【芝居】「貧乏が顔に出る。」MCR
2019.12.28 15:00 [CoRich]
2008年初演、2012年再演作の三演め。ワタシは初見です。100分。offoffシアター。
大学からの知り会いでいい歳の三人の男が古いワンルームのアパートで暮らしている。彼女の家に転がり込み、別れた後も居座り彼女が出ていった後も住み続け賽銭泥棒で暮らす男。会社にあまり行けない会社員、コンビニバイトの男は彼女が居てここから出て一緒に暮らそうというが、居心地が良くて出られない。
賽銭泥棒のついでに酔って拾ってきた地蔵に願いをかけると、記憶を失う代わりに金が手に入ることがわかる。
四十歳近くになってもろくに定職にもついてなかったり、会社員ではあってもちまちまと横領していたりとダメなホモソーシャルな男たち。彼女がまともな生活させようと考えたり、弟が兄のいい加減さのとばっちりを受けたり、会社にはもっと酷いことを平気でする後輩がいたり、家賃を下げるよう働きかけさせようとする隣人がいたりと、それぞれにダメだったり何かが欠けているような様々な人々を描きます。
ほぼ干支一回り前の初演からどれだけ改稿されているかわかりませんが、現在の物語だと言われてもわからないぐらいに、ワタシの感じる現在の地平からごく近く地続きになっています。それは格差だったり、盗撮や横領など壊れたモラル、自分の主張ばかりの隣人などがてんこ盛り。むしろこれを11年前に観ていたらピンときてなかった可能性すら感じるのはワタシの側の変化かもしれませんが。
自分の「記憶を売って」半ばヤケなのか、酔って女の浮浪者を連れ込んでいるけれど、それは男女の何かではなくて、それも超えて四人目の住人かのように受け入れていく感じがちょっと面白い。演じた加藤美佐江は男女のグラデーションのどこでも自在に演じる役者だということが明確にわかる役なのです。
大家の息子という人物(澤唯)が実に面白い造形。昔で云うバンカラな男三人(櫻井智也、おがわじゅんや、北島広貴)とつるんでいて、仲もいいけれど途中で挟まれる「こっち側に来たいと思ってるだろうけど、そうはならない」という店子の側からのセリフが強烈なのです。上の側からは歩み寄り、仲間だと思っていて、下の側はそれを受け入れているけれど、その間には決して渡れない深い溝があるのだということをきっぱりと言い渡すのです。コミュニティの近くにはいても明確に分断されているということは残酷だけれど、それもまたよくある事実でもあって。
会社員の後輩は静かなサイコパスに描かれています。これもちょっと現在にありそうな感じですが、物語の中では明確にヒールとして描かれます。演じた小西耕一がほんとに怖い。
別れた女のことが忘れられないままダメになっていく男は、MCRではときおり形を替えながら現れるモチーフで、今作ではこの部屋のもともとの住人の女を待ち続けている、ということが物語の根幹として描かれます。様々な人々が騒がしくしていても、待っている男の中には明確に彼女のことがあって、その記憶を地蔵に売るのかどうか、いくらになるのか、ということのせめぎ合いが絶妙なバランスで終幕までの導線を引くのです。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「獄窓の雪」オフィスリコ(2023.12.04)
- 【芝居】「静流、白むまで行け」かるがも団地(2023.11.25)
- 【芝居】「〜マジカル♡びっくり♧どっきり♢ミステリー♤ツアー〜」麦の会(2023.11.25)
- 【芝居】「未開の議場 2023」萩島商店街青年部(2023.11.19)
- 【芝居】「夜明け前」オフィスリコ(2023.11.19)
コメント