【芝居】「帰還不能点」チョコレートケーキ
2021.2.20 18:00 [CoRich]
チョコレートケーキの新作は、実在した「総力戦研究所」(wikipedia)を支点に引き返せなくなったのはどこの地点(=帰還不能点/POR)を思索する125分。2月28日まで東京芸術劇場 シアターイースト、そのあと兵庫。
戦後すぐ、居酒屋で久しぶりに集う人々。「総力戦研究所」に所属していた人々はそれぞれの道を歩んでいる。若手が集められ緻密なデータと議論によって戦局がどうなるかを試算するための試みで、敗戦はきちんと予測出来ていたがそれが取り上げられることはなかった。興に乗るうち、あのときの議論をもういちど繰り返し、時に芝居じみたロールプレイ、ときに冷静な視点を交えながらどこでならあの戦争を止められたかを思索する。
総力戦研究所という実在した組織と彼らが出した敗戦という結論が取り上げられなかったことを骨組みにしてはいますが、それ以外の部分はほぼ創作なのだろうと思います。そのうちの一人が戦後再婚した妻が営む居酒屋を舞台にしながら、その夫は広島を見て、予測出来なかった原爆に呆然として亡くなりというあたりはセンチメンタルに過ぎる気はしますが、研究所の人々に限らず、多くの人の中にはそういう人も居ただろうという想いを描くことと、いわゆる戦局の史実を重ね合わせながら描くという試みは面白く感じるワタシです。
時に内閣の様子、あるいはヒトラーという人に魅せられてしまう人、戦争に巻き込まれて酷いことになるかもしれないことと、自分の権力を維持することのどちらを選び取るかという政治家たち、しかも外交交渉がそう上手でもなく巧くいかないという厳しい視点は現在までの地続きに感じるのです。
戦後の居酒屋で興に乗った人々は、当時陸海軍、総理、文部、大蔵、外務、内務といった役割をロールプレイします。居酒屋と云う場所のある種の楽しさだけれど、その中で真剣に考えたことは数年経っても同じようにできるというのは作家が、この人々は真剣に考えたのだろうという敬意がきちんと感じられるのです。史実の枠組み、そのときの「エライ人々」の動かした歴史という前半と、それに巻き込まれた「普通の人々」を対比して描くことの構造の面白さなのです。
幹事の男を演じた岡本 篤がとても良いのです。亡くなった男のことを本当に考え続け、そしてこの場を作り上げたMCという役割でもあって。やさぐれている外務官僚を演じた村上誠基も時折見せる鋭い表情はほぼ最後列のワタシにもはっきり。陸軍の男を演じた粟野史浩は声が多きくがさつな感じだけれど、きちんと繊細な面も描き出すのです。
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