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2019.01.31

【芝居】「ショウジョジゴク」日本のラジオ

2019.1.20 19:00 [CoRich]

夢野久作の原作(青空文庫)にある三つの物語を緩やかに一つの世界にリミックス。70分。22日まで新宿眼科画廊。

ある開業医のもとに現れた少女は優秀な看護婦だったが紹介しようという医師はハプニングが続き会うことができない。彼女の言葉に反して会いに行くことを決めると、果たしてそこにはその医師が居て、彼女には虚言癖があると聞かされる。(何んでも無い)
医者の元に現れた男はバスの運転手だといい、女の妊娠について相談をもちかける。(殺人リレー)
仲の良い女学生の先輩後輩の女二人。火星からやってきたと名乗る先輩、教師は厳しくやさしいが、不穏な空気をまとう。

ワタシは原作未読、後から青空文庫で読みました。 原作では別々の三つの物語を骨格にして、ゆるやかに繋げながら一つの世界に作り込みます。物語全てを作り込むわけではなく、細かく切り刻んで混ぜたり、語られていない前日譚や隙間の物語を創ったりとリミックスを超えた楽しさなのです。

少し時間を置いて考えてみると、元々はわりとバラバラの視点だった三つの物語だけれど、その時代の語り口は基本的には作家が持つ男の視点なのです。 とりわけ、バスの車掌はもともと女性側の書簡だけれど、そこに登場する男性のバス運転手をとりあげ、女子高生の話も、原作での彼女たちが目撃した大人たちの汚さというより、その前に女子高生が感じた理不尽と気持ち悪さを両面から描くのです。

今作は三人の男と四人の女という構成だけれど、女たちはそこに(自然に)あるものと描かれ(ている気がする)、男たちは妄想も含めて考えすぎたのか狂気を帯びた人々と描かれます。道端に咲く花を摘んだりしそうな、そういうパワーバランスの時代の作家が書いた物語と読んだ私です。

理不尽な時代に理不尽に(しかし面白く)描かれた物語。その時代においての理不尽を働いていた男たち。運転手含めて三人の男たちは終点の精神病棟にまとめてバスで送り込まれる、という終幕。原作にはない部分で、かつての理不尽の原因の男たちをまとめて片付けてしまう、と意図的に読み取る私です。こういうリミックスを(原作者ではない)作演が行い上演できること。著作権が切れた作家の物語をさまざまに解釈して発表できるようになった、というありがたさなのです。著作権が伸びた昨今、これができづらくなるのは観る側にとっては少々辛い気がしたりしますが。また、それが昨年あたりからもりあがる#MeTooにも地続きな地平から少しばかり批判的な視線で描いているのもまた、時代への変化ということなのです。

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2019.01.28

【芝居】「魚座はラッキー、素敵な出会いが待ってるかも。」あひるなんちゃら関村個人企画

2019.1.20 17:00 [CoRich]

あひるなんちゃら関村俊介が続けるコンパクトな公演45分。20日までanima。

小説家を目指しライターとなっている女。雑誌の占いコーナーの連載が書けずに困ってる。友人と夜の公園で缶チューハイ片手に話している。引き受ける気満々の友人だがライターは不安に思いながら、試しに始めた連載は4週連続で同じ星座が一位になるような代物だったがネットで評判になる。

二人ないし三人芝居をごく短くコンパクトに上演するシリーズ。 毎週同じ魚座を一位にしながら軽々と占いを半年分書き上げてしまう気合い。悪いことをしてる自覚すらなく、そのズレで作り上げる笑い。インチキだという自覚はあって、折角だから占いを勉強して本当の占いで連載を止めると心に決めたり。

書けないライターを演じた未莉は友人の仲良し感を持ちながらツッコミ続けるある種の優しさな造型が時に凛々しく時に空回り感。勝手な占いを書き散らかす友人を演じた 鈴木朝代はニコニコとおかしなことを言い続ける姿は可愛らしいぐらいなのに、そのテンションが変わらないのは実は狂気を宿しているほどに。二人で缶チューハイを持った会話だけれど、350ml缶と500ml缶という対比になってるのもちょっといい。

