【芝居】「らぶゆ」KAKUTA
2019.6.2 18:00 [CoRich]
本公演としては約2年半の休止期間を経ての新作公演、初めての本多劇場。休憩挟み150分。
刑務所の受刑者だった男たち。そのうちの一人がひょんなことから福島の広い土地と空き家を相続することになった。そういえば刑務所の中でみんなから可愛がられていたまっすぐな男は、そんな田舎の土地でここの仲間たちと暮らしたいといっていたことを思い出す。それぞれが出所しそれぞれの暮らしをしていた。逮捕をきっかけに離婚し会うことも叶わなかった娘が突然家出してきた投資詐欺の男、通っているパチンコ屋の老女に何かと世話を焼いている模造薬の売人の男、恋人からの暴力と搾取から逃げてきたのは性転換手術を受けて女となった元受刑者たちの田舎暮らしが始まる。
その土地の隣では兄妹それぞれの夫婦、と親戚の女、フィリピン人で嫁いできたが今は離婚している女たちが農園を営んでいる。農家の経験がまったくないままの都会からの移住者たちと徐々にうちとけていく。
ここ十年ほどのKAKUTAはままならない大人たちのほろ苦さと生活の力強さとほろ苦さが同居する物語を描くようになってきていて、休止を経た新作は客演陣のパワーアップ、とりわけ役者の年齢と芝居の広がりにより物語の強度を更に手に入れたと思うのです。
ちょっとびっくりするほどのバラエティに飛んだ、しかも決して少なくはない登場人物たちそれぞれに丁寧に物語を用意し群像劇として、「生きていくしかない人々」を細かく、時に豪快でコミカルに描いていきます。
東京の人々は犯罪によって歪んでしまった生活から徐々に立ち直る人々。基本的には凶悪ではなくて、何かのボタンの掛け違いが生んだ結果を償っている人物たちを描きます。それは思春期のすれ違いがちな親子、子を亡くし残された老女と見守る男、LGBTとそのまわりの人々、面倒をみていた老人から土地を相続した男など、びっくりするほどのバラエティ。唯一回想シーンにしか登場しない自死した男はこの土地を夢見ていて結果としてこのバラバラな人々をゆるやかにつなぎとめる、というファンタジーを交えつつフィクションゆえの振り幅の見応え。
福島で生活する人々はこの場所で一族を率いなければならない男であったり、そこに半ば婿養子のように同居する立場が難しい妹の夫であったり、役所で文句言われながら働いている男であったり、望んでいた子供を生むことができなかったり田舎に馴染めない女、いわゆるフィリピン妻、修道士を辞めることになって流れてきた女であったりと、代わり映えしない日々の生活の中での閉塞感を感じている人々。東京の人々のある種の派手なバラエティとはことなる、いわばミクロな視点でのバラエティ。その2つの視点の人々を物語の中で同居させピントを両方に切り替えながら描く奥行きの深さの見応えは、もう十分に実力のあるKAKUTAが更にステージを上げたと感じさせるに十分なのです。
生きる人々を丁寧に描き、最初はぎこちなかった人々がなんとか回り始めたかと思ったころにこの「都会もん」の正体が明らかになりそうになったところで、舞台はもう一つの不穏さをまといます。311という特異な事象を物語に持ち込むことは、ここまで広げまくった物語を一瞬で転換するという機能があるにしても、時間があるていど経った今だからこそなおさら相当に繊細な問題で、正直に言えば少々強すぎる現実を持ち込むことに多少の違和感を感じるワタシです。それでも、この転換点が生きていこうという意思が強調されるようにも思うし、意図的ではないにせよ、ここまで続いてきたユートピアがこの人々の過去がバレて糾弾され人の手で壊されるよりも、災害とはいえ大きな力で壊され、事情をしってもなお互助する人間らしさを残しつつこの場所がゆるやかに解体されたということに安堵する自分を発見したりもするのです。
パチンコにふける老女を演じた松金よね子は子をなくして時間を持て余す悲しさをきっぷの良さで隠す奥行き。その女を気にかける男を演じたみのすけは軽薄にみえて贖罪の気持ちの芽生えのグラデーション、その気持を受け止める元修道士を演じた異儀田夏葉は、母なるということばがぴったりの包み込む広さをきっちりと。娘を持て余す父親を演じた小須田康人は不器用さが勝る造形で人物を作り印象的。フィリピン妻を演じた桑原裕子は少々飛び道具な感あれど、悲しさも慈悲も兼ね備えつつ劇団の復活の祝祭感すら感じさせるのです。
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