【芝居】「てげ最悪な男へ」小松台東
2021.5.22 18:00 [CoRich]
小松台東の新作。休憩10分込み120分。三鷹市芸術文化センター星のホール。5月30日まで。
2007年と2021年の二つの時代の物語。2007年。母親と女子高生の娘は二人で暮らしている。父親は浮気相手の家の火事で亡くなっているが、近所にくらすその弟である叔父が頻繁に訪れている。母親は別れた恋人と長く会わなかったが、一度頼って再会してからよりを戻そうとしつこく訪れる。娘は初恋に浮かれていて、恋人と二人きりで一夜を過ごす。2021年。母親を亡くした女は同じ家に叔父と住んでいる。
宮崎弁を駆使してドラマを描く作家。かつては、がさつではあっても温かい雰囲気の物語だったけれど、最近ではヒリヒリとするような悪意や暴力があったり、行き所の無い行き詰まり感だったりを持つ人物が描かれるようになった印象があります。今作はタレント知事が生まれ沸き立っていた頃と、現在という二つの時間を隔てて、成長する若い女性と、それを見守り続ける叔父を軸に描く物語は14年の時間の重みすら感じさせます。二人の間の関係の距離と質に大きな隔たりが露わになる終盤もまた、ある種の閉塞の中で育まれたものなのです。 女が去り際に書き残す「酷く最悪な男へ」という終幕の言葉だけれど、それでも完全に切り捨てられない気持ちがにじみ出る重厚さ。
昼のラジオ番組の人生相談でよく聞くような、ある種の状況に囚われ雁字搦めになってる女性という姿が思い浮かびます。それは母親ももしかしたらそうだったし、娘はそこから逃げ出す事が出来たという違いはあっても。方言によって描かれることがそれを補強してるような感じはするけれど、ラジオの相談者は東京だったりもするのだから、別に地方だから、ということでもないよなと思い直したりするワタシです。
母親を演じたは荻野友里ははすっぱな雰囲気がやけに色っぽく、青年団で演じる役柄とのギャップも楽しい。彼女の出自は描かれないけれど、県外から来て狭いコミュニティの中で浮気で夫を失ってどこか周囲から浮いてしまった、なんて人物を妄想したりもするワタシです。娘を演じた小園茉奈は二つの時間で成長した女性のグラデーションを違和感なくしっかりと魅力的に。叔父を演じた瓜生和成は秘めたる気持ちと、それを抑える理性のギリギリの境界線が良いのです。松本哲也が前半で演じる愛人はどこまでもがさつで暴力的で人懐っこくはあっても不愉快極まりない人物だけれど、後半で演じるその男の娘の婚約者は理性的に見えて、人の迷惑を顧みないで押しかける厚かましさと正しさを背負ってると信じ切ってる人物の別の意味の怖さを精密に描き分けるのです。
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