【芝居】「エール!」チーム・ユニコン
2020.3.21 17:00 [CoRich]
2017年初演の大規模災害の避難所を巡る物語の再演。120分。BONBON。席間を大きく開け、全ての観客は体温の申告しスタッフの目の前での手洗いをして入場、マスク着用必須という厳戒態勢での上演。
大規模災害の避難所となった小学校、公務員やNPO団体のスタッフなどが集う部屋。公務員は売れない役者をしている先輩を何か助けにならないか呼ぶ。避難所には引きこもりだったがやむをえず避難してきた少年とその父母、介護施設で働くシングルマザーと受験を控えた娘が居る。
それぞれの家族や個人が抱えていたであろう問題の日常から、大規模災害をきっかけに避難所にあつまり、否が応でもそれぞれの問題が表面化。 大規模災害の避難所で起きたであろうことのリアルと、それぞれの家族が抱えていた問題が描かれます。正直にいえば、それぞれのエピソードは突飛さとかオリジナリティあふれる、という感じではないけれど、誰にでも見やすく整理された物語。売れないヒーロー役者というある種の「異物」がその物語に加わることで、日常の暮らしが非日常になった人々に対比するように虚構と現実の狭間の役者という異なるベクトルの広がりを持つのです。
一歩間違えばステロタイプになりそうな物語に迫力を与えるのは役者の力。ヒーローな男を演じた近江谷太朗はやや浪花節の雰囲気を纏う悲哀をきちんと。夫婦を演じた竹内都子、藤井びんの丁々発止、自分勝手に見えて家族を思う力、時にそれは他人からは横暴なものになるヒールさを併せ持つのです。公務員を演じた樋渡真司の巻き込まれ側の困り顔が楽しく、NPO団体の代表を演じた今拓哉の力強く頼りになる造形の説得力。シングルマザーとその娘を演じた岩橋道子、木村玲衣が演じたきちんと生活し楽しもうという力の強さ。夫婦の引きこもり息子を演じた関根翔太と合わせたキャラメルボックスの役者も近江谷太朗とともに心強く。
まったくもって個人的なことだけれど、ワタシが初めて芝居というものを拝見した竹内郁子(劇団フロントホック、本多劇場)を舞台で観るのは随分と久々。あれから連綿と観続けてきた舞台がこんなにも長く中断する最後に拝見できたということも、ワタシにとって感慨深いのです。この芝居を観てから一ヶ月を超え、先は見えないけれどいつか劇場という空間で芝居を観る日を思い、しかし今はおとなしく過ごすワタシです。
2020.04.16
【芝居】「対岸の絢爛」TRASHMASTERS
2020.3.14 14:00 [CoRich]
私は久々に拝見する劇団。160分。2020年の3月15日、駅前劇場ではマスクを希望者に配り、アルコール消毒を徹底して、席の間隔も空けての上演。
IR誘致が盛り上がる港町。倉庫会社に勤める管理職の男は父親の博打好きからカジノには反対だが、勤める会社が賛成に代わる。妻は新聞記者、同居する弟は反対で、バツイチの妹は別居しているが、連れてきた恋人は競馬好きでこちらもバツイチ。管理職の男は商工会議所の代表として説明会の矢面に立つ。
戦中、漁船の供出を命じられた漁師は山口の水産会社に希望を託すも裏切られ、敵軍の爆撃は小学校を誤爆する。
福山の港町に起きた埋め立てと連絡橋の開発計画に反対する住民たち。推進派は分断を図り個人商店の不買運動などに発展し、男たちは巻き取られていく。
戦中の資材供出、戦後1980年代の開発と市民運動、現在のカジノ招致。一つの家族史を背骨に、三つの時代と場所について、実在する保戸島空襲(wikipedia)、鞆の浦埋立て架橋計画問題(wikipedia)、そして現在の横浜市のIRの問題を背景にとりながら、権力の理不尽に対する市民のあらがい方をそれぞれの時代を通して描きます。
単に権力と市民の対立というだけではなくて、権力の論理で進めたい戦争や開発、カジノ誘致が市民を取り崩していく過程、権力による強権だったり、金や賭博と云った抗いがたい欲望だったり、あるいは村八分というコミュニティの分断という時代によって姿は違って見ていても本質的には変わらないということが、三つの時代と場所を通してみることで、少なくとの日本の中ではいつ、どのような形で自分の身にふりかかってくるかわからないということに恐怖するのです。
商工会議所の代表が誘致に向かい、市民と対峙する説明会の対立に家族を置きます。説明する側は反対する意見を聞くなどさらさらないというのは、現実の横浜市の説明の姿に似ているけれど、今作ではそこに家族を配置することで、建前とは裏腹に説明している個人は市民の本音を心から判っている、という複雑な構造を作り出して、見応えのあるシーンに仕上げています。もっとも商工会議所が法解釈を答える、というのが正しい説明会のありかたか、というのはイマイチ腑に落ちない感はあるのですが、大きな問題ではありません。
横浜市に住む私にとってカジノ誘致を一方的に進める行政のありかた、とりわけカジノ誘致を決めてないといって選挙に勝利した市長が当選した途端に手のひらを返して市民の意見を聞かずに招致ばかりが頭にある姿はこの芝居の中の三つの時代の権力に重なって見えるのです。それはこの期に及んでオリンピック開催を強行しようとしていた、国のありかたにも重なり合うのです。
これを書いている4月中旬では既に芝居を劇場で観ることはほぼ叶わない状況。わずか一ヶ月前には劇場で芝居を観ることができて、おそらくはそこがクラスタにならなかったことは運が良かっただけかもしれないけれど、しかし劇場のスタッフたちがほんとうに注意深く行っていたオペレーションは印象に残るのです。
もし再演が叶ったら、(県立の立派な劇場があるのに)市長がやたらに欲しがっている市立の劇場のこけら落としで是非見たいな、というのは少々悪趣味か。
2020.04.05
【芝居】「聖夜の聖戦」ヨコハマ☆ミユキーズ
2020.3.7 19:30 [CoRich]
30分。夫婦によるユニット。2019年12月に御成座短編演劇フェスティバルinおおだてに参加した30分の小品を凱旋&結婚20周年の記念公園として1日限りの2ステージ。横浜ベイサイドスタジオ。
クリスマスの夜、教会でプレゼントを配るトナカイとサンタの扮装をする夫婦。出張帰りの夫の衣装の発注が遅く、間違っていたりするいい加減さに妻は腹を立てている。
夫はいい加減な感じで衣装もプレゼント袋も買ってないのに、慌てることもなく表向き落ち着き払って鷹揚に構え、しかしそのリカバリもいい加減で。いっぽうの妻は細やかで気遣いゆえにちゃんと出来ないことに始終苛ついていて。普段の彼らの姿を見ていたりもする二人、芝居そのままとは思わないけれど、20年の時間で積み重ねて来たものがあることが感じられて。
廊下に出てまだ二人で言い合いを続け、特にオチらしいオチもなく、フェードアウトするような終演。独立したひとつの物語と言うよりは、20年の時間のほんの30分を切り取って見せ、その外側にある20年時間を敷衍して想像させるのです。
ドリンクも配られ、夫婦の20年を思わせる演目、なるほど「結婚20周年」という冠を付けた公園、二人の人生を祝福したい気持ちになるのです。
最近のコメント