていたあのころを思い出すのです。(ついついこのあたりを眺めてしまうw)

シリーズ初の女性出演者を加えて語られる物語は軸となるフェアトレードコーヒーの物語。商社の中でその仕事に就き、重要性に気付いたけれど会社の中ではその意思を貫徹できないということに気付いた女性たち。とはいえ大きな会社の後ろ盾で「看板」としての役割だからできたことをどう続けるか、重要だけれどいわゆるキレイゴトだけでは持続しないことをどう続けて行くのかについて相談を持ちかけたバイアウトファンドの代表と仲間(の一部)が共に歩み始めるという物語の着地点は人々の営みがまだ、希望を持てる社会なのだという、作家(そしてワタシ)の願望にも思えるのです。

前二作では男性の役者たちだけで作られていた物語ですが、今作では女性が加わります。フェアトレードという題材、あるいは大きな会社から社会に必要だとスピンアウトする人々という位置付けを背負うのはステロタイプな気はするけれど、キリキリと胃が痛むような金融の世界と、人々が営む生活にソフトに繋がるようでどこか安心を感じたりするワタシです。

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2021.08.09

【芝居】「hedge/insider」serial number

2021.7.18 12:30 [CoRich]

日本初のバイアウトファンドを舞台に描く金融の物語を描くhedgeシリーズを3連作として上演。再演となる hedge, insider の二作を再構成し二幕構成の一本として上演。hedgeは110分、休憩15分、insiderが50分。7月19日まであうるすぽっと。

もともとは別々の上演で、二作目であるinsiderは前作hedgeから引き継ぐ人間関係を説明することに時間が取られた印象ではありました。今作は同時に連続して上演することで、金融の用語や人間関係の重複する部分がそぎ落とされ、前半ではバイアウトファウンドに夢を賭ける男たちの物語を光として描き、後半では金を扱うが故に陥る闇を端的に扱う筋肉質な一本に生まれ変わったのです。カリスマと若いインターンというバランスが微妙に変わった気がするのは気のせいかしら。

今作でカリスマの金融マンを演じた吉田栄作は年齢を経ていい雰囲気の役者で、広い劇場での説得力も。邦銀出身の男を演じた酒巻誉洋は(おそらく)いままでの全ての作品で同じ役をきっちりと。若い男を演じた原嘉孝、なるほど、若い女性が客席に多かった理由がわかるぐらいに美形で元気で印象に残ります。会社社長を演じた岡田達也、同期の営業部長を演じた根津茂尚の緊迫する言葉のやりとり、見慣れた二人の役者の緊張感ある会話が実に良いのです。

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2021.08.04

【芝居】「一九一一年」チョコレートケーキ

2021.7.11 19:00 [CoRich]

大逆事件 (幸徳事件)を題材にした2011年作の再演。私は初見です。2時間18分。7月8日までシアタートラム。アーカイブ配信は8月15日まで。 爆発物所持によって逮捕された男たちをきっかけに、天皇暗殺を企てたとして次々と逮捕される社会主義者、アナキストたち。大逆罪として大審院での一度だけの裁判を前に、非公開の予審が行われる。元老の筋立てによって事件の方向が決まるが、予審判事として呼ばれた一人はそれに疑問を感じ始める。

歴史にはとんと疎いワタシ、事件の名前ぐらいは知っていても、どんな背景の事件で、それが現在ではどう解釈されているなどは殆ど知識無く拝見。おそらくは史実の隙間に一人の創造した人物を入れて語られる物語なのです。当日パンフに挟み込まれた解説は有り難く、現在の裁判制度と異なるところなど背景と年表がとても理解の助けになります。現在から見ると非現実な感じすらする思想に心酔していた人々と、体制への反逆を極端にまで恐れ社会主義・アナキストたちを徹底して一掃しようとする政府の方針という構図。一掃するためには、という形で事件を作っていく大勢の男、大審院や検察、元老といった人々が体制の側。 実際には何十人もの被告を今作はたった一人の女性だけを被告側の人物として舞台に乗せます。