このシリーズは宇宙や宇宙飛行士をめぐる物語でゆるやかに繋がっていて、全体が大きな「関村ユニバース」になっています。今作は2017年の「スカイスクレイパー」 https://kawahira.cocolog-nifty.com/fringe/2017/12/post-af0e.html に登場する漫才師の片割れであることが終盤にあかされます。いつか宇宙で漫才をしたいけれど、あのときの相方とは喧嘩別れした雰囲気がユニバースの一端になっていて、ちょっと思い出して、心で小さく笑ったりなワタシなのです。

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2019.01.24

【芝居】「GOLDEN TIME」スクランブル

2019.1.18 19:30 [CoRich]

20日までSTスポット。

劇団稽古のために待ち合わせる4人。ひとりの処に作演を兼ねる主宰が亡くなったという連絡が入る。ショックのあまり何も考えられないもの、劇団は続けて行きたいと考えるもの、起業のため休団を考えていたもの、最近入団したが結婚を考えているもの。ずっと続くと思っていた劇団だが抜けた主宰の穴は大きく。

小劇場の芝居の稽古っぽく、公民館の会議室といった風情のパイプ椅子とテーブル。ペットボトルが並んだりして、これから話し合いか稽古かという雰囲気だけれど、それは日常の延長線の上にあって。そこに告げられた主宰の死。その情報自体がちょっとあやふやで、徐々にそれが本当だと判るのに時間がかかるのはちょっとリアルな感じ。

必ずしも成功しているわけではない劇団、きっといつかは離れることになる、あるいは趣味として続けることになるのかとぼんやり考えていただろう矢先のこと。主宰なしでも芝居を続けようと考えるものもいるが、そもそも芝居から離れようと考えている人も居て、しかしそれを隠していたりして、主宰の死に際してどうしていこうかという気持ちが、すれ違い、あるいはやり過ごしていこうと考える人々のかみあわない会話が持ち味。

主宰の死を親から伝えられた女の存在は他の人々とすこしばかり特殊な位置付けです。互いの両親との連絡先の交換をしていたり、強いショックを受けていたり、あるいは唐突に主宰の名前を入れ墨として彫ろうと考えたり。明確な台詞としては示されないけれど婚約に向けて進んでいたであろと思わせます。唐突な入れ墨の話しでそれまで暗かった表情が明るくなり、すこしばかり狂気めいた表情になるのがおもしろい。芝居を続けようと考える男が場当たり的にプロポーズしてあえなく玉砕するのもコミカルです。

続けたい一人だけはあまり考えずに現状維持のつもりだけれど、他の人々は上の婚約の他にも夫との起業や結婚して農業を始めようとしていたりして芝居の日々からは一歩踏み出そうとしています。もっともその計画がずいぶんと軽くあやふやだったりもして、その確実性はずいぶん幅があるのですが。

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2019.01.23

【芝居】「トロンプ・ルイユ」パラドックス定数

2019.1.12 18:00 [CoRich]

110分。シアター風姿花伝。初日が一日遅れたため当初予定では14日だった千秋楽が15日になっています。

2011年初演作を再演。

「だまし絵」というタイトル。厩務員や馬主、予想屋といった人々と、競馬馬たちを役者がそれぞれに兼ねて演じます。人々が背負う背景や性格はそれぞれの馬にも似たところがあって、一人の役者を通して裏表に造型していくのです。

経営の厳しい厩舎で見合いの話が出ている調教師と、引退間近で種馬として引き合いの多い馬。馬が可愛くてしょうがない馬主とかつて活躍した高齢馬、予想屋の片鱗をみせる若者とまっすぐ走り続ける若い馬、当たらないぼんやりな予想屋と決めるときはばっちり決める競走馬、若き意欲的な調教助手と中央駅馬から落ちてきたサラブレッドなどの裏表。胸元の手綱の付け外しだけで役も場面も継ぎ目無く切り替わるのはまるで映像のカットバックをモーフィングで行うかのよう。

中央ではないにせよ、競馬馬たちにはそれぞれの力量に応じたレースに出場し、それぞれのゴールを目指しています。なるほど、それは人間たちの人生をレースに喩えるのの相似なのだと思い至るのです。初演はちょっとトリッキーな仕掛けに過ぎるように感じたのだけれど、あれから8年、芝居のクオリティが上がったのか、ワタシが人生のゴールについて考える歳になったのかどうなんだか。

