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2020.04.16

【芝居】「対岸の絢爛」TRASHMASTERS

2020.3.14 14:00 [CoRich]

私は久々に拝見する劇団。160分。2020年の3月15日、駅前劇場ではマスクを希望者に配り、アルコール消毒を徹底して、席の間隔も空けての上演。

IR誘致が盛り上がる港町。倉庫会社に勤める管理職の男は父親の博打好きからカジノには反対だが、勤める会社が賛成に代わる。妻は新聞記者、同居する弟は反対で、バツイチの妹は別居しているが、連れてきた恋人は競馬好きでこちらもバツイチ。管理職の男は商工会議所の代表として説明会の矢面に立つ。
戦中、漁船の供出を命じられた漁師は山口の水産会社に希望を託すも裏切られ、敵軍の爆撃は小学校を誤爆する。
福山の港町に起きた埋め立てと連絡橋の開発計画に反対する住民たち。推進派は分断を図り個人商店の不買運動などに発展し、男たちは巻き取られていく。

戦中の資材供出、戦後1980年代の開発と市民運動、現在のカジノ招致。一つの家族史を背骨に、三つの時代と場所について、実在する保戸島空襲(wikipedia)、鞆の浦埋立て架橋計画問題(wikipedia)、そして現在の横浜市のIRの問題を背景にとりながら、権力の理不尽に対する市民のあらがい方をそれぞれの時代を通して描きます。

単に権力と市民の対立というだけではなくて、権力の論理で進めたい戦争や開発、カジノ誘致が市民を取り崩していく過程、権力による強権だったり、金や賭博と云った抗いがたい欲望だったり、あるいは村八分というコミュニティの分断という時代によって姿は違って見ていても本質的には変わらないということが、三つの時代と場所を通してみることで、少なくとの日本の中ではいつ、どのような形で自分の身にふりかかってくるかわからないということに恐怖するのです。

商工会議所の代表が誘致に向かい、市民と対峙する説明会の対立に家族を置きます。説明する側は反対する意見を聞くなどさらさらないというのは、現実の横浜市の説明の姿に似ているけれど、今作ではそこに家族を配置することで、建前とは裏腹に説明している個人は市民の本音を心から判っている、という複雑な構造を作り出して、見応えのあるシーンに仕上げています。もっとも商工会議所が法解釈を答える、というのが正しい説明会のありかたか、というのはイマイチ腑に落ちない感はあるのですが、大きな問題ではありません。

横浜市に住む私にとってカジノ誘致を一方的に進める行政のありかた、とりわけカジノ誘致を決めてないといって選挙に勝利した市長が当選した途端に手のひらを返して市民の意見を聞かずに招致ばかりが頭にある姿はこの芝居の中の三つの時代の権力に重なって見えるのです。それはこの期に及んでオリンピック開催を強行しようとしていた、国のありかたにも重なり合うのです。

これを書いている4月中旬では既に芝居を劇場で観ることはほぼ叶わない状況。わずか一ヶ月前には劇場で芝居を観ることができて、おそらくはそこがクラスタにならなかったことは運が良かっただけかもしれないけれど、しかし劇場のスタッフたちがほんとうに注意深く行っていたオペレーションは印象に残るのです。

もし再演が叶ったら、(県立の立派な劇場があるのに)市長がやたらに欲しがっている市立の劇場のこけら落としで是非見たいな、というのは少々悪趣味か。

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