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2021.05.31

【芝居】「てげ最悪な男へ」小松台東

2021.5.22 18:00 [CoRich]

小松台東の新作。休憩10分込み120分。三鷹市芸術文化センター星のホール。5月30日まで。

2007年と2021年の二つの時代の物語。2007年。母親と女子高生の娘は二人で暮らしている。父親は浮気相手の家の火事で亡くなっているが、近所にくらすその弟である叔父が頻繁に訪れている。母親は別れた恋人と長く会わなかったが、一度頼って再会してからよりを戻そうとしつこく訪れる。娘は初恋に浮かれていて、恋人と二人きりで一夜を過ごす。2021年。母親を亡くした女は同じ家に叔父と住んでいる。

宮崎弁を駆使してドラマを描く作家。かつては、がさつではあっても温かい雰囲気の物語だったけれど、最近ではヒリヒリとするような悪意や暴力があったり、行き所の無い行き詰まり感だったりを持つ人物が描かれるようになった印象があります。今作はタレント知事が生まれ沸き立っていた頃と、現在という二つの時間を隔てて、成長する若い女性と、それを見守り続ける叔父を軸に描く物語は14年の時間の重みすら感じさせます。二人の間の関係の距離と質に大きな隔たりが露わになる終盤もまた、ある種の閉塞の中で育まれたものなのです。 女が去り際に書き残す「酷く最悪な男へ」という終幕の言葉だけれど、それでも完全に切り捨てられない気持ちがにじみ出る重厚さ。

昼のラジオ番組の人生相談でよく聞くような、ある種の状況に囚われ雁字搦めになってる女性という姿が思い浮かびます。それは母親ももしかしたらそうだったし、娘はそこから逃げ出す事が出来たという違いはあっても。方言によって描かれることがそれを補強してるような感じはするけれど、ラジオの相談者は東京だったりもするのだから、別に地方だから、ということでもないよなと思い直したりするワタシです。

母親を演じたは荻野友里ははすっぱな雰囲気がやけに色っぽく、青年団で演じる役柄とのギャップも楽しい。彼女の出自は描かれないけれど、県外から来て狭いコミュニティの中で浮気で夫を失ってどこか周囲から浮いてしまった、なんて人物を妄想したりもするワタシです。娘を演じた小園茉奈は二つの時間で成長した女性のグラデーションを違和感なくしっかりと魅力的に。叔父を演じた瓜生和成は秘めたる気持ちと、それを抑える理性のギリギリの境界線が良いのです。松本哲也が前半で演じる愛人はどこまでもがさつで暴力的で人懐っこくはあっても不愉快極まりない人物だけれど、後半で演じるその男の娘の婚約者は理性的に見えて、人の迷惑を顧みないで押しかける厚かましさと正しさを背負ってると信じ切ってる人物の別の意味の怖さを精密に描き分けるのです。

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【芝居】「うちのばあちゃん、アクセルとブレーキ踏み間違えた」チャリT企画

2021.5.22 14:00 [CoRich]

チャリT企画の新作。23日まで座高円寺1。90分。アーカイブ配信は6/13まで販売。

祖母からブレーキとアクセル踏み間違えたという電話がかかってくるが、連絡がつかなくなる。手がかりを得ようと孫がTwitterで踏み間違い事故の情報を求める。孫の情報はあっという間に晒されるが、同姓同名のYouTuberが標的になる。あるいは幼い子供が迷子になって見つからない事件とつながり、子供がはねられ連れ去られたとネットで噂になる。

書き割りに軽い語り口が特性の劇団。爆笑こそ少ないけれど、軽快な語り口の中、コンパクトな時間の中で進む物語。発端は心配する気持ちだけれど、断片的な情報が暴走する善意にブーストされて正義感でぶん殴ろうとする匿名の人々が見えてきます。彼らはあくまで普通の生活をしている人なのだけど、何かの不満なのか正義を振りかざしたいと想う気持ちなのか。 ものすごく突飛な事を描いているわけではないけれど、ネット時代に起こりそうな怖い事が、コミカルにデフォルメして箱庭のように描かれた光景は啓発目的に使えそうなぐらい、リアルな今を描いているのです。

踏み間違え崖から落ちて連絡が取れなかった、という終幕の種明かし自体だってまあハッピーではないけれど、誰かを巻き込んではいなかったという家族の安心はハッピーエンドな雰囲気に。しかし、一度ネットに蒔かれた種はひたすら普通の生活を送ってる人々の手によって拡散を続けていく終幕にぞっとするのです。

