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2018.10.23

【芝居】「ミカンの花が咲く頃に」HOTSKY

2018.10.6 14:00 [CoRich]

105分。7日までアトリエファンファーレ。

高速道路の計画が進む九州のある町。立ち退きに応じない住人のために前後の区間は完成しているのに、着工すらできない部分がある。反対運動の先頭に立つ男は、かつては高速道路の工事のために全国を飛び回っていたが、退職して終の棲家に決めた。妻は家を開放して地元の子供たちが気楽に遊びに集まれる場所を作っていた。町は津波に襲われ、妻や何人かの若者が亡くなっている。
久々に地元に戻ってきた女。この家を中心に今までの暮らしを続けたいと考えて立ち退きに反対して居座っていることに違和感を覚える。

舞台の広さの割に出演者が多くて、出捌けもちょと特徴的で、隠れるように置いた衝立を袖に使うなど、かなり濃密に創られた舞台。客席もかなり満席でキャンセル待ち目一杯という感じ。

それまでの生活をそのまま過ごしていきたいだけ、という普通の生活を守るための人々。高速道路が出来れば確かに便利にはなるけれど、この土地に根ざしていたコミュニティが失われてしまうということの危機感。津波の影響やその結果出てきた廃棄物をどう取り扱うかという話題も取り込んで、イマドキの日本のあちこちで起きている「生活を守るための戦い」を地続きに凝縮したような物語。

実際のところ、モチーフというよりは明確に反対運動の映像を重ねたり琉球風の音楽を重ねたりと、じつはかなり特定の話題に明確にリンクさせようとさせています。作家や演出家の問題意識はわかるし、ワタシのイデオロギーもどちらかと言えば彼等に近いのだけれど、そこまで積み上げてきたこの物語の世界、普通に暮らす人々と、失った人への追憶という細やかな物語を終盤に至り、私たちの現実を描くための単なる例え話だということをあからさまにしてしまった、というのはわかりやすいけれども、語られる物語がどこかに行ってしまったような寂しい気持ちになったりもしたのです。

序盤、この工事に反旗を翻している男が、元は高速道路をむしろ創る側だったことがあっさりと語られます。現役の頃は妻とろくに向きあわなかったけれど、ここで妻と暮らした日々を大切に思い、だからこそかつての立場とは反対の立ち退き拒否に至った、ということは察することはできます。しかし、その男が過去への反省とか後悔とか、あるいは罰せられるようなことが描かれないので、芝居を観ているワタシの視点では、それまでこういう立場の人々を踏みにじってきた人間が反省しないまま、自分だけのために反対派寝返った、みたいなある種の自分勝手さが表に出てくる感じがするのは違和感だったりするのです。

とはいえ、手の動きを重要視するジェストダンスを交えたり、歌やダンスを交えることで楽しさも加わり、確かにいまの私たちから地続きの問題を箱庭のように描くことで人々の暮らしが安寧に続いて欲しいと力強く願う人々の存在をきっちり見せられる一本になっているのです。

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