【芝居】「夜会行」鵺的
2021.7.3 19:00 [CoRich]
女優5人だけによる一室でのワンシチュエーションを描く会話劇。75分。7月7日までサンモールスタジオ。7月24日から8月13日まで配信が予定されています。
女性同士の恋人が暮らすマンションの一室。コロナ禍の中、誕生日を祝いにレズビアンの友人たちが集まっている。訪れた友人の一人に新しくできた年下の恋人もあとからやってくる。新しい恋人は以前は男と付き合っていて、はっきり別れたと云っているが、このパーティの間も電話がひっきりなしにかかってくる。
ベランダにカーテン、広いダイニングとキッチン。女性らしく、というと語弊があるけれど、お洒落な持ち寄りパーティという雰囲気で物語は始まります。コロナ禍らしくマスク姿、背を向けて乾杯したりとやや滑稽だけれど、私たちの現実に地続きな世界の物語なのだとはっきりわかるオープニング。
この家に暮らす二人と、今は独りで職場でもカミングアウトしている「強い人」という三人は、やっと失恋から立ち直った女をずっと見守っていて心から心配しています。すでに友人関係にある4人に対して後から現れる新しい恋人は年下なのに実にしっかりしていて。幸せそうではあるのだけれど、かつては男性と付き合っていたということがわかり友人たちが心配する中盤は、レズビアンとバイセクシュアルなど性指向のグラデーションのありかた、マイノリティだからこそアイデンティティーや安寧を脅かすような要素を注意深く排除しようという静かな強さのようなものが渦巻く見応え。5人が対立しても会話で理解しあう空間。実は同性愛だからというわけではなくて、要素や立場を替えればあらゆる恋人関係にあるいは人との関係に敷衍できそうな人々のありかたで、何度も噛みしめたくなるような会話のラリーなのです。
終盤に向けての盛り上がりは、しつこくかかってくる電話が別れたはずの男からのもので、その男が女を力で屈服させ、あるいは甘えてくるという絵に描いたようなモラハラ男。女たちの憎悪にも似た気持ちが燃え上がり、何人かは「殴りに行こうぜ」(あるいはそれを守りに行く)というイキオイで去って行く、どこか爽快な感じすら感じさせるのです。 今作でのこの男のありかたは、メスを取り合い、メスを屈服させるオスというマッチョイズムの権化に造型してこの場の5人(と観客全て)をイラッとさせ、あからさまなヒールという立場に。 更には恋人が同性だと聞くと(オスとのメスの取り合いで負けたわけではないと)冷静になり、理解しているよという素振りのポリコレフレイバーをまぶすのだけれど、マッチョイズムであることを深く印象づけるのです。この理解してからの後半が憎悪を増幅するということを理解出来るかどうかが、ある種のリトマス試験紙になる気がします。
残された二人。「別れないよ」という一言があるけれど、少しの暗転のあと、カーテンにクリップされたクレヨン画の似顔絵というシーン。二人の関係がどうなったのかは明確には語られないのだけれど、ちょっともやっとする終幕だけれど、どの在り方でもそれぞれがきちんと歩んでいると感じるワタシです。
今はフリーの女を演じた奥野亮子は、理知的なのに時折見せる感情の噴出のダイナミックレンジが魅力。誕生日の女を演じた福永マリカ、鵺的ではサイコな人物を演じることが多くて身構えてしまうけれど、今作では不器用なナイーブさを繊細に。その恋人を演じた笠島智、待ち続ける女という感じだけれど、それゆえフラットに物語のゼロ点の立ち位置であり続ける柱。失恋から立ち直り新しく恋愛を始めた女を演じたハマカワフミエは感情が勝る人物を魅力的に。新しい恋人を演じた青山祥子は年下でしっかりして、クズ男に一人で立ち向かってきたという力強い人物の説得力が凄い。
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