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2018.08.07

【芝居】「顔!!!」艶∞ポリス

2018.7.22 18:30 [CoRich]

100分。7月25日まで駅前劇場。

ドラマ撮影中のメイクルーム。美人で知られる女優と、個性的で実力派の女優が初めて共演する。かつて二人は無名の頃に同じオーディションを受けて顔を合わせているが、美人女優のほうは覚えていない。
美人女優のほうは、順調にキャリアを重ねいまはとても売れっ子になっていてハリウッド帰りの専属メイクもつけている。実力派の方もドラマの現場を重ね認められつつある。

美人女優と実力派の女優の物語を軸に。あるいは不安定気味な若い女優と厳しいマネージャ、ハリウッド帰りの少々いけ好かないメイクと、その弟子だったメイクが実力を付けてドラマ担当チーフになっていたり。プロデューサーやディレクターなどもあわせて、テレビドラマ撮影の現場を舞台に描きます。

持って生まれた美人な女、あっという間に人気がでたのだろうけれど、一方で女性のプロデューサには仕事をなめていると論破され、あるいは男のディレクターには顔が好きだからと言い寄られ、しかし実力を見て欲しくて。そこまで美人というわけではない女は、わりとぞんざいに扱われたりもする日々の中でもどこまでも明るく、前向きにキャリアを積み重ねて来た自負。かつての同じオーディションでの経験もある種の屈折した燃料として生きてきて、しかもちゃんと結果を出しつつあって。

美醜が商品価値の要素の一つであることは女優という属性の上であればむしろ積極的に意味のあること、という前提なのは普通の人々のありかたとは少し異なります。演技の質もまた商品価値の一つではあるけれど、今作に置いては基本的には美醜は天賦のもので簡単には乗り越えられないもの、演技はある程度は訓練と積み重ねによって得られるもの、として、二人の女優のキャリアのありかたを描きます。

美人だから売れたということは認識しつつ、しかし自分は実力によって評価されたいと思う女優の姿と、演技をなめていると断定されたり、いわゆるマクラ営業的なことを求められがちだ、ということはなかなか思い通りにはいかない、#MeTooな世界。いっぽうで、実力派と呼ばれる女優だって評価されつつあることは嬉しいけれど、より美しくなりたいという負けん気をもちろんきっちり持っていて。

今作のもう一つの柱は、この美醜をめぐる女優たちに寄り添うメイキャップのありかたなのです。美しく売れているものだからこそ、より高価で高度なメイクの技術が専属という形で加えられがちで、それは美醜という評価軸の格差をより拡大する方向に描きます。対比するように描かれるのは、ドラマについたチーフのメイク担当で、ドラマをどう仕上げていくかと言う目的のために、無茶だと思うほどの困難を乗り越えるメイク技術を工夫で乗り切ったりというある種のヒーローとしても描かれます(ここが男女の対立になってるのも巧い)。一方で終盤、キレることで大きな混乱を呼んだりもするわけですが、それもまた抑圧されたものの爆発という形で、痛快なのです。

全体のタッチとしてはもちろん喜劇。しかしキャッチにあるように「でもこれは、喜劇として流すつもりはない。」というのは女性である作家自身の強い訴えでもあって。いわゆる男性から性的に扱われる #MeToo ムーブメントでもあるし、女性だからと実力を過小評価されてきたことに対する強い訴えでもあって。あるある、な雰囲気の軽快なコメディーでありながら、二つの物語を密接に絡ませて力強く描く確かな力なのです。

「美人女優」を演じた幸田尚子はきっちりと説得力、すらりと格好良く、しかしきちんと内面のある人物を造型。芝居をなめているようには見えない、のがご愛敬だけど実体はどうであれ女からそう云われがち、ということかもしれません。「演技派女優」を演じた杉岡あきこは、愛嬌もあって現場の雰囲気にもよく溶け込む職人肌という人物を気さくなものとして造型。いっぽうで時折見せる負けん気というか競争心や嫉妬の見え隠れの落差も巧い。ハリウッド帰りのメイクを演じた谷戸亮太はスマートだけどいけ好かない人物をきちんと。対するチーフメイクを演じた岸本鮎佳はあまりにスーパーヒーローすぎるところはあれど、突き抜けてそれ自体がコメディになるのはちょっと面白い。

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