【芝居】「櫻井さん(毒づくも徒然)」MCR
2018.11.25 13:00 [CoRich]
新旧作品集、4本だての一本。90分。ほとんど誰も気にとめない駅前の銅像の前で拳銃自殺した男。刑事たちが背景を捜査する。直前に会話した男、目にしていたはずの刑事たちは思い出せない。死んだ男は仕事もせず家族には詩人になりたいと話していた。雑紙の投稿で一度入選しただけで食える道は見つけられていなかったが、親は占いに入れあげて地元の名士が前世なのだという。男が死んだ現場に建っていた銅像がそれだった。
開演直前、作演の櫻井智也が舞台にあがり、中央にある銅像の台座に収まり、作演自身が銅像、という体裁。しばらくは喋らないけれど、父親や売れた詩人など役はその位置のままで役になったり。 自分が何者かをみつけられていない男の物語。
何者かになれると信じて生きてきているのに、なにもかもがうまくいかなくて、自分が何であるかを見つけたい気持ち。大きく括れば自分探しではあるのだけれど、今作の主人公ははるかに切実で切迫する気持ちで歩むのです。東大生の妹には馬鹿にされ、両親には心配されときに叱られな実家暮らしの日々の息苦しさ。そこなら行けるかも知れないと思っていた一縷の望みな詩作で大人に汚され(いい歳だけど)、自分の拠り所を改めて探さなければと焦り、母親が見つけてきた胡散臭い前世占いに縋らなければいけない絶望感。全体の雰囲気はコメディなのだけれど、物語全体を通してずっと低音で鳴っているような不安と焦りに起因する不穏さがとても印象に残るのです。
後半、「櫻井さん」はバーの主人というもう一つのシーン。刑事たちの日常の一杯で出会っただけの男だけれど、自殺した男に以前会っていたけれど刑事たち自身は覚えてないばかりか、詩を読ませ微妙な空気にされたこと。自殺した男自身も覚えてるか怪しいけれど、おそらくこういうことが日々積み重なって押しつぶされそうになって。同じバーらしい店で銃を入手するシーン。殺された男と同じ役者が演じ同じような造型だけれど金の入手方法などで別人、しかしおそらく同じような結末を辿るだろうどこにでも居るだれもがそうなるかもしれない、というシーンが見事。なるほど自殺した男もこうやて銃を手に入れたのだというある種の種明かしにもなっていて見事なのです。
自殺した男を演じた猪股和磨は気弱で華奢、悩み続ける感じが雰囲気に良く合っています。もしかしたら初演の2011年時点では作演・櫻井智也が感じていたかも知れない焦りを成功者たるとして銅像に収まって見ている構図が面白い。巻き込まれた男を演じた澤唯、悪意なく傷つけ自殺の引き金を引いたかも知れない刑事を演じた篠本美帆がきっちり支えます。年上の刑事を演じた安東信助はツッコミ役の前半の精度がよく、後半の自覚亡く傷つける鈍い男の造型もやけに説得力があるのです。
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