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2018年は155本でした。

もう2019年も半月過ぎてるのにやっとこさの2018年の感想を書き終えました。

2017年は190本で、2013年から210→224→212→193→190→155本と無事に観劇本数は減っています。まあね歳取るしね、エッジの効いた新しいものを観られなくなってるなという実感があります。寂しい気持ちもあるけれど、まあ誰もが通る道だとは思いつつ。今年もよろしくお願いします。

2018年の観劇リスト

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2019.01.22

【芝居】「gaku-GAY-kai 2018 贋作・冬物語」フライングステージ

2018.12.29 19:30 [CoRich]

30日までシアターミラクル。休憩を挟み二部構成、220分。

異性愛とゲイが川を隔てて住む歌舞伎町と新宿二丁目。二人の王は幼なじみだったが、二丁目の王は妻の歌舞伎町の王との浮気を疑い、毒殺を企てるが歌舞伎町の王は脱出に成功するが、妻を牢獄に入れてしまう。妻は王女を宿しているが、二丁目の王は国外に捨ててくるように命じるが、幼い王女は羊飼いに拾われる。二丁目の王は神のお告げにより浮気は誤解だったことを知るが既に遅い。
16年後、王女は成長し歌舞伎町の王子と身分違いの恋に落ちるが、歌舞伎町の王は許さず、若い二人は二丁目に逃げ延びるが、二丁目の王はその女が自分の娘であることを知る。死んだと思った王妃も生き延びていたことがわかる。第一部「贋作・冬物語」

第二部・

  • 「アイハラミホ。の驚愕!ダイナマイトパワフル歌謡パフォーマンスしょー」アイハラミホ。
  • 「佐藤 達のかみしばい 僕の話をきいてください」佐藤 達
  • 「朗読『水月モニカの百合物語』」水月モニカ
  • 「ドラァグクィーン ストーリータイム」関根信一
  • 「おっさんずライブ」芳賀隆宏
  • 「防弾エプロン 2018」西山水木
  • 「小夜子なりきりショウ リヴァイタル:リュネール」モイラ
  • 「ジオラママンボガールズの人生」ジオラママンボガールズ
  • 「中森夏奈子のスパンコール・チャイナイト vol.10」中森夏奈子
  • 「今年もアタシ、第二部で何かやろうかねえ」エスムラルダ

がっつり物語の第一部。 実はシェイクスピアの冬物語未見のワタシ、年末のお祭り企画らしく華やかで笑いもまぶしつつ、ネットで探した原作のあらすじを読むと、思いのほか忠実で物語としての見応えがしっかり盛り込まれていることが判ります。 ゲイや風俗街をめぐる枠組みは新宿という場所をホームにするかれらの実感を伴っているのか、毎年なんらかのモチーフに。今作では物語の枠組みとなる二つの国を模しています。ことしはそれほど強く何でも同性愛に落とし込むようなことはないけれど、まあ自然に男同士が夫婦だったりはするので、それはごく自然なものとして物語に取り込まれている、ということかもしれません。

物語に加えて、ダンスや当て振りなども多く、2時間弱に濃密に詰め込まれたあれこれがお祭りらしく楽しい。 良く知られた曲のアゲアゲなテンポも繁華街らしく盛り上がります。

多彩なゲストが短い出し物をする第二部も年末企画のお楽しみ。歌謡ショーありダンスあり紙芝居ありライブあり、リーディングありと盛りだくさん。あんまり考えずに年末の観劇納めにするのがここ数年のワタシなのです。 「ダイナマイトパワフル」な歌謡ショーに笑い、「紙芝居」の素朴さにほっこりし、「ジオラママンボガールズ」の昭和歌謡のネタに驚き、「中森夏奈子」の明菜ネタを応援し、「エスムラルダでマンボ」で締める楽しさ。人気の企画で、ほんとにこれで年の瀬を感じる私です。

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2019.01.16

【芝居】「アトムが来た日」serial number

2018.12.28 19:30 [CoRich]

