【芝居】「海辺の鉄道の話」水戸芸術館ACM劇場
2018.9.22 14:00 [CoRich]
茨城県のローカル線、ひたちなか海浜鉄道湊線が第三セクターになってからの10年を描く物語 水戸芸術館ACM。24日まで135分。
茨城交通が湊線の廃線を検討するが、地域のコミュニティを維持しようと地元の住民たちによる応援団が立ち上がり、第三セクターとして再出発する。新しく迎えられた社長の才覚と応援団の力により、通学の高校生や飲酒して帰宅する勤め人をとりこみながら黒字への転換が見え始めたときに地震が起こる。が、残したいという気持ちは大きくうねり、線路はつながる。終着駅をさらに延伸する動きは止まらない。
舞台を覆うように線路が走り、各駅ごとに図案化された実際の駅名標や駅舎、風景をジオラマのように置いた舞台。鉄道会社の社長、応援団のリーダーを一つの核に、もう一つの核に利用者の中心をなす高校生の男女を置いて、応援団の人々、鉄道会社の社員たち、ローカル線を取材する新聞記者など、現実の人々を時にデフォルメして描きます。 地方の私鉄として生まれた路線が廃線の危機を乗り越え、第三セクターとして再出発。高校生向けに高い割引率の一年定期や、飲酒後の帰宅に会わせた終電時間の検討など使ってもらうための鉄道会社としての工夫、駅をコミュニティの核として成立させるための美化活動やイベントの数々。会社と地元の利用者の二人三脚で歩いてきた日々。高校生たちは同じ電車で通うからこそうまれる友達や恋心の芽生えや、地元で働いたりほかの土地に出て行ったりというインキュベーションの3年間を支える鉄道とその土地のこと。長い期間での取材をへて作家が描いた世界はドキュメンタリーでもあるし、地元の人々の想いを描く側面もあって、暖かく優しいのです。
中盤、2010年4月からの大人たちの一年、高校生たちの一年、という二つのシーケンスを描きます。上り調子だったり、少しばかり浮かれたような調子の一年は、わたしたちはもう知っている2011年の3月に向けて突き進むのです。震災の大打撃を受け全員を失意のどん底に突き落とすのだけれど、そこからの復興の日々を現在に向けて。震災までの3年があったからこそ、この被害にもかかわらず廃線を逃れ復興に向けた日々を進められたことが描かれます。並行して震災で進路の修正を余儀なくされた生徒たちの姿も。互いにひかれあう男女がしかし、長い間引き離され別々の道を歩むことはちょっと切なくもあるのです。 さらに終盤では、今時ほとんどありえない、延伸に向けての活動という未来が見えているという希望の終幕。
鉄道、震災、とりわけそこに向けての日々を描く手法という意味でもNHK朝ドラ「あまちゃん」を思い出して少し涙するワタシです。こういう断崖絶壁に向かってそれを知らずに突き進むような話に弱いということなんだけども。
ワタシが拝見した土曜昼の回は地元のミュージシャンによるミニコンサートやトークショーが設定されていたのですが後ろ髪引かれる思いで、日が暮れる前にその路線を乗りに行こう、と思い立ちなんとか終点・阿字ヶ浦駅で日没に間に合いました。可愛らしい駅名票や本社のある那珂湊駅舎に飾られた応援団作成の新聞などを眺めることでより近く感じられるいい体験なのです。
役者を変更して、社長を演じた春海四方は人懐っこく調整型のリーダをぴったりと。町の応援団のリーダを演じた杉木隆幸は人なつっこさ、巻き込むオジサンな感じ。カメラ好きの応援団を演じた酒巻誉洋はコミカル強め、しかしラストのダンスでのタップはカッコイイ。駅の看板猫を演じた二人、佐野功は冷静沈着な年上、田島亮は天然キャラを可愛らしく。東京に出て行く女子高生を演じた白井風菜はヒロイン感たっぷり。地元の役者たちをまじえたのもいい座組なのです。
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