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2020.12.30

【芝居】「みてみぬふり」北口改札

2020.12.5 19:00 [CoRich]

劇団としての第1回公演。劇団スクランブル・坪井俊樹作演。スタジオ空洞で12月6日まで。70分。

先輩の男、後輩で社会人になったばかりの女二人。コロナ禍で時々LINE通話をするようになった。女の一人は彼氏がいるが喧嘩していてしばらくあっていない。もうひとりの女は男に気があるが、言い出せない。ある日、彼氏持ちの女は無職となった男から食事に誘われ、そのままずるずると男が家に居着いて仕事を探すでもなく。
しかし彼氏と別れないことを責められ電話をした女は仲直りし、居着いていた男は追いだされる。追いだされた男はもうひとりの女と会い、家に居着いてしまう。

ヒモ体質のダメ男が二人の女性を渡り歩き、しかし結局二人から惚れられているというなんだか青年漫画みたいな話。恋愛体質で寂しく男を断れない女と、好意を持っている女。全く同じような繰り返しだったり、結局惚れて手放したくない気持ちだったり、三人でいいじゃんという感じだったりとどうしようもない人間のコミカルな切り口を並べて見せるコメディなのだろうと思います。ワタシはそこに愛おしさを感じられなくて、いわば浅はかな人々を描く滑稽さには乗り切れないのです。

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2020.12.29

【芝居】「プライベートジョーク」パラドックス定数

2020.12.5 15:00 [CoRich]

2007年初演作の再演。120分。12月13日まで東京芸術劇場シアターイースト。

初演では名前が示されていた5人の学生たちは、ジャンルと頭文字だけの表記に。スペインの学生寮を舞台に、来訪する少し上の成功している人々と、これから名が売れていく学生たちの交流という形と、戦争が忍びよる時代を背景にファンタジーとして描きます。

それぞれの名前を少しは知っていても、同じぐらいの時代の人々であるという認識がなかったり、時代での立ち位置もそんなに知らなかったりするワタシです。借景となる時代や人物の現実の背景を知っていれば、もっと解像度高く感じ取れるのかもしれないけれど、それに囚われなくてもいいとも思うのです。若い世代から名の売れた人々をみつめ、自分も昇っていこうとする気持ちだったり、あるいは年齢を重ねて若い世代を少しばかり懐かしく思う気持ちだったりという細やかに描かれる人物たちを観ていて目が離せないワタシなのです。

登場する人々はみな天才と言われるような時代に名を残した人々だけれど、まったくジャンル違いの人々を集めることで、どの分野でも起こりうるような抽象度の高い、あるいはふんだんな暗喩を纏う会話は軽快で快いほどの会話の「音」を生み出します。反面、何を描いている物語かはとらえづらくなる感もあって、ワタシはむしろ造形された人物像(歴史上の人物という意味でなく)を面白く感じられるところにフックするのです。

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2020.12.12

【芝居】「完全な密室」やみ・あがりシアター

2020.11.23 12:00 [CoRich]

やみ・あがりシアターの新作。王子小劇場で11月23日まで。110分。

公演の当日早朝、劇団の主宰兼作演の女が殺された。合鍵を持ち第一発見者となった劇団員の女優が捜査に協力するために、被害者になりきってその日までの行動を追う。

アクリル板で囲った「密室」は上演の途中幾度となく壁ごと開いて換気されたり頻繁にマスクを付け外ししたりとコロナ禍を意識したような装置。事件を調べる内に一癖二癖ある格安アパートの住人たち、外国人で怪しいと思いきや片言ながら交流していたり、美少女として見えているけれどあまりに口うるさい老婆をそう見えることにして心の安寧を得ていたりと、被害者自身も癖のある人物であることが見えてきます。 犯人を捜すように描かれるまわりの人物たちの姿は、やがて演劇の関係者たちへ。劇団員とふたりきり、濃密だけれど過剰に厳しい演出の姿勢とそれを不満に思う女優だけれど、傷つけ合いながら互いにどこにも逃げられないエコーチャンバーのような関係を互いに認め合っていたり、 唯一の友人と思う舞台監督の男が結婚して感じる喪失感、大学の頃に知り合ったちょっとよく思う男との関係は公開するものになっていたり。

あるいは恋をしてないことでいい芝居が書けないんじゃないかという焦り。貧しくは無かった中庸な生育環境、他の人がバカに見えてしまうある種の傲慢さの自覚。周りの人々を描きあるいは彼女(を劇中演じる女優)自身に語らせることで、死んだ女の姿が削り出されるように徐々に輪郭が見えてくるのです。後半、密室殺人と思われた物語は、実は自殺なのだと明かされます。動機は「太陽が眩しかった」のと同じように「照明が眩しかった」と嘯いてみせるし、時間を稼ぎつつ眼球の臓器提供という唯一の希望を満たすためとややこしい理由を付けたりするけれど、 それはそこまでに描かれた彼女に堆積してきたこと、彼女自身のめんどくささが反響し合って自殺という臨界に到達したように感じるワタシなのです。

