【芝居】「往転」KAKUTA
2020.2.23 14:00 [CoRich]
2011年初演作をパワーアップ再演。 140分。本多劇場。
高速夜行バスに乗り合わせた人々の4つの物語はそのまま。いつものようにワタシは初演の記憶を無くしているのですが、初演ではバスの模型やカメラを使いバスの外側を印象深く使っていた気がします。再演となる今作は作家自身の演出となりバス車体のシーンは無くなりました。劇場のタッパが増えたからか、舞台奥に壁、その上に墓参りなどの屋外の場所、上手側にやや八百屋舞台にベッド、下手側にはダイニングキッチンだったり仏壇がある畳の部屋だったりと人が暮らす空間という設えにしています。
バスの外側の演出を無くした結果、あるいは役者が変わったからか、4つの出来事を並行して描く枠組みを強く感じられた初演よりも、個々の人物がより立体的にたちあがるようになった印象があります。
母の骨を不倫相手とともに疎遠な兄弟たちに配って回る「アンチェイン・マイハート」は峯村・入江という冴えない中年カップルは情けなくコミカルなのに、それがより奥深さになっているよう。不倫関係で女はダメとわかっていて惹かれつづけ、家族の居る男は決断できないダメな性格なのに、傷ついた女が向かう小旅行には一念発起付き合うところがちょっといい。 年齢が近いからか、ある種の地味なロードムービーな感じが「歩んで」いく人を描いていると感じるからか、ともかくこのパート、ワタシの心をわしづかみにするのです。今作の中でもっとも濃いといってもいいところ。
農家の男が婚約者を連れ帰る途中で事故にあい、女だけが弟の住む実家に現れる「桃」では、転がり込んだ女を演じた小島聖はより不穏な色っぽさを醸し出します。徐々に惹かれ合うようで、しかし終幕にはあっさりと消えてしまうところなど昔話のようなミステリアスな雰囲気も纏います。
入院した若い女の横のベッドで眠り続ける男をめぐる「いきたい」は発作的に飛び降りた若い女の不安定さ、と隣で眠り続け、あるいは睡眠障害で夜にしか起きないと思っていた男の正体が物語のポイント。もっとも、いくら起きないといっても男女同室の不自然さとかいろいろ感じないわけではないし、行方不明となった運転手と同じ人物という構造が今ひとつ生きない感じなのは痛し痒し。見舞いに訪れる派手めなバー経営の女を演じた異儀田夏葉のガハハなおばちゃんキャラ風にみえて、繊細に人に向き合うという人物の造型が丁寧に。 全体のタイトルと同じ音のタイトル、「横転」は姿を隠して移動するIT社長に声をかけた実家近所のおばちゃんとなのる中年女のちょっとおかしなバス旅、冷徹な筈だった男がこの「おばちゃん」に巻き込まれるうちに向き合い、最後の事故できっちり人情を選択するあたりが実によいのです。中年女を演じた岡まゆみは、遠慮無くモノを言うブレないおばちゃんなキャラクタとその背後にある息子たちへの思いと自身のダメ加減を内包してきっちり。巻き込まれる男を演じた成清正紀は冷たさに徹しきれないところがご愛敬だけれど、それゆえに物語の中で溶けていく心が見えるよう。
2011年11月 | 2020年2月 | |
シアタートラム | 本多劇場 | |
「アンチェイン・マイ・ハート」 | ||
石神吾郎 | 大石継太 | 入江雅人 |
萩田宣子 | 高田聖子 | 峯村リエ |
「桃」 | ||
山田逸喜・晴喜 | 尾上寛之 | 米村亮太朗 |
津川浅子(婚約者) | 市川実和子 | 小島聖 |
及川ハナ(看護師) | 安藤聖 | 多田香織 |
「いきたい」 | ||
千住知花 | 穂のか | 吉田紗也美 |
庵野一郎 | 浅利陽介 | 長村航希 |
井戸ヨシエ | 柿丸美智恵 | 異儀田夏葉 |
「横転」 | ||
遠藤照実 | 峯村リエ | 岡まゆみ |
キムジノン | 仗桐安 | 成清正紀 |
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