【芝居】「あつい胸さわぎ」iaku
2019.9.14 19:00 [CoRich]
iakuの新作。110分、9月23日までアゴラ。そのあと大阪。
芸大に進んだ娘と母親の二人暮らし。高校は別だった幼なじみの男と同じ大学に通い始め、顔を合わせることも多くなる。母親が勤める縫製工場の若い女は母娘と親しくしていて、姉代わりに相談に乗ったり、小説など娘が芸大に進む影響も与えている。
縫製工場に関東から係長として男が赴任してくる。独り身の男に、社長は取引先からのサーカスのチケットを渡して一緒に行くように薦め、母娘、同僚の女、係長、そして幼なじみの男も一緒に行くことになる。
高さの違う段をいくつか組み合わせた舞台、細い柱で上方に絡んだような赤い糸が人のつながりのようでもあり、血管のようで、生々しい生を表しているようでもあります。
恋心を抱いていた幼なじみの男に中学生の頃に胸をからかわれ、大学に通い始めた歳まで恋人がいたことがなく、しかし大学の課題で小説を書くことになって恋愛経験がないことを改めて悩むようになった娘。再会した幼なじみの男に恋心を抱いているけれど、その男は母親の同僚である年上の妙齢の女に向いていて、一夜をともにして。一方で母親も赴任してきた上司に淡く恋心を抱きと、たった5人しか居ないのに、ひとびとの関係は濃密につながりあうのです。
前半の会話は 母娘のある種の家族ゆえのうっとうしさも、あるいは姉代わりの若い女を含めた三人の信頼も感じさせる軽口が混じり合い軽快に進みます。職場で新たに迎えた上司に対する警戒感からなじむ感じもとてもいいのです。 後半に進むにつれ、母娘の恋心は儚く叶わないうえに、娘に早期の乳がんが見つかる不幸が襲い、内容は重苦しく。しかし、支える関係であったり、娘も「文章を書く」ことでしっかりと自立していこうという成長を感じさせるのです。手術などどうしていくかという結論が明確に語られるわけではない結末だけれど、この母娘は大丈夫、と思わせる力強さがとても頼もしい。
一部では婦人科系の、と呼ばれる作家ですが、今作もその例に漏れず、三人の女性がとても細やかに描かれ、スパイラルを描くように変化し成長していく物語はミニマムなのに幾重にも重なる物語をつくりだしているのです。 娘を演じた辻凪子は幼さすら感じさせる序盤から、苦難を経てきちんと成長する人物をきっちり。妙齢の女性を演じた橋爪未萠里は若い男を惑わす色気を纏い、なかなかにヒールな役回りだけれど筋はきちんと通すさっぱりとした造形もとてもよく。幼馴染を演じた田中亨は若いゆえに欲しく、しかも手に入るだけの美形という説得力。上司を演じた瓜生和成は心機一転ゆえに更に敬意を持って人に接する人の良さと、それなのに好意に気づかないラフな感じが同居する奥行き。今作でとりわけ目をひくのは母親を演じた枝元萌で、少々雑なおばちゃんから恋する女の臆病さまで広いダイナミックレンジを繊細に。
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