原発を巡る二つの場面を描く140分。12月29日までスズナリ。

1950年、日本に原発は必要だとして、メーカー、商社、政府が導入を画策する。同時に何カ所かで研究用原子炉のの招致が熱を帯びている。
2040年。原発の全廃が決まり廃炉のための処理施設として作られた場所、日本で最後に原子力の技術を受け継ぐ6人。そこへ官房長官一行が現れる。もう一度原子力発電を始めようという。

二つの時代を行き来して描きます。制服や眼鏡の有無で時代や役を切り替えることや、多くの専門用語があっても流し聞きすればよいことを告げる前説に続いて始まります。 一つは高度成長を支える原動力として待望されている原子力、それを心から前向きに受け入れ導入に邁進する人々。メーカーや商社、あるいは政府の公務員たちがそれぞれに知恵をしぼり、時には半ばちからづくで精度を上げていく姿。もしかしたら少々荒っぽいやり方かも知れないけれど、パワフルで前向きな人々、高度経済成長に重なる人々の姿。良くも悪くも成長を信じて疑わない明るい日々。

もう一つは福島後、廃炉が決まり原子力研究が廃炉だけに限られるようになった世界。こちらは(コミカルなシーンは数々あれど)基本的には静かでフラットで冷静さが勝るトーン。しかし、潰えようとした原子力の火をもう一度復活させようと考える官房長官の存在。 癌に画期的な治療法が見つかり放射線そのものを以前ほど危険視せずによくなったというファンタジーを交えることで、半ば思考停止になりがちな原子力発電の復活について、その可能性を考えるという一種の思考実験という意味合いも帯びるのです。なるほど。

技術者を演じた岡田達也の実直な造型、真摯に技術に向き合う人物という説得力。原子力発電の復活を目論む官房長官を演じた福本伸一は、ちょっと食わせ物な雰囲気を持ちつつも、話題に対してきちんと向き合い理解して制作を選び取ろうというある種の理想の姿。そうじゃない受け答えばかり観ている昨今、これすらファンタジーになりそうだというのは云いすぎか。

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2019.01.10

【芝居】「短編集 踊る阿呆に見る阿呆」空飛ぶペンギンカンパニー

2018.12.23 19:00 [CoRich]

空飛ぶペンギンカンパニーの20分ほどの短編をオムニバスで3本。 24日まで横浜・若葉町ウォーフ

自室で配信して充実する日々をいる女。配信中に突然、堕天使ガブリエルを名乗る男が現れ、受胎告知をする「ハイシンシャ」
葬儀の後。病気で亡くなった男の妻と男の弟が帰宅し一段落する。兄の暴力を疑い弟は真実を尋ねたいと考える「改稿 つぼみ」
友人の結婚式から帰宅した女の家には首輪をかけられた男が居る。会社の同僚だった男を監禁して3年が経ちその日々に互いに馴染んで居たが、結婚式であったイケメンとの再出発を目論んで男を解放しよう考える。「犬とバウムクーヘン」

日替わりの語り部がヒッチコックもしくはタモリよろしく間をつなぎながら三編の二人芝居をオムニバス形式で組み立てます。

「ハイシンシャ」はそこそこに視聴者のついた動画配信の女、イマドキっぽくわり慎ましい生活だけれど、少なくとも配信では恋人の存在や高いテンションで自己を肯定しているけれど、突如現れた男は、その女の妊娠を告げるばかりか、それが堕天使・ガブリエルゆえに処女懐妊で配信でそれまで築いてきた恋人の存在を全否定するのです。男が突然現れて危険を感じないというのは不思議な気もしますが、まあ20分の短編ゆえのデフォルメか。配信で作り上げていた虚構をいわば精神的に丸裸にされる恐怖、スマホの画面に映った自分の姿に怯えるあたりがちょっと巧い。

「~つぼみ」は兄嫁に対する弟のほのかな恋心をベースにしながらも、妻が受けて居た暴力、にもかかわらず病気の中でやっと許された一時帰宅という一瞬に賭けてでも、その子供を宿そうとした妻の心持ち。静かに語られるけれど、これは相当にハードな物語なのです。暴力を受ける側が進んで取り込まれそこから逃げ出さない、というDVの姿。ほのかな恋心を持つ弟でさえも、「乱暴なあとに優しい」という同じ血。でも妻はそれを忌み嫌うどころか、膝の上に置いた骨壺、まるでおなかの子に夫を移し替えようという風にすら見えるのです。