作家自身のほんとうの姿がどこまで物語に溶け込んでいるかはもちろん知る由はないけれど、そういう面倒くささの片鱗はこれまで描いてきた物語でも薄々感じるのでまったくの創作というわけでもないのだろうとおもいます。ミステリーとしての完成度というよりは、そういう面倒臭い人物を時にコミカルに、ときに深く描き出す濃密な空間なのです。

女優を演じた加藤睦望、劇中で主宰を演じる内に同一人物に見えてくるちょっと不思議な感覚。隣の外国人留学生や好意を持っていた舞台監督、大学の頃の同級生の男などさまざまを演じた目崎剛は決して広い振り幅ではないのだけれど、逆にそれが彼女からある種の好意を持ちそうな男に通底するものを感じさせて面白いのです。

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2020.12.07

【芝居】「夜盲症」柿喰う客

2020.11.21 18:00 [CoRich]

5月に上演を予定していた作品をコロナ禍で延期、改訂し65分で上演。スズナリ。11月22日まで。

実業団の強豪女子ソフトボールチーム。外界と完全に遮断した日々を送っている。チームに加入した女子野球のエリートは父殺しの犯人がチームにいると聞き入団を決めるなど、みな癖のある選手たち。東京オリンピックが近づいたある日、寮の内部での盗撮映像が流出する。

元々上演される予定だった作品はおそらく女優ばかりのいわゆる百合的なスキャンダラスな物語を骨格にオリンピックをちょっと揶揄するような立ち位置だったろうなと想像します。コロナ禍に対しての「アートにエール」企画(YouTube)はその元の形の設定がよく見えるよう。5ヶ月の延期を経て、恐らくは自死やセクシーさなど「不謹慎」なものを自主規制するというテイストをメタ的に加えることでリミックス版のように凝縮感をもった芝居になったのだと想像します。

それぞれの役がきちんと背負ったものがあり、男と望まれた女だったり自死した父のこと、貧しい生まれの女、アイドルな立ち位置でいる女、オリンピックに出て婚期が遅れることを恐れる女、絵に描いたようなガリガリの右翼や生き字引など物語は満載。おそらく短縮されたであろう65分で全ての人物を描こうとした結果、女子野球のトップアスリートを演じた永田紗芽と死神と恐れられる唯一のプロ選手を演じた福井夏を核にするものの、物語を運ぶよりもそれぞれの人物の背景を魅力的に見せるという感じになっています。

女優ばかりのややセクシーな構成といえば、この劇団には女体シェイクスピアという人気シリーズがあるけれど、あくまで古典の物語を運ぶことを主眼とするこのシリーズに比べると、より自由度は高く役者たちそれぞれの魅力を引き出すように感じるショーケース的な仕上がりは、それはそれで楽しいのです。

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2020.12.06

【芝居】「Rights, Light ライツ ライト」フライングステージ

2020.11.8 19:00 [CoRich]

HIV内定取消訴訟をモチーフにした物語、90分。11月8日までOFF OFFシアター。

ソーシャルワーカーとして病院の就職が決まっていて引っ越しまでしていたのに突然内定が取り消された男。理由を尋ねるとHIV感染で受診した過去のカルテをみつけ、それを申告しなかったからだという。就労に問題なく、他人への感染の恐れもないという診断書があっても決定は揺るがない。弁護士を紹介され裁判を起こす。

コロナ禍の中、作家はかつて恐れられ、同性愛者への偏見を加速したHIVという感染症を思い出したのだといいます(ステージナタリー)。根絶こそ出来ていないけれど、治療法も安全な暮らし方もほぼ確立してるのだということも、府中青年の家訴訟(wikipedia)も恥ずかしながら知らなかったワタシです。

現在はコロナウイルスで全員が脅威を感じ全員の問題として感じ取っているけれど、HIVはどこか他人のこととして感じていてそういうアップデートを得られること、そしてもしかしたら現在の私たちも同じように折り合い方を見つけられる、あわよくばコントロールできるようになっているという希望を重ね合わせるのです。

差別を受けることが人の生きる力を削ぐのだという視点が物語を通底します。ワタシはたまたまそういう境遇に遭わずに生きてきたけれど、そういう場所に自分が置かれたら(コロナに罹患すれば、すぐに自分に降りかかってくる気がします)、少しの恐怖を感じるワタシです。過去の(といってもほんの3年前)の出来事を遅くなっても受け取って、どうするべきかをじっくりと考えていても、未だ結論は出ないのだけれど。

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