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2021.05.26

【芝居】「Smells Like Milky Skin」MCR

2021.5.15 18:00 [CoRich]

当初5/8〜5/16の公演予定が12日初日に短縮。100分。スズナリ。

子供を三歳で亡くして二年経った夫婦。妻はまだそのダメージから抜けられない。夫は一歩を踏み出そうとしている。ある日、近所の子供がおっさんに成長した息子を連れてくる。別の「闇の世界から来た」という息子を周囲は戸惑うが、妻はすぐに受け入れ、夫はぎこちないながらも徐々に受け入れる中、実は二度目の死が近づいている。

単に悲嘆に暮れるだけの夫婦なはずだったのに、おじさんになってはいても、息子が戻ってくることで変化するのです。終盤で父親と一杯呑んだりはしながらも息子を息子と心からは思えてない。妻は心の底から息子と思っている。終盤でその種明かしはあるけれど、もしかしたら現実に見えていても二人の親の子供の距離であり得る話、とも思うのです。 二度目の死を迎えて息子が去ってしまったあとに残された二人にあからさまになる深い溝。セックスレスなどのすれ違いで流れ続けていたものが一気に吹き出す終幕近くに凄みがあるのです。これはハッピーエンドには見えないけれど、収まるべき所に収まっていく人々の物語なのです。終盤少し前、親子を取り戻そうと親子三人のキャッチボール、ぎこちなくてもその形を作ろうという想いの静かな迫力に泣けてしまうワタシなのです。

夫婦を軸にして、周囲の人々も描写も無駄とも思えるほど繊細だったりコミカルだったりエキセントリックだったり。たとえば、タバコ部屋の男たちの何気ない会話のキャッチボールの楽しさ、その中で言い出せないことがあるという雰囲気だったり、あるいは彼らが呑み屋で女に声をかけるがエキセントリックに過ぎて立ち向かえない強者だったというコミカルだったり。あるいは姉夫婦の恥ずかしげも無いほどの愛し愛されな感じとか。

夫婦を演じた佐賀モトキも奥田洋平も高い解像度で細やかに積み重ねるのです。息子を演じた川島潤哉は、あきらかにオッサンなのに時に可愛らしい瞬間があったりするのも楽しいのです。

今回は自由席でQRコードから座った座席を登録するというシステム。デジタルパンフレットはあとから感想を書いたりする立場としては有り難い。紙の他にあるのが嬉しいけど。

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2021.05.15

【芝居】「明後日の方へ」カクタラボ(KAKAUTA)

2021.4.24 18:00 [CoRich]

KAKUTAによる実験場企画の第一回。コロナ禍による一年の延期を経ての上演は、4/25まで予定でしたが緊急事態宣言の発出により24日まで。小劇場楽園。西山聡の作演による5本の二人芝居短編集。休憩10分を含み110分。

  • 駐車場で車を擦られた新婚カップル。隣のベンツが犯人だとビビる夫、喧嘩する気満々の妻だが、持ち主が「駐車場の二人」
  • マラソン大会給水所の係員二人が走者を待っているが来ない。細かい所に気がつく女とわりと大らかな女、それは血液型に由来する、のか「待ってる二人」
  • 連れ込み宿の政治家と愛人、政治家は女と縁を切ろうとするが女は諦めない「西日の二人」
  • イメクラに来た男は自作の台本を持ち込んでいる。恋人を亡くした女を慰める幼なじみのウブな設定で暑苦しく演出しようと「海辺の二人」
  • 兄弟が富士登山に向かったがバス酔いで戻ってくる。妻を亡くした兄は残されたノートに書かれたことを実現したい「大晦日の二人」

元クロム舎で今はブラジルに所属する西山聡の、ちょっとコミカルでままならない人々のスケッチ集、という風合い。

「駐車場」で遭遇した出来事に妻は喧嘩腰、夫はビビりつつも新妻の手前威勢を張るけれど、その原因となった相手の運転手が初恋の人と知った妻の掌返し。あからさまにひっくり返すさまが楽しく。

「待ってる」は血液型のステロタイプな性格モデルに縛られて生きてきた女が実は血液型が違ってたと知り自分の根本がひっくり返るさま。A型生真面目、O型おおらかみたいな雑な性格っぽい二人のコントラストの楽しさ。A型を演じた酒井晴江の生真面目キャラが印象的に。