「犬~」はうってかわって相当にコミカルな仕上げ。女が男を監禁し3年、でも男はもう服従どころか愛情すら芽生えていて、という良く考えればこちらも状況は相当に深刻なのです。でも、この状況に女が飽きてイケメンに乗り換えよう考え反省するそぶりを見せる、みたいな軽さ、それでも犬のように尻尾を振ってこの関係を続けていきたい男のすれ違い、は出落ちに近い首輪姿とあいまって、なぜか微笑ましさすら感じて楽しめる一本なのです。

20分という時間なので、あまり込み入った事はできないけれど、シンプルに二人芝居、ちょっと深刻だったりコミカルだったりとバラエティ。どれもどこか陰な部分を抱えている、という共通点があることが、語り部の存在と併せてある種の統一感をもっているのがいいなと思うのです。

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【芝居】「ベイサイド実験室 2時限目」ネオゼネレイター・プロジェクト

2018.12.23 15:00 [CoRich]

大西一郎と猪股俊明が稽古場兼スタジオであるベイサイドスタジオで定期的に戯曲を読む「原点回帰作戦」を行う一環で生まれたシンプルなスタイルの公演。23日まで横浜・ベイサイドスタジオ。

娘と結婚させて欲しいとと父親に持ちかける隣家の男。父親は喜んで娘を呼び二人きりにするが、ふとした弾みで両家の間の土地の所有を巡る問題に踏み込んでしまう。互いに問題は解決済みだと譲らず口論となり男は家を出てしまう。結婚の申込だったと知った娘は呼び戻して貰いもう一度話をするが、今度は互いの家の猟犬を巡って口論となる「結婚申込(九州弁版)」(チェーホフ・牧原純)
見合いで待ち合わせた男女。しかし待っていた女は見合いの相手ではないと言い張りその友人で代わりに来たのだと言い張る。
結婚媒介所の見合い室。見合いを勧められては難癖をつけ沢山の条件をつけて断ってきた女。見合い相手だと紹介されたのはぶっきらぼうで冴えない風体の上、女が挙げていた数々の条件は殆ど満たしていなかったが。(「頼母しき求縁」岸田國士(青空文庫))

偶然とはいいながら、プロポーズや結婚を巡る三本。 一本目、好き合った男女だけれど互いの生家が抱えている歴史的な(些細な事情)がからむとその愛情に蓋をして言い合いになってしまうという二人。古くさい家制度とか身分の違いとか大仰に構えず、使い道の無さそうな土地の境界線とかどちらの猟犬が優秀かといった些細な見解の相違やマウント取りたい気持ちが前に出てしまうということでその些細さゆえに深刻さではなくコミカルで浅はかな感じが良く出ています。一度男が出て行ってしまうことで冷静になれば愛していることは気付くのに、というのが絶妙。

二本目、待ち合わせた相手がその相手じゃないと言い張る不条理をコミカルに。時折物理に並々ならぬ敬意が見えたりする人柄が見え隠れしたりするし、もう後半では明らかに相手は待ち合わせの相手その人だと指摘するのに頑固に否定すること、それは奥ゆかしさなのか、何か試しているのか、そういう背景の片鱗も語られないのでちょっと怖さすら。

三本目。いろいろそれらしい条件をつけて見合いを断り続けてきた女がそれとは外れた男をすっかり気に入って、という一本。蓼食う虫も、といってしまえばそれまでではあるけれど、不思議とこの二人が幸せになっていきそうに思う造型になっていて幸せなエンディング。

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2019.01.08

【芝居】「宵闇、街に登る」JACROW

2018.12.22 19:30 [CoRich]

27日までB1。そのあと、新潟。110分。

佐藤栄作も三期を経て福田への禅譲が見え始めていた。角栄は四選を勧め、その間に秘密裏に田中派の旗揚げを画策する。自民党党首の投票は一位二位の決戦投票にもつれ込んだ。佐藤は二位になったものに一位への投票するように二人を説得していたが、中曽根派が角栄を指示し優位に立った。

