【芝居】「廻る座椅子で夢を見る」螺旋階段
2021.6.26 18:00 [CoRich]
120分。神奈川県立青少年センター HIKARI。6月27日まで。
同居している父親の所在確認を行うために女の住む家を訪れる年金事務所職員。女は引きこもり働いている風でもない。かつてこの家で暮らしていた家族の話になる。
1998年、夫婦と娘たちが暮らしている。次女は外資系に就職し三女は卒業間近、バイトの日々。バブル崩壊のあおりで父親の会社は倒産しているが家族に言えないある日、家を出ていた長女が男を連れて戻ってくる。父親の事情を知っていて家のリビングでDVDの不法コピーをして稼ぎ始める。
舞台中央に回転する座椅子、大きな家具のようなボード、それなりに大きな家のリビングで暮らしていた人々を描きます。 一家の大黒柱たる父親、専業主婦の母親、外資系に就職した娘、自宅を構えといったことが、絵に描いたような幸せであったかつての頃から、時代が大きく動き崩れ始め、今作ではバブルが弾けた90年代後半、大黒柱でなくなった父親だったり、素人が危うい仕事に手を出せるようになった感じ、あるいはビデオがDVDに代わり、素人もののAVが流行始めたという風景を合わせて描くのです。
父親に代わり長女がDVDの不法コピーで稼ぎ家族たちを養えるようになる前半を経て、その奇妙なバランスが日常になったころ、二番底が抜けるように次女のAV出演が物語に明かされ、伝えてないのに目にしてしまった母親が自死に至るのです。母親を失ったことの大きさに気づき娘たちと父親が和解しようかとする刹那、更に底が抜けるように警察に踏み込まれる一家離散となったあの頃の激動が描かれます。唐突にみえたAVダビングも長女が妹のAVを知りそれ以外を大量に流通させようという想いゆえという少々荒唐無稽な感じも、その想いの深さを感じます。
家族を振り回すようでぼんやりして見える母親の造型は前半こそ不思議ちゃんな違和感だけれど、後半の喪失感に説得力を持たせます。演じた岡本みゆきは、なかなかない感じの役柄だけれど存在感。ヤクザまがいに現れる長女とチンピラの男のちゃらい感じから、序盤の掛け合いや注意深くやっていたはずのAV撮影がルールを守ってなかったと毒づくあたりの緊迫感、ドライブ感が圧巻で見応え。演じた竹内もみと緑慎一郎の丁々発止も楽しい。
母親が家族を繋いでいて、居なくなって判るその欠損の大きさというのはこの上演前後にテレビ放映されていたテレビ東京系「生きるとか死ぬとか父親とか」をちょっと思い出したり、AVと時代のかかわりという意味ではNetflix「全裸監督」も多彩な登場人物のキャラクタという意味でも重なるところも多くて。
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