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2019.02.06

【芝居】「Mann ist Mann (マン イスト マン)」KAAT×まつもと市民芸術館 共同プロデュース

2019.1.31 19:00 [CoRich]

ブレヒトの喜劇を原作に、飲食付きの130分、2月3日までKAAT・大スタジオ。そのあと長野県・信毎メディアガーデン、 ホクト文化ホール 中ホール、 伊那文化会館 小ホール。KAAT神奈川芸術劇場と長野・まつもと市民芸術館による初の共同プロデュース公演。

インドのイギリス軍、戦地チベットに向かう軍隊の集結地へ向かう機関銃部隊の四人は途中寺院に押し込み略奪を働くが、一人を残すことになってしまう。部隊は四人一組の行動を決められておりそれを隠すため、通りがかりにみつけた地元の荷揚げ人夫を兵士に仕立てることを思いつく。

客席前方席はテーブル有りのキャバレー形式、後方席でもロビー販売のビールやカレーパンなど持ち込み可の客席。役者たちはレストランのコックや給仕たちという仕立てで開場中の誘導をし、その従業員たちがキャバレーの出し物として、芝居を演じる、というスタイル。喜劇とはいいながら相当に深刻な物語の外側にちょっと猥雑で騒々しい殻をかぶせることで、観客からは箱庭の世界で起きているように距離を持って体験させる、と言うスタイル。

イギリス人の兵士たちはインドの寺院で当たり前のように略奪しみじんも罪の意識もなく、ただただ隊での処罰を避けるにはどうしたらいいかと行動します。残された一人がアイルランド人という設定で少々小馬鹿にされているというのも、時代の雰囲気を色濃く残します。

それに巻き込まれるのは港町で妻と慎ましく暮らしていた荷揚げ人夫で、頼まれたから断れない、いくつかの交渉はするものの、結局のところなりすましの片棒を担ぎ、それはほんの一瞬の筈だったのに、そのまま兵士となり同僚となる道に巻き込まれていきます。人夫らしく「象をもっていれば安泰」という価値観を逆手に取られ、偽りの象の売買に加担され、それを見咎められて裁判にまでかけられて。

巻き込まれる過程では完全に人のいい被害者だけれど、「ワタシをワタシたらしめているものは何か」が徐々に剥ぎ取られていくような恐怖。全体のトーンはコミカルなのに怖さが際立つのです。終幕、戦地でいっぱしの兵士となった元人夫は完全に兵士のそれとなり、撃ちまくる大砲がかつての妻の故郷だったこともなんとも思わなくなっています。そのなりすました相手が現れても同僚も含め取り合わず、完全にその人間に成り代わり、無慈悲な兵士に成り果てているのです。

あるいは規律に厳しい軍曹は寺院を襲った犯人を追っているのだけれど、反面雨の降る日は酒場の女を求めて骨抜きどころか醜悪な一面を覗かせます。もちろん人間なのだからいろんな面あるけれど、戯画的に正反対の人物を切れ目無く描くことで、その人をその人たらしめているものがなにかということがあると信じたいワタシの心を揺さぶるのです。

人夫を演じた武居卓はコミカルで人がよく巻き込まれがちな男から、自我を揺さぶられ、まったく別の人間になってしまう狂気の一部始終をきちんと背負います。真剣な狂気みたいまものの造型の巧さは 土砂降りボードビル( 1, 2) でも存分だったけれど、それを磨き抜いていて印象に残るのです。 軍曹を演じた串田和美は堅物と醜悪の二面を行き来する人間の弱さが目立つ造型の奥行き。

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