【芝居】「ながれぼしのきもち」キャラメルボックス
2018.9.15 18:00 [CoRich]
110分。24日までザ・ポケット。そのあと、埼玉、兵庫、埼玉。中野のポケットスクエア、発祥のザ・ポケットから20周年記念の公演。
建築会社を辞めたばかりの男に弁護士から連絡がくる。半年前に亡くなった祖父の遺産・瀬戸内海の島にある旅館を相続する意志を確かめるものだった。離れて暮らす一人暮らしの母親は勘当され実家をでていたため、この男は一度も祖父にあったことがなく興味はなかったが、三億円の価値があるときき、売却を考え、現地を確かめに訪れる。
営業していないはずの旅館では祖父と晩年を過ごした恋人がまだ旅館を営業していて、営業を続けさせる代わりに孫娘と結婚しないかと持ちかけ、孫娘もそれをすぐに承諾する。三億円の価値があるのは間違いだと云うこともわかった夜、鳴らなくなったラジオが突然鳴りだし、男の前に親子らしい男女が現れる。
キャラメルボックスの本公演としては破格にコンパクトな小屋のプレミアムな公演。作演が真柴あずきというのも久々な気な気がして嬉しい。
若くても挫折を感じている男が突然巻き込まれる祖父と母の物語。母親は勘当されて家を出てきたと聞かされていて、祖父とは会ったことがなく、自分が生まれる前の祖父と母親の若い頃の物語を目の当たりにするのです。仲のいい親子で跡を継ぐことを信じて疑わなかった二人だけれど、成長につれすれ違い、恋人の存在が二人の間を引き裂いてしまうという時間の流れを描くのです。
この幹となる物語を中心にしながら、その祖父が晩年を供にした恋人とのゆるやかに過ごした日々の話や、あるいは母親と息子の関係だったり、その息子が台風で旅館を守ることを通じ、五年とはいえ建設会社で働いて成長してきて、これからも成長していくことを描くのです。
物語の中での置き場所はちょっと違和感があるけれど、軽口を叩く若い作家、ひょいと出かけたサイン会で仕事仲間を守るために喧嘩を買って、怪我をして帰ってくるというシーンがわりと好きです。売れっ子の小説家が仕事の仲間を守る矜持の美しさ。演じた森下亮は普通にカッコイイのを再確認。
ごく小さなシーンだけれど、祖父と晩年の恋人の何気ない日常の会話はなんということのない日常だけれど、もう失われた会話という背景、コンパクトな劇場での高い精度の会話というぜいたくな空間に見応えと感じるのはアタシがむしろこちら側に近い世代だからか。演じた西川浩幸、石川寛美もよくて、真柴節。あるいはア・ラ・カルトの終幕前、老夫婦の会話のような持ち味。
序盤で結婚話に即答した孫娘の秘密、忘れた頃にその秘密が終幕で明かされます。自分はすっかり忘れていたことだけれど、相手は覚えていた昔のこと、なかば自暴自棄な男だけれどこれまで生きてきたあかしのようなもの、間違いなく、あるということがフィードバックされるのは勇気を貰えるのです。演じた関根翔太、大滝真実がきっちりと物語の主軸を担うように成長していることを嬉しく思うのです。
今作でワタシがとりわけ巧いと感じたのはお手伝いさんとして料理担当という女性を演じた岡田さつきなのです。おだやかさと熱情の振れ幅の精度の高さ、客席との距離が近いからこその繊細な芝居がとてもよいのです。
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