「西日」は昭和を思わせる、政治家と愛人。捨てられそうになり縋る愛人だけど、政治家が繰り出すナイフも拳銃もロープもあっさり打ち勝つ女の身体能力の高さ、というコミカル。昭和の角栄を思わせる政治家の造形、怨念のように長い髪を振り乱す愛人のプロレスのデフォルメの楽しさ。政治家を演じた細村雄志の昭和な政治家のデフォルメの楽しさ。

「海辺」は純情ロールプレイをイメクラでやろうという不器用で暑苦しい男と客をあしらいつつしぶしぶ付き合うイメクラ嬢のコントラストだけど、その暑苦しいロールプレイの間に見せるイメクラ嬢の恋心の瞬間がリリカル。観劇数激減の昨今、男を演じた森崎健康のつかこうへい的(または清水宏的)な暑苦しさが懐かしささえあってジンと来るワタシなのです。

「大晦日」亡妻の思い出に縛られる男と励ます弟。思い出に浸ろうとすることがことごとくできずままならないけれど、そこから抜け出す第一歩が見えるちょっとじんとする感じ。弟を演じた谷恭輔がやけに可愛らしく優しい表情がとてもいのです。

エンディング、出演者と作演が歌う「明後日の方へ」(YouTube)(曲・中村中)、作演が役者たちにぞんざいに扱われる感じも、なんかクロム舎みを感じて思い出したりするのです。

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2021.05.04

【芝居】「タイダルロック」あひるなんちゃら関村個人企画

2021.4.24 15:00 [CoRich]

60分。OFF OFFシアター。ワタシは結果的に最終日の昼公演に滑り込めました。3/25は配信のみ。それぞれの回のアーカイブは5/7から順次配信が終了します。

同居する三姉妹。大学生の三女がバンドをしたいと言い出す。30歳でバイトの日々を送る次女はバンドはやりたいが家族をメンバーにするのはダサいと取り合わない。長女はそんな揉め事を漫画に描いてバズらせたい。次女は嫌がり、描いたら10万払う約束を取り付けるが、長女は10万払ってしまう。

実際の上演では三人がどういう関係かは徐々に明かされます。たった60分だけど、三人の個性、関係や互いを想う気持ちを細切れに、細やかに描くのです。長女(保坂萌)の面白がり、次女(ワタナベミノリ)の今のワタシではない何かになりたいゆえの先走り感、学生の三女(土橋銘菓)は心からバンドを始めたいという純粋さがきちんと造型されるのです。

終幕、夜空を見る三人が月をみてタイトルに、なるほど、これも宇宙を描く関村企画サーガの一端なのです。

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2021.05.03

【芝居】「逢いにいくの、雨だけど」iaku

2021.4.17 19:00 [CoRich]

2018年初演作を同じ劇場・同じキャストで上演。三鷹市芸術文化センター・星のホールで4/25迄の上演予定でしたが、24日が千秋楽、大阪公演も中止。 幼い頃に事故で失明し絵画の道を諦め会社員として生活している男。そのキッカケを作った女は絵本作家として新人賞を受け、その受賞作が幼い頃に男が書いたキャラクタに酷似していて、再会を果たす。

ショッキングな事故を背景に、しかし二人のそれからを細やかに描きます。親たちも浮気を疑ったりなどの亀裂を生み結局は別れ、女は失明させたことを詫びなかったことを後悔し、男はしかし、他人事のように飄々とした感じで、失明した自分を受け入れていてと、穏やかにしかし複雑に織りなす物語は重厚な奥行きを持つのです。この再会が二人がもしかしたら友人として歩むかも知れないあるいは、家族が再会し再び時間が動き出すと感じさせる幕切れもいいのです。

物語の印象は初演とびっくりするほど変わりませんが、親から見て「男児の商品価値が下がったように思ってしまう」という台詞はちょっと残酷で、ビクッとするのです。

舞台が初演より低くなりアクティングスペースの自由度が上がったり俳優の負荷が下げられたかわりに客席は初演とことなり傾斜を強く付けた仮設になりました。駅の反対側は感染症蔓延防止重点措置下、劇場のある三鷹市は対象外でワタシの観た回は慎重な対策は取りつつもコロナ禍以前と変わらないぐらいに客席ほぼ100%に設定されていた印象で、ここ数週間他の劇場では経験してないほどの状態ではありました。

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