大勢の男たちが、ある者は食い扶持のために、あるいは出世のために、あるいは体制側として何の疑問もなく政府があらかじめ描いた絵図に従って組み立てられていく「事件」を目にして一人疑問を感じる予審判事と、被告の女性を軸に物語が進みます。しかし、被告の多くは死刑や獄死となる結末。

いくつかの机を組み上げ壁にしたり、あるいは広げて宴席を作ったりとシンプルな装置が印象的。壁となったときはそれなりに高さがあって、つながれ歩かされる囚人たちの絶望感であったり、あるいは壁が客席に向かってくる雰囲気は、わたしたち観客を圧迫するような息苦しさすらかんじさせるのです。

史実をもとにしながらも、体制への忖度を軸に動く人々と、それに押しつぶされる人々の姿。100年以上前のことといえばそうなんだけど、大戦を経て憲法まで変えたこの国の姿が実はあんまり変わってないことを感じる今この瞬間に上演されることは、劇団の企みなのか、単なる偶然なのか、と思ったり思わなかったり。「自由とは自分の顔を持ち、名前を持ち、何に依存することもなく自分の足で立ち、自分の頭で考え、話すこと」と言い切る女の台詞はおもく、ずしんと気持ちに響くのです。

(良識派の)予審判事を演じた西尾友樹は体制と良心の板挟みになる男の、しかし力強く立つ力をしっかり。被告の女を演じた堀奈津美はどこまでもぶれず凛とした振る舞いはその他の人々に対して超越した神々しさすら感じさせるのです。検察の独りを演じた島田雅之もまた良心と体制の板挟み、しかし屈服する悲しさが溢れるのです。

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2021.08.02

【芝居】「さがしものはなんですか〜光合成クラブⅢ」菅間馬鈴薯堂

2021.7.10 15:00 [CoRich]

公園などに夜に集まる男女を描く短編で構成される光合成クラブというシリーズ。Ⅲとタイトルがありますが、当日パンフではⅡの再演に近い、との記載あり。88分。上野ストアハウス。劇団サイトには全公演の戯曲が公開されています。

夜な夜な公園の電灯の下に集まる男女たち。ビールケースなどを持ちだして酒を呑んだり、世の中のことを愚痴ったり、ダンスをしたり、近況報告したり、それぞれの生活を見続けていたり。あるいは近所の生活保護の若い男に目をかけていたり。前にどこかであった葬式帰りの格好の男は、この女たちとの宴が忘れられずに探している。

決して豊かではない市井の人々、家族があるのかないのかもよくわからない人々、夜の公園の片隅の酒宴を行っている人々の生活を描く短編集。たとえばスーパーで見かけた割引シールのパンを一つ買う若い女、スーパーの精算機に戸惑う年寄りの姿、やっとの思いでついたビル清掃の仕事、それなりなサラリーマンだった男の妄想のような恋心や夕日な風景、離れた故郷に思いを馳せる人といった風景を点描します。

あるいは歌やダンス、果ては舞い踊り、という感じの馬鹿騒ぎ、まさに宴での語りと賑やかさのよう。ストリートというにはあまりに人間くさく格好良さの欠片すらない地面を這いつくばるような生活をする人々の姿に地続きなのです。

葬式帰りの男に纏わる話は、点描と云うよりはもう少し物語。かつて友人の葬式帰りに宴に参加した男、三年が経ちいろいろものを亡くし、恋人の四十九日に再びこの宴に加わる、時間の長い流れを感じさせるのです。

三人の女性を演じた稲川実代子、舘智子、シゲキマナミの丁々発止、ダンスなども楽しい。宴に一人加わっている男を演じた村田与志行は中年男の悲哀を煮詰めたようで、しかも時々妙なテンションの楽しさ。街の歌い手という男二人を演じた大間剛志、津田タカシゲは道化のように賑やかで芝居っぽさの振り幅。生活保護を受ける男を演じた市川敬太は素直な人物という造型をきちんと。葬式男を演じた西山竜一の実直な、時間をぎゅっと濃縮し内包するような人物、女の前で虚勢を張らず泣く男が高い解像度でとてもよいのです。

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