【芝居】「たまゆら、の」たまゆら
2019.2.8 19:30 [CoRich]
フリーの女優・環ゆらによる自らのユニット、旗揚げ公演。studio saltの椎名泉の作演による新作書き下ろし。10日まで神奈川県立青少年センター・HIKARI。105分。
望まない妊娠をした少女に部屋を提供し出産までのサポートと養子縁組の支援を行うNPOの一室。水商売の母親の再婚相手との妊娠で母親との折り合いも悪い少女。あるいは有名な大学に進学までしたがそこの講師の男の子供を宿したが相手は別れを切り出してきた女。
社会的に弱い立場の人間を描く作家らしい視線。自劇団では男性俳優が多くどうしても男性を描くことが多くなるけれど今作はオーディションでの多彩な女優を交えて、「女性と命」をめぐる物語に。 歓迎されない妊娠を支える女性は、自らもまた若い頃に堕胎したことに苛まれています。年齢を重ね強くなってはいて、熱意を表面的にはクールに隠しながら、若い女性たちを丁寧に包み込む主人公。双子の堕胎の事実は、漫才師のような口調で現れる二人の少女という形で舞台に現れますが、それは登場人物たちには見えず。知的障碍をもつNPOの調理担当のスタッフにはそれが猫に見えていて、という接点はあるのですが、あくまで彼女たちが現実の世界を優しく包み込むように。
静かに日常として進んでいた会話の芝居、この双子の「生きることは走ること」というセリフをきっかけに登場人物たちが走り回る抽象の世界へ。やがてゴールに向かって走る若い女性二人の出産がゴールテープを切ることができたかどうか、という形で対比し表現しているのです。出産そのものを生々しくなく、しかし身体の疲労ということやスピード感や達成感やゴールできなかった無念さをぎゅっとゴールテープに集約するというのはある種の発明で、シンプルでしかもわかりやすいいいシーンなのです。
主宰・環ゆらは年齢を重ねたゆえの落ち着きと包み込むような安堵させる空気の安心。知的障碍の男を演じた浅生礼史はこういう「喋り口」の役がどうしても多いけれど、正論をゆっくりと噛みしめるように舞台に載せるという意味で確かに効果的でその安定感。養子縁組を希望する夫婦を演じた野比隆彦・渡邊陽子は実直だけどふわふわと定まらない造型は子供が出来れば地に足が付くように感じている人物という裏返しな雰囲気でもあって。 言い寄り続ける男を演じた鷲見武は序盤でデリカシー皆無な雑な人物として描きつつ、忘れた頃の終幕近くでそれが木訥としたしかし熱意のあるまっすぐな男として現れる格好良さ。もしかしたら仕事に全てを捧げてきてしまったNPOの女が自分の人生を歩み出した瞬間、ともいえる雰囲気で。 大学生を妊娠させた挙げ句逃げ出した男を演じた山之口晋也は優しく見えてどうしようもないクズ男を完全にヒールとして演じきります。
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