【芝居】「彼の地Ⅱ」北九州芸術劇場P
2018.3.4 13:30 [CoRich]
北九州芸術劇場のプロデュースとして再演もされた桑原裕子作演の土地を描くシリーズ、新たな物語。 (1, 2 ) 北九州のあと、4日まで、あうるすぽっと。このあと豊橋。145分。
北九州の町。数年ぶりに戻ってきた女。スナックで働いていた母親は借金も多く、兄弟や近所の子供たちと片寄せあって一緒に住んでいたが、町を出ていた。出迎えにくるはずの兄弟とは会えず財布をなくしてしまう。この町を初めて訪れた男は女の財布を間違って持って去ってしまうが、その女が指定したうどん屋にそれを届ける。この町には製鉄所で働くために家を探しに来た。
製鉄所で働く兄弟は競い合う。口は悪い。職場のマドンナにあこがれているが彼女は上海への赴任が決まり喜んでいて、若い女性が減ると職場のたくさんの男たち落胆している。
殺人の罪をかぶり出所した男は兄に会うが、刑務所に入るときに渡したはずの大金も実家も失っている。兄はその殺された男の妻に金を渡し続けていた。その女は観光ガイドとして働いている。
東京の男が出張のついでに醤油工場で働く友達を訪ねてくる。この町のくすんだ感じが我慢できないと云うが、実は彼も逃げてきている。 その友達は東京の男のことがまぶしく、義足の女と働いている。この土地のことを自慢したくてしょうがない。
船着き場で働く女は向こう岸で働く恋人となかなかあえない日々が寂しい。
閉園したスペースワールドでアルバイトして居た女子高生はそのショックが癒えないままの日々を暮らしうどん屋でアルバイトしている。うどん屋に訪れた警備員の格好をした客がスペースワールドで人気だったキャラクタのアクターだったことに気づく。そのアクターは月の石とコスチュームを返す決心をする。
北九州を舞台に群像として描く物語。 物語として語られる人々はこれまでの二本とは全面的に変えていますが、市井の人々を描くというフォーマットはそのままです。そこには幸せや焦りや一生懸命が濃密に詰め込まれているのです。 炭坑や製鉄所で働く男たちの荒っぽい雰囲気、この町を出て行きたい若者もあるいここでずっと暮らしていくことを疑いもしない人々と。炭坑亡きあと寂れつつある町にあった、大きな遊園地が閉園したことを物語の骨格に。
多くの登場人物、行き交いあう人々、群像としてしか描く人々の生活と想いの数々。複雑に積み上げ組み合わせた話は、ストーリーラインに沿った一本の道ではなく、「そういう空気感の時代と場所」の点描を無数に連ねて奥行きを描く手法なのです。小さなストーリーが細かく刻まれるので、(ここまでのシリーズと同様)ちょいと複雑にすぎる感じはするのだけれど、その場所に作演が滞在しその場所に住む人々と作り上げる世界の深さはこれまで同様、しっかりとしているのです。
これまでの「彼の地」と同じフォーマットではあるけれど、それはKAKUTAにとってのエポックだった浅草・花やしきでの公演「ムーンライトコースター」もまた、いくつもの人々の物語と想いが交錯して描かれる話で、作家・桑原裕子の描く世界のもっとも得意なものの原点がここなのだ、と今さらに思い返すアタシなのです。
東京から訪ねてきた男を演じた竜史のいけすかない感じとその内側の鬱屈、おっちょこちょいで人なつっこい男その実引っ越してくるエンジニアを演じた岡田一博のコミカルさ奥行きが印象的なのです。(実は当日パンフをみても役名が覚えられないアタシには役者がはっきりしないので間違ってるかも知れないけれど)、出所した男と迎える男の軽妙な会話が楽しく、演じた金子浩一と上瀧征宏は、やらかしてることの重みに説得力。船着き場で働く女を演じた矢田未来は元気良さ、健気な感じも可愛らしい。東京から来た男を演じた竜史の拗らせた感じ、マドンナを演じた多田香織はキャリアな雰囲気を纏うのはちょっとめずらしい。戻ってきた女を演じた高野由紀子はこの群像劇の中でしっかりと背骨になるように、この地域のことを包含し背負う役どころだけれど、きちんとそれに応えています。女子高生を演じた吉田紗也美の伸び伸びと潑剌としたパワーと怖い物のない雰囲気はこの年代をきちんと演じていて楽しい。
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