【芝居】「堀が濡れそぼつ」MCR
2018.5.19 19:00 [CoRich]
22日までザ・スズナリ
昔は派手だった妻は入れ墨に刻むほど好きだった恋人を亡くし、恋人の友人のちょっと地味な男と結婚した。妊娠しいて夫婦の関係はないが、妻が自慰をしているところを夫がみてしまう。 夫は会社で部下の女性のことが好きだと噂される、相手もまんざらではないがなにがあるわけではないし結婚している手前否定する。 家に押しかける隣人は怪しい霊媒師を連れてきて、妻をマルチに引き込もうとする。出所してきたばかりの夫の幼なじみはほんとうに友達思いだが、連れてきている女はどこかに売られるようで人殺しもなんとも思わない。
妻の自慰とか、最愛の男を亡くしたから結婚したとか、部下の女性からの好意とか、一筋縄ではいかないちょっとヒネた愛情のあり方を核に、ゲスに詮索する友人や同僚、こまっしゃくれた子供と遠慮のない隣人、怪しげな霊媒師などを周辺に配して。
普通いわないだろうゲスな言葉を悪意があったりなかったりなド速球で投げつけるような人物がとても多く、そのうえ盗聴器だったりだまして輪廻を信じさせようとする悪意など、もちろん笑うけれど、麻痺しながら疲弊していく感じもあってなかなかハードな観劇体験ではあります。もともと露悪的な語り口が得意な作家ではあるけれど、今作ではその、嫌な感じの人物が多め。とはいえ、ちょいと人間くさくて(他人である分には)憎みきれない部分があったりもして 総体としては観続けてしまうのです。
妻はインモラルな感じではあるし、台詞は決して少なくないけれど自分の奥底についてあまり多くを語らないように感じます。亡くした男の喪失感をきっと抱えたまま、別の男の子供を宿したことの戸惑いかもしれません。対比するように夫はともかく言葉を重ねています。好意を寄せる部下の女に対して、妻が居るからという世間体に加えて最初は魅力的に感じてないそぶりなのに、はやしたてられたからか、あるいは前から薄々思っていたけれど今更気づいたのか、匂いがという一致点を見つけていって惹かれてしまう人間くささ、妻へと回帰していくゆるやかな変化。物語全体では飛び道具ばかりなのに、その時間軸の中でゆるやかに変化していくこの人物を解像度高く描く作家のたくらみの楽しさなのです。
夫を演じた堀靖明は何事にも真っ直ぐ向き合う男、喋ることが全て正論という説得力。部下の女を演じた異儀田夏葉は、好意を寄せているのに報われないどころか、まわりからも不躾なはやし立てられ方や妻からの言いがかりのように責められたり。それなのに健気さときりりとした格好良さ。この二人が何かの一致をみる二人のシーンが実によいのです。不安につけ込む霊媒師を演じた澤唯は久々に見る怪しさ全開の造型が魅力的。出所してきた男を演じた櫻井智也、殺人を厭わない冷酷さと幼なじみへの愛着とのアンバランス、静かに狂った感じの深み。
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