【ミュージカル】「Ukiyo Hotel(トライアウト)」Ukiyo Hotel Project
2019.5.24 19:00 [CoRich]
作家・河田唱子がさまざまに形を変えながら上演を続けている、横浜の娼婦・メリケンお浜を題材にした物語。来年のミュージカル上演に向けてのトライアウト。鮮やかなweb版パンフレットもカッコいい。
100年前にあった娼館、ウキヨホテル。漁村で生まれ子供の頃から男たちの目を集めていた少女は村を出て行こうと考えている。外国人に買われ、暴力を振るわれていたある日、主人を銃で撃ってしまう。野心を持った男と出会い、娼館を開き、自身は看板となっていく。身の回りの世話をする少女は海で入水自殺をしようとしているところを止められ雇われる。 更に大きく評判を取ろうと考えた男は、作家を呼びさらにエログロを打ち出して行く女自身はそれをどうとも思わないが、メイドの女は違和感を感じて娼館を辞め新聞記者になったある日、ウキヨホテルで「性の決闘」が開かれることを知る。
実在した「キヨホテル」をモチーフにしたフィクション劇画「淫花伝・本牧お浜」を再構成して舞台化、という触れ込み。作家はこのキヨホテルをめぐる舞台を、 2015年の短編、 2017年のレビューショーや ミュージカル、 2018年の朗読劇 などさまざまな視点で描いてきました。もはや作家のライフワークといってもいいかもしれません。今作は2020年に長編ミュージカルという新たな挑戦のトライアウトと位置づけられます。
100年前の出来事、現在生きる老婆が思い出す当時の人々が死者が蘇るがごことく繰り広げるミュージカル。ショーあり心情を歌い上げる曲もありと、セットこそシンプルですが、試験版というわりにかなり本格的な仕上がりになっています。
描く舞台によって、お浜の人物そのもの、あるいはまわりの人々もかなり違うように描かれていて、実際のところ実在のお浜やキヨホテルなどのいくつかをモチーフにしているだけで創作がかなり入っているよう。それは今作が原作としてあげる劇画そのものもかなりフィクションのようで、史実の隙間を埋めると云うよりは史実とは異なったことも含めて物語を作り上げた、ということは念頭に置いておいたほうがよさそうに思います。
虐待を受ける少女が殺人とはいえ男に刃向かい、パートナーを得て娼館を立ち上げ、しかしエログロの波に狂気を持って、しかしあくまで他人から命じられたのではなく、すくなくとも自分の意思でその狂気に身を投じているというメリケンお浜。対比するように孤児院で育ち虐待を受け、メイドとして雇われることで救われ、新聞記者となることで女性の自立に目覚め、他の女性も救わなければならないと使命感に燃える女性・ヤエという二人の女性を軸にして物語がすすみます。
とりわけ、「女性の自立」は実際のところこの時代のものというよりはずっと現代的で私たちの視点に近いもの。過去の出来事を現在の視点で断罪することになりかねない危うさはあるものの、それでもこのウキヨホテルの一連のプロジェクトの中では初めて取り入れることで、この物語を今の私たちの時代と地続きのものとして描こうとする作家の意思を感じるワタシです。おそらくそういう女性は存在しないわけで、史実とその隙間を描く手法では得られない、「つくりものだから」こその可能性を感じるトライアウトなのです。
セリフの一つに「本当の歴史は残らない」というのがあって、エロなど世俗の取るに足らないと思われたものの中にこそ、その断片は隠れているという強いメッセージを勝手に感じ取るワタシです。それは現実の私たちの暮らしや歴史の動きがちゃんとアーカイブされないのではないかという昨今のワタシの絶望になんかリンクしたのかなと思ったり思わなかったり。
伝説の娼婦メリケンお浜を演じた関谷春子は美しく豊かな表情の見栄えと何もかもがピシッと決まるかっこよさ。メイドから記者になる進歩的な女性を演じ語り部も兼ねた野田久美子は老婆から少女、職業婦人と变化をきっちりと。ホテルのオーナーを演じた菊地創のキマったかっこよさと強烈な上昇志向のギラギラな感じ、もう一人の語り部を兼ねた車夫を演じた田中惇之は序盤から客席を急速に一体にしていく人懐っこさとパワーが魅力。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「夜明けのジルバ」トローチ(2025.03.08)
- 【芝居】「ユアちゃんママとバウムクーヘン」iaku(2025.03.01)
- 【芝居】「なにもない空間」劇団チリ(2025.02.27)
- 【芝居】「Come on with the rain」ユニークポイント(2025.02.24)
- 【芝居】「メモリーがいっぱい」ラゾーナ川崎プラザソル(2025.02.12)
コメント