【芝居】「死んだら流石に愛しく思え」MCR
2019.5.12 15:00 [CoRich]
115分。スズナリ。
金網とモノトーン、ちょっと不穏な雰囲気、中央に机があり、その幅で黒いカーペット状の帯が舞台奥から客席まで貫かれています。
2015年初演の初演からかなり手を加えたといいます。ワタシでもわかる変化点は、この猟奇的な夢を見ているのが男性から女性になっていること。自分はもう誰にも愛されないかもしれない、という不安は初演の中年のおじさんは優しいキャラクタではあっても、やはり哀しさを感じさせる造形になったのに比べて、若い女性が演じると、まったく違う意味合いを帯びるのです。初演がどうだったか覚えてないけれど、自分の中に発見した殺人鬼の影、それを他人に悟られたら、というややファンタジーめいた、しかしそれはいろんな要素で起こりうるな、とも思うのです。
初演と同様、連続殺人犯・ヘンリー・リー・ルーカスの話を下敷きに。母親からの虐待、それゆえに母親を殺してもなお自分の中から湧き上がる暴力、あるいは出所後に知り合ったもう一人のシリアルキラーや天使と呼ぶ女性の存在などの史実を巧みに織り込みます。そういう男の話を夢に見る女、自分の中に発見した殺人鬼ゆえに自分は愛し愛されて「普通に」生きていくことができないのだ、という苦悩という2つの階層で進む物語はインパクトと深い絶望で丁寧に描かれるのです。
終幕近く、大量のグレープフルーツを潰し、あるいは口にしたりというシーンが強烈な印象。人を殺しその肉体を切り刻み時に口にするというおぞましさと、目に見えている果物のみずみずしさや爽やかな香りとのギャップ、映像では作り得ないシーンの描き方なのです。
二人のシリアルキラーを演じた川島潤哉、奥田洋平はどこか対象的な二人のコントラストを鮮やかに。天使と呼ばれる女を演じた後藤飛鳥は初演同様の安定。夢に悩まされる女を演じた笠井幽夏子は初演とは性別が違う新たなキャラクタを物語に。
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