【芝居】「バクで、あらんことを(B)」くによし組
2021.7.3 16:00 [CoRich]
くによし組の新作、完全ダブルキャストでの上演。80分。7月4日まで王子小劇場。
オーディションを経て芸能界デビューしたものの、その映画は中止となりオワコン女優とまで揶揄されるようになった女が地元を10年ぶりにドキュメンタリー映画のために訪れる。
10年前、その町では有名な映画監督による町の住人の女性を主役に抜擢するオーディションが開催されることになった。自己評価そこそこ低めの女も応募し、勝ち進んだ最終審査で、オーディションの役である「バク」に顔を整形して現れる。
優しい友達がいった映画館を再興したいという思いをキッカケにオーディションを受けた自己評価低めの女、醜い整形をしてまで役を取るという欲、同じオーディションのライバルたちも煽られるようにばたばたとする。芸能界での自分もたいして有名にもなっておらず、女優として寄りドッキリ番組要員だったりという微妙な立ち位置のまま訪れた10年ぶり地元の風景は変わりないように見えて、しかし後押ししてくれた友人の男が亡くなっていたということを知らず。
芸能界なる場所にいること、10年続けてはいるけれど、最初の整形に始まった間違い続きの空回りゆえのオワコン感というその場所に居続ける人の物語。前半では物語は素っ頓狂なほどファンタジーで、メデューサ、豊胸などデフォルメされた異形の者たちが作り出す世界そのものがオーディションを勝ち残った女が観ていた夢を主観的に描き出している気がします。後半、10年保留されていた映画の再開という現実への着地はしかし、10年を経てヨゴレ(女優)とか異形な者の見世物とするような芸能界の在り方がポリコレ的正しさゆえに規制される変化への戸惑いのようなものの出方がわの感じ方が細やかに描かれるのです。
いっぽうで、その場所に送り出した側の物語も描かれます。地元を出て行ったかつてのライバルの心の支えであった男の死を知れば芸能界を辞めてしまうと危惧して男の死を隠し続けるメデュコなる地元の有力企業の経営者を描く事で、有名にはなれなくても地元で支え見つめる人々の存在をきちんとフォローするのです。
体型や美醜といった見た目であるとか、(今作では描かれないけれど)障がいであったり性的なありかたを芸能の場所でどう扱うかが大きく変化したという意味ではこの10年は確かにいいタイムスパンの取り方で、今作はそれを声高に批判したり懐かしんだりはしないのだけれど、ただただ戸惑っているという描き方がとても素直で小劇場ゆえに描く事が出来る手触りを感じるワタシです。
10年ぶりに訪れた女優を演じた菊池美里のおどおどとした、しかし間違いなく存在感のある姿が印象に残ります。地元で見続けているメデュコなる女を演じた堀靖明は出オチかと思わせて面白く厚みのある人物をきちんと。
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