【芝居】「The last night recipe」iaku
2020.10.31 19:00 [CoRich]
iakuの新作。10分休憩込み145分。11月1日までザ・高円寺1、そのあと兵庫。
女性ライターが取材で訪れたラーメン屋、店主の息子は中学でたあとずっとこの店で8年働き続けているのを見つけ、ネグレクトを疑い取材を続ける。先輩の女性ライターに追い付きたく意見を求めるが、懐に入らないまま取材と言われ、息子が言った結婚して連れ出してくれたらというエピソードが「面白い」と言われ、取材のために結婚を決意する。
女は結婚1年が過ぎた頃、記事を書くため元カレの関係する医療ベンチャーのワクチンを受けた夜に急死する。
この急死、頼りない夫、母親が葬儀が簡素なのを嘆くシーンが冒頭にあり、二人の知り合ったことからの流れの物語、女がblogに毎日の食事を書いていという物語と併走するように描きます。記事のために連れ出したけれど金を稼ぐでもなく、父親との暮らしを聞き出すも記事になるような展開にならないことへの苛立ち。元々はネグレクトされていた男について「広がる世界を見るべきだ」という正義感を起点に女は走り出したものの、広がることに意味を見いだせない男と二人きりのたこつぼ状態での苛つき。夫婦の間にある、それまで暮らしてきた生活の格差を残酷に描き出すのです。
先輩ライターが訪ねたラーメン屋の店主は、息子をネグレクト状態にしたのは、自分が背負った父親の借金を残さないための考えであると描き、しかし息子の考えていることが判らないという悩みを打ち明けていくのです。全ての人間が行動に理由があるように丁寧に描くつくり。
一年つづくうち、夫が頑なに拒んできたラーメンを作る晩餐、それが新しい一歩と思った妻が希望を見いだしたけれど、翌日、治験を受けた夜、母親の手作りのちらし寿司を最後の晩餐として亡くなること、家族のもとに帰ると思わせるのです。妻が一年続けてきたレシピを一年かけて追いかけ記録し追体験する男。夫婦の成長譚を胸に、一人になって店に戻るラストが美しい。
コロナとは明確に描かないけれど、感染症が蔓延して互いの行き来が難しい日々、蛸壺のようにふたりきりの時間という序盤の設定が巧くて、そのあとにさまざまに入れられる要素、たとえば生活の格差や親の思いなどが複雑に絡み合うのです。
年下のライターを演じた橋爪未萠里はしっかりと主役を演じきります。母親を演じた竹内都子は不満を言うときの娘を想う気持ちの強さが印象的です。父親を演じた福本伸一は娘の配偶者との間を取り持つ軽さの解像度が繊細です。ラーメン屋の店主を演じた緒方晋は序盤は単なる怖い人だけれど、徐々に見えてくる彼の気持ちの振れ幅の広さ。その息子を演じた杉原公輔は体温の低さが物語全体の重層低音のように。 元カレを演じた小松勇司はいけすかないヒールの役割をきっちり。先輩ライターを演じた伊藤えりこは中盤の物語を強力に推し進める力の説得力。
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