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2021.03.13

【芝居】「帰還不能点」チョコレートケーキ

2021.2.20 18:00 [CoRich]

チョコレートケーキの新作は、実在した「総力戦研究所」(wikipedia)を支点に引き返せなくなったのはどこの地点(=帰還不能点/POR)を思索する125分。2月28日まで東京芸術劇場 シアターイースト、そのあと兵庫。

戦後すぐ、居酒屋で久しぶりに集う人々。「総力戦研究所」に所属していた人々はそれぞれの道を歩んでいる。若手が集められ緻密なデータと議論によって戦局がどうなるかを試算するための試みで、敗戦はきちんと予測出来ていたがそれが取り上げられることはなかった。興に乗るうち、あのときの議論をもういちど繰り返し、時に芝居じみたロールプレイ、ときに冷静な視点を交えながらどこでならあの戦争を止められたかを思索する。

総力戦研究所という実在した組織と彼らが出した敗戦という結論が取り上げられなかったことを骨組みにしてはいますが、それ以外の部分はほぼ創作なのだろうと思います。そのうちの一人が戦後再婚した妻が営む居酒屋を舞台にしながら、その夫は広島を見て、予測出来なかった原爆に呆然として亡くなりというあたりはセンチメンタルに過ぎる気はしますが、研究所の人々に限らず、多くの人の中にはそういう人も居ただろうという想いを描くことと、いわゆる戦局の史実を重ね合わせながら描くという試みは面白く感じるワタシです。

時に内閣の様子、あるいはヒトラーという人に魅せられてしまう人、戦争に巻き込まれて酷いことになるかもしれないことと、自分の権力を維持することのどちらを選び取るかという政治家たち、しかも外交交渉がそう上手でもなく巧くいかないという厳しい視点は現在までの地続きに感じるのです。

戦後の居酒屋で興に乗った人々は、当時陸海軍、総理、文部、大蔵、外務、内務といった役割をロールプレイします。居酒屋と云う場所のある種の楽しさだけれど、その中で真剣に考えたことは数年経っても同じようにできるというのは作家が、この人々は真剣に考えたのだろうという敬意がきちんと感じられるのです。史実の枠組み、そのときの「エライ人々」の動かした歴史という前半と、それに巻き込まれた「普通の人々」を対比して描くことの構造の面白さなのです。

幹事の男を演じた岡本 篤がとても良いのです。亡くなった男のことを本当に考え続け、そしてこの場を作り上げたMCという役割でもあって。やさぐれている外務官僚を演じた村上誠基も時折見せる鋭い表情はほぼ最後列のワタシにもはっきり。陸軍の男を演じた粟野史浩は声が多きくがさつな感じだけれど、きちんと繊細な面も描き出すのです。

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2021.03.01

【芝居】「リーディングトライアルNo.1」ベイサイド実験室2021

2021.2.20 14:00 [CoRich]

ワタシ的に、2021年の最初の劇場観劇です。

ネオゼネレイター・プロジェクトの大西一郎が企画する実験室的公演。演目は日替わりのようです。28日までベイサイドスタジオ。2時間のアナウンスでしたが、初日は休憩ありの155分。

  1. 「なりきり自己紹介」(前半)他のメンバーが書いた架空の人物の言葉を読み上げ、その人物になりきって受け答え
  2. 「着納め」(作・清滝美保) 女と使用人。もう紫は自分に合わない、老いたかという女。
  3. 「かんしゃく玉」(作・岸田國士, 青空文庫)
  4. 「厩火事」(古典落語)
  5. 「なりきり自己紹介」(後半)
  6. 「眠れない停電の夜に」(作・尾道幸治) 横浜の大停電の夜、ラジオパーソナリティが語りかける記憶が定かでないぼんやりとした話。横浜までは記憶があるけれど。
  7. 「麵麭屋文六の思案」(作・岸田國士, 青空文庫)
短編のリーディングを役者をさまざまに組みあわせた企画。知っている戯曲も演出家がちょっとコメントしたりして背景が見えたりして楽しい。

「なりきり自己紹介」は、他の役者が書いてきた人物のセリフを読み上げたあと、その役になりきって質問に受け答えするというもの。彼らがワークショップ的に使っている手法のようですが、役者の人となり、あるいは書いた役者の考え方のベクトルが見えるようで楽しい。

「着納め」は、女が着物が年齢に合わなくなってきたと寂しく思う気持ちを発端に、過去の華やかな日々を経て今は(おそらく)地味な男を伴侶としたけれど、男の少し優しい言葉を聴いて愚痴の言い納め、着物の着納めに至る気持ちの変化を描きます。繊細で解像度が高くて沁みてくるよう。

岸田國士は著作権が切れてよく上演されるようになった、という演出家のコメントでの「かんしゃく玉」。夫の友人たちが目をかけるのは妻ばかりという構図、男こそ働いてなんぼが当たり前の時代ゆえだけれど、かんしゃく玉を投げつけるという突飛さがなんかとても瑞々しく、どこか微笑ましさもあって何度観ても楽しい一本。

落語から「厩火事」。犬も食わない夫婦げんか、しかし妻は夫のことをちゃんと思っていて、男の方はといえば、という古典。不満をまくしたてる妻と辟易する仲人の会話のリズムが楽しい。

「眠れない停電の夜に」はラジオパーソナリティが出逢った不思議な体験が放送に乗っての出来事。東横線、横浜を過ぎてぼんやりする、というあたりがポイントになる時代の流れを下敷きにした物語。停電が起きてラジオDJが妙なテンションになってるという体裁だけど、前半の行方が見えない時間がもうちょっとスピードアップすると嬉しいワタシです。

「麵麭屋文六の思案」これも岸田國士。ケラリーノサンドロヴィッチの上演は観てるはずなんだけどすっかり忘れてるワタシです。思い通りにならない息子や娘を抱えた父親。丁寧な会話を紡ぐ物語とみせかけて、豪快にひっくり返す楽しさ。

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