今作は主に各議員の事務所を舞台にした内部のできごとと、テレビを通して世間に明らかになっていることの二つを混ぜ合わせながら物語を進めます。

登場する政治家たちについて、キャラクターが立っていてデフォルメされたものを覚えていますが、描いている時代は物心つく前で角福戦争は全く記憶になく、テレビ「3時のあなた」といえば寺島純子ぐらいの世代のワタシです。当然「越山会の女王」を巡ることも知らず、どこまでが史実かどこからが作家の想像かは詳らかではないけれど、エンタテインメントとして一気に見せきる馬力を感じる私です。

前作に比べてコミカルな要素も多く、事務所にあるテレビに映っている司会者を隣に座らせて突然消すと睨んだり、なんて細かい芸もまたエンタメとしての今作の力。

高度成長、格差の改善を狙う角栄だけれど、憲法改正に目配せして立ち位置を曖昧にして基盤を強固なものにするということの物語。その十数年後に自身もまた同じ憂き目にあうということのサーガ感もキレイな終わり方なのです。

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2019.01.06

【芝居】「夕闇、山を越える」JACROW

2018.12.22 14:00 [CoRich]

2016年初演作を再演。27日までB1。そのあと、新潟。110分。

街頭演説、料亭の政治家たちとの化かし合いやパワー・ゲームという構成は初演と同じ。派閥を意識しのし上げるためには誰を選んでいくのかということを延々続ける人々を手厚く描きます。反面、母親のシーンあるいは郵政大臣としてメディアを抑えるという力を手に入れたという抜かり無さといったシーンは減っている気がします。母親のシーンは日程の中で一度だけ上演された母親と角栄の物語に切り出したのかもしれません(観られず無念)。

初演に引き続き田中角栄を演じた狩野和馬はそうとしか見えない造型。人なつっこさと人情と真剣さをきちんと。唯一再演で変更になった木下祐子は芸妓を演じ、和装の身のこなしの見事さの安心感。

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2019.01.01

【芝居】「移動レストラン 「ア・ラ・カルト」-美味しいものは心を動かすところにある 30th anniversary」遊機械オフィス

2018.12.16 17:30 [CoRich]

休憩15分を挟み180分。26日まで 東京芸術劇場 シアターイーストのあと大阪。

青山で開店の頃訪れ、プロポーズ受けた店が池袋へ移り久しぶりに訪れた女。ローストビーフはうまく作れなくて何度か失敗して、しかし今日は一人で「ローストビーフメモリー 〜料理と人生は失敗を重ねて美味しくなる」
ワインを嗜む会、タカハシと中田が4年ぶりに訪れる。社長がワイン好きでアンバサダーになったりして会員が増え8名の予約だがキャンセルが相次ぎ「フランス料理とワインを嗜む会〜高橋ワインアンバサダー腕の見せどころ」
料理教室に通う中年の男女、講師の紹介で二人きりで初めて顔を合わせる「フランス料理恋のレシピ小辞典〜縁は異なもの海山超えてワサビは刺身の妻になる」
休憩15分を挟み
ゲストを迎えて「お喋りなレストラン〜今宵はワインを貴方と一緒に」
ショータイム
老夫婦。久しぶりにいい店を奮発する夫。普段の洋食屋のつもりだったがこんなにいい店だったら大島紬で来たかった妻。「黄昏れてクリスマス〜ふたりのごはんが楽しい理由」
閉店間近、ソムリエ、ギャルソンたちも交えて乾杯して「閉店〜最後にうれしいプレゼント」

移動レストランというフォーマットでは安定しつつあるという印象の仕上がりに。序盤で布がかけられている倉庫のような場所に人々が集い、準備をして、最後にタイトルを書いた看板がかけられてこの場所がそうなる、ということの嬉しさ。あるいは最初に女性が一人で店を訪れ(結婚した女性、は私は初めてかもしれない)、ワインを嗜むタカハシとのコミカル(久々の後輩の登場が嬉しい)、中年男女のぎこちなくても恋心芽生える会話、ゲストとのトーク、ショータイム、老いた男女の会話(夫婦という設定は珍しい気もする)、そして最初の女性と店員と乾杯、という閉店。

