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2020.11.26

【芝居】「The last night recipe」iaku

2020.10.31 19:00 [CoRich]

iakuの新作。10分休憩込み145分。11月1日までザ・高円寺1、そのあと兵庫。

女性ライターが取材で訪れたラーメン屋、店主の息子は中学でたあとずっとこの店で8年働き続けているのを見つけ、ネグレクトを疑い取材を続ける。先輩の女性ライターに追い付きたく意見を求めるが、懐に入らないまま取材と言われ、息子が言った結婚して連れ出してくれたらというエピソードが「面白い」と言われ、取材のために結婚を決意する。
女は結婚1年が過ぎた頃、記事を書くため元カレの関係する医療ベンチャーのワクチンを受けた夜に急死する。

この急死、頼りない夫、母親が葬儀が簡素なのを嘆くシーンが冒頭にあり、二人の知り合ったことからの流れの物語、女がblogに毎日の食事を書いていという物語と併走するように描きます。記事のために連れ出したけれど金を稼ぐでもなく、父親との暮らしを聞き出すも記事になるような展開にならないことへの苛立ち。元々はネグレクトされていた男について「広がる世界を見るべきだ」という正義感を起点に女は走り出したものの、広がることに意味を見いだせない男と二人きりのたこつぼ状態での苛つき。夫婦の間にある、それまで暮らしてきた生活の格差を残酷に描き出すのです。

先輩ライターが訪ねたラーメン屋の店主は、息子をネグレクト状態にしたのは、自分が背負った父親の借金を残さないための考えであると描き、しかし息子の考えていることが判らないという悩みを打ち明けていくのです。全ての人間が行動に理由があるように丁寧に描くつくり。

一年つづくうち、夫が頑なに拒んできたラーメンを作る晩餐、それが新しい一歩と思った妻が希望を見いだしたけれど、翌日、治験を受けた夜、母親の手作りのちらし寿司を最後の晩餐として亡くなること、家族のもとに帰ると思わせるのです。妻が一年続けてきたレシピを一年かけて追いかけ記録し追体験する男。夫婦の成長譚を胸に、一人になって店に戻るラストが美しい。

コロナとは明確に描かないけれど、感染症が蔓延して互いの行き来が難しい日々、蛸壺のようにふたりきりの時間という序盤の設定が巧くて、そのあとにさまざまに入れられる要素、たとえば生活の格差や親の思いなどが複雑に絡み合うのです。

年下のライターを演じた橋爪未萠里はしっかりと主役を演じきります。母親を演じた竹内都子は不満を言うときの娘を想う気持ちの強さが印象的です。父親を演じた福本伸一は娘の配偶者との間を取り持つ軽さの解像度が繊細です。ラーメン屋の店主を演じた緒方晋は序盤は単なる怖い人だけれど、徐々に見えてくる彼の気持ちの振れ幅の広さ。その息子を演じた杉原公輔は体温の低さが物語全体の重層低音のように。 元カレを演じた小松勇司はいけすかないヒールの役割をきっちり。先輩ライターを演じた伊藤えりこは中盤の物語を強力に推し進める力の説得力。

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2020.11.20

【芝居】「常闇、世を照らす」 JACROW

2020.10.31 14:00 [CoRich]

田中角栄を描く三部作、総理大臣を辞めてから田中真紀子が立候補するまでを描く終結編。135分。11/8までサンモールスタジオのあと新潟。

ロッキードの疑惑、総理大臣を辞めてから。自民党を辞めても、党外から田中派を率いる。盟友大平を総理にし、しかし亡くし。忙しかった日々、訪れる人は減っていき、酒量が増え。娘・田中真紀子は妾を持つ父親を憎んですらいる。ある日、角栄は倒れ麻痺が残る日々、真紀子は立候補を決める。

一度は昇りつめたあと、汚職の疑惑から総理大臣を退いてからの日々。無実を信じ復活の日を思い描きながらも自民党を離れ、党外から田中派を率いている日、盟友・大平正芳を総理にしたが病で亡くし、竹下登の創政会結成など明確に自分の地位が脅かされ奪われていくなか、多量の飲酒、脳梗塞を経て表舞台から消えていくのです。盛りを過ぎた男がこれまで家族を蔑ろにしてきた負債を、まの辺りにする日々。

倒れてからの日々は政治の表舞台に立つことがなくなり、今作では台詞は極端に減り、父親を嫌っていた田中真紀子が主役のようになっていきます。あの頃、国会に現れないのにずっと国会議員でいるという角栄という政治家の力をぼんやり見てたけど、なるほど、こういう流れか、と今さら確認するのです。終幕、田中真紀子の街頭演説は一本目の冒頭、田中角栄の台詞なのです。もちろん、田中真紀子が三国峠を切り崩し、佐渡との間を埋め立てるなんていう演説をするはずも無いけれど、繋がっていく、という作家のフィクションなのだと思います。

