【芝居】「ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ」二兎社
2018.6.30 14:00 [CoRich]
政治と既存メディアの距離感を描く105分。9月2日まで東京芸術劇場シアターイースト。そのあと全国ツアー(埼玉・三重・愛知・長野・岩手・山形・山口・福岡・兵庫・愛知・滋賀)へ。
国会議事堂を望む、国会記者会館の屋上。本来は加盟社以外には許されないが、ネットメディアの記者がデモの撮影のために忍び込むことに成功する。
総理が答えられるよう会見の想定問答の原稿を共用コピー機で見つけた若い記者は保守寄りの自分の社では記事にできないと知人の他社の記者と屋上で相談しているところに居合わせる。
何かということは明らかにされないけれど、政権に不利な証拠が出てきて開くざるをえなくなった記者会見、ここを乗り切れば国民は忘れ政権のマイナスは無かったことになるだろうという正念場。 記者会見で国民に代わって追求する役割を持っているはずのマスコミが想定問答を提供し、無事に記者会見を乗り切り政権を積極的に支えよう、ということをしている事件。世間にそれがバレたらまずいという自覚はあるけれど、バレない限りはそうすること自体は悪いことだとみじんも感じてない人々と、それに取り込まれる若者、批判的な立場ではあるけれどこれも既存メディアで記者クラブ加盟の雑誌社、そこには入ることもできず明確に取材の機械を奪われる新進のメディア。
保守と革新、右と左といった立ち位置ばかりではなく、政治を監視するという役割を果たすべき報道が、記者クラブという既得権益と一種の利益供与ゆえに切っ先が鈍るどころが政権にすりよりなれ合う構図になっていること。今作は少々青臭い理想を抱くネットメディアを切り口に、しかし過去には既存のメディアもまた理想を体現していた筈なのだという時間軸を背景に。あるいは、海外のメディアならそれを突破してくれるかもしれないという外圧頼みの頼りなさもまた、#MeTooムーブメントとBBCの番組を想起させる絶妙のタイミングなのです。
背景こそ今の政治の誠意のない会見のあり方やマスコミの状況という少々深刻な話ではあるけれど、芝居という目で見ると芸達者の役者そろい、時にオーバーアクションでコミカルに進められる物語は軽快で、爆笑が続く気楽に観られる物語に仕上がっています。 が、それはかつてテレビの演芸やコントという形でも広く行われていたことで、そんなことはありえないコントであったり、あるいは直接的で鋭く軽快な「風刺」は今やテレビで目にすることはほとんどなくなっているという事実を明らかにすることでもあって、これもまたマスメディアの層の薄さを痛感させられ、絶望的な気持ちにすらなるのです。
とりわけ、政権とべったりの新聞・論説主幹を演じた松尾貴史は、モノマネの巧さが圧巻で、口調ばかりでなく皆が嘘だと判っていても認めない、あるいは質問に答えない今時の国会答弁を想起させて本当に腹立たしいほどのリアリティ(誉めています)で描き出します。
あるいは政権べったりな公共放送の女性記者、といえばの彼女を思い起こさせる馬渕英里何は、「首相を育て上げた」とまでいう痛々しいほどに激しく首相に思い入れたキャラクタを印象的に。 お花畑とまでいわれる青臭い理想に向かう弱小ネットメディアのカメラマン兼記者を演じる安田成美は、私たちの生活の延長線上のような雰囲気もまとい私たちの視線に寄り添います。
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