安定したフォーマットだけれど、登場人物たちの設定を少し変えるだけで新鮮さを維持するというのは実に巧いのです。4年ぶりの出演・中山祐一朗の後輩も本当に楽しい。

ワタシが観た回のゲストは作家・高橋源一郎でした。NHKで番組を持っていたり、青年団の原作だったりと、ワタシの視界に今更ながら見えてきたのですが、なるほど、話は面白く、しかしちょいと面倒くささの片鱗も見えたりするのです。どこにも書いたことのないと云う19歳のとき新島の夏、水着だった彼女が裸で走る砂浜、がどこまで事実かはわからないけれど、眩しくてちょっと興奮するスケッチ。

休憩中のワイン、今回はメルシャンのミニボトル赤白の二本で1500円、肩のところにシールを貼っただけとはいえ、コレクターズアイテムの楽しさ。それを飲むテーブルと劇場の売店の導線の整理がもう少し必要な気はしますが。

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【芝居】「SHIP」浮世企画

2018.12.9 18:00 [CoRich]

90分。9日までAPOCシアター。

子供のバザーに出す縫い物を手伝って欲しいと友人たちが家に招かれる。フリーのカメラマンは三十代になって仕事をがむしゃらに頑張っている。恋人もいるが今は仕事を頑張りたい。気遣いのOLは飲食店オーナーと不倫の関係にあるがともかく男ウケが良い。編集者だったが今はフリーターの女は夫の不倫が原因でバツイチになって一年が経つ。同年代の女たち4人が集まれば喋るばかりで縫い物はあまり進まない。

いわゆるアラサーを迎えた女たち、結婚子持ち、仕事バリバリ、不倫どろどろの色気たっぷり、バツイチのフリーターなど、年齢は同じぐらいなのに異なるステージをめぐる人々がただただ話す濃密な会話劇なのです。 このスタイルになると恋人がほしいとか恋人との関係、恋と仕事どっちをとるみたいな恋愛を主軸に描くものが一般的に多いけれど今作は必ずしもそうではありません。恋や仕事についてはそれぞれの人物の背景や造形として付与されたり、結婚することに拘る人物が一人いたりしますが、それぞれがどういう家族に育ったか、どういう未来を描いているかということの一つの軸として、どれが正しいということではなくて、一人の 基本的に描かれているのはそれぞれの人生を互いに話し、最終的には自分で選び取る、ということなのです。

それぞれに選び取った人生はそれぞれにプライドがあるし、負い目もあるグラデーション。同世代の四人という組み合わせのバランスもよいのです。

たとえば、結婚している女は子供ができたからの結婚だけれどそれを女性の側の台詞として「責任のとりかた」という台詞に。当たり前のことなのだけどちょっと新鮮で凛々しい。一方でその女が生きてきた家族は父や弟が暴れ母手作りという概念がなくていわゆる旧来の家族からははずれていたことを内包していることが後半で明かされます。

フリーのカメラマンは若い頃は若いだけで中途半端だったという自省、恋人はいるけれど仕事の踏ん張り処がいまここ、という格好良さ。モテ系のOLは女たちとの間の処世術として過剰に気を遣い、しかし男受けは間違いなく、パワハラオーナーと不倫したり、地元ではサセ子としていきてきたり。その背景となる実家はきっちりしすぎていて息が詰まり、家族にサセ子であることがバレても父親は責めずに対話するとか。それゆえ結婚しなきゃという気持ちも人一倍で。バツイチのフリーターはかつての編集者という仕事はうまくいかず、夫に不倫されバツイチでフリーターになって。不倫は家庭を壊すと許せないとう強烈な気持ち。妻の立場として不倫され、あるいは子供の頃に父親が家庭を捨てて出て行ったという二つの視点から描くのです。

終幕前、人を殺していたらどうするか、という告白のところで地震。それについては語らず、つまみと酒を買ってきてグラスより缶を直接飲み干す格好良さ、強く生きていくという印象を作るのです。

ワタシの観た千秋楽、終演後のイベントは人狼ならぬ不倫女優をあぶりだすゲーム。ルールがちゃんとわかってないところがあったりするのもご愛敬。

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