私の記憶にある政治家が沢山出ているのが私のリアルタイムに近づく感じで嬉しい。金丸信を演じた岡本篤、全く雰囲気は違うのに、政治家に見えてしまうのは角栄を演じた狩野和馬の雰囲気で、まさか山梨の地味な政治家を描くのかしら、作家が。今作で初登場の娘・田中眞紀子を演じた川田希もまた全く違う雰囲気ですが、父を思う気持ち、新たに立ち向かう気持ちがよく現れています。この女優が演じた大塚家具の娘の物語とは正反対の役だけれど、説得力があるのです。(大塚家具を巡るニュースを聴いたばかりからかもしれません)

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2020.11.09

【芝居】「夕闇、山を越える」JACROW

2020.10.24 19:30 [CoRich]

2016年初演2018年再演作、三部作の一挙上演としてふたたび。11月8日までサンモールスタジオ、そのあと新潟。

上り詰めていく世界は昭和の派閥のパワーバランスそのものであり、もう逆戻りすべきではないあの頃ではあるのだけれど、そこにある時代の熱気を描く物語には見応え。

若手時代から最初の入閣に至るまでの田中角栄。人々の暮らしを思い訴える原点の姿。母親との関係だったり、冒頭の長靴姿の演説、地元に戻った元秘書への待遇の心配りなど人間・田中角栄の人垂らしな側面が強く描かれているように思います。いっぽうでまだ十分な力を得ているわけでは無く、政治の局面では誰につくのがいいのかを見極め、自分のことをフックアップしてくれるのかを冷静に見極めるという「コンピュータ付きブルドーザ」はこの後の物語に繋がっていくのです。

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2020.11.07

【芝居】「宵闇、街に登る」JACROW

2020.10.24 14:00 [CoRich]

田中角栄を描く三部作の第二弾、2018年初演。2020年の三部作上演、日程の都合で二本目から。11月8日までサンモールスタジオ。130分。

第一作の岸信介内閣から7年ほど、佐藤榮作内閣のあと、誰が首相となるかという時代で角栄が上り詰める。(歴代内閣|首相官邸)

一つの党の中に派閥のパワーゲームというよりは騙し騙されの駆け引きうごめく時代。わたしはまだ子供の時代だけれど、このあと首相になっていくきら星の政治家たち、角福戦争の発端など、まわりの人々の人間臭いすがた。沖縄返還など日中国交正常化など為すべきことを軸に、テレビのワイドショーなど時代背景も豊富に描くのです。

第一作では母親や芸妓としてしか登場しなかった女性は、今作においてはテレビの人気司会者と越山会の女王とよばれる秘書と、世の中を動かすような立場を人々を中心に描きます。いっぽうで秘書もまた角栄をめぐる女の一人というメロドラマの行方もまた第三作への駆動力なのです。

秘書を演じた小林あやの仕事場での力強さと影の女で居続ける弱さの振り幅がしっかり。福田赳夫を演じた小平伸一郎や中曽根康弘を演じた谷仲恵輔の食えない感じもあの時代の政治家の雰囲気。山口淑子を演じた木下祐子のコミカルなテレビ受像機を思わせる演出も楽しい。

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2020.11.02

【芝居】「線路沿い獣道」ドリルチョコレート

2020.10.11 15:00 [CoRich]

こういう状況でも新作にする、という心意気。開演前の注意事項のコミカルさも楽しい。10/11までスズナリ、休憩無しの65分。デジタルパンフレットがついています。

荒くれがちゆえに疎まれがちに育った男の物語。子どもの頃を描く前半では、絶望の中だけれどどこか微笑ましい初恋の物語にはどこか一縷の希望があるよう。成長してからの後半を描く後半、初恋の彼女と暮らしていても何も好転せず、子どもの頃からの絶望がそのまま地続きになっている男。

結果逮捕されてしまってこれで終わり、と思うけれどそこから見える風景はかつての友人たちが熟成し変化しているのです。一人は半グレのサラリーマンになっていて、年上だった男は弁護士になっていて弁護を引受け、出所した男を幼馴染で初恋しそこねた女が迎えるのです。二人で訪れた観覧車はかつてのダブルデートの場所。観覧車のシーンといえば、かつてのキャラメルボックスの芝居が印象的な私ですが、劇場が小さいこともありずっとシンプルな装置で同じぐらいの印象を残すのです。

絶望を続ける男を演じた櫻井智也の安定感、母親を演じた真嶋一歌は夜の女の雰囲気を濃密に。子供だったのに同じような感じになっていた初恋の女を演じた三澤さきの振り幅は女の一生を見るよう。迎えに来た女を演じた佐賀モトキ、かつての派手な雰囲気が印象強すぎてしばらく同じ役者と気づかなかったワタシです。中学生なのに小学生と遊んでいる澤唯のちょっと情けない雰囲気の前半、後半では弁護士となって希望の光になる説得力。

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