【芝居】「天はすべて許し給う」鵺的 (鵺的トライアル)
2018.2.11 14:30 [CoRich]
13日までサコフレリオ新宿シアター。120分。
毎朝見かける女を一方的に見初めた既婚の男、結婚が決まっている会社の同僚の女に断られても言い寄りつづけている男、知り合いの芝居見に行って女優を見初めて、恋仲になりたい男。ネットで知り合った三人の男は、うち一人の工場の敷地内に作られた小屋に三人の女を拉致し監禁する。敷地内につくられた溶鉱炉で何でも消せるとまで豪語する。
鎖が切られぼや騒ぎが起きたすきに逃げ出した三人の女は一人の友人の弁護士の女に相談する。裁判でも勝てるといわれたが、結婚相手に知られたりキャリアに傷がつくと思い踏み切れない女たちは訴えを起こさない。
序盤こそところどころコミカルなシーンもあるしその背景や関係は様々だけれど、基本的に描かれるのは自分の想いを根拠なく肯定し、好きだとはいいながら相手がどう感じているかについては想像力の及ばない男たちの暴走。自分の想いは正しいし理解されなければいけないし、理解されないのは相手が悪いという一方的な気持ちが女たちを傷つけます。助ける男がいたり、女を傷つけることに躊躇のない女も居たりするけれど、基本的には女たちが男に対して戦う、という構図で描きます。
日常生活を普通に送れていたはずの男たちの暴走のキッカケはネットを介しての知り合い、それぞれの生活の中では世間体とか社会の目が直接的な暴力を押しとどめていたけれど、絶対にバレないブラックホールこと秘密の溶鉱炉(人間を入れても証拠なく燃え尽きる)に人気のない私有地の工場という強力な武器を持った知人を手に入れたこと、その持ち主が背中を押して始まる悲劇なのです。
監禁された女たちは偶然と多少の好意(とはいえこちらもストーカー案件だったりするのだけれど)が巧くいって監禁からは抜け出します。これがハッピーエンドというわけではありません。その先の困難が物語の本領。それは、 被害にあった女たちは酷い目にあって、弁護士の後押しがあっても警察への届け出に躊躇します。一人はそうしたいと思っても他の二人の女たちが止めるのです。それはキャリアや結婚、あるいは女優という仕事だからというそれぞれの理由だけれども、結果としては男たちが犯した罪を女たちが隠蔽することになるのです。
もちろん、それで終わりというわけではありません。一人の男は偶然に容赦なく悲劇的に命を落とします。ストーカー相手には贖罪にもならない自分の想いを綴った手紙を送り、妻との生活に戻り何事もなく生活を再開しようとしていた男の元には弁護士とその女が訪れ。妻をも巻き込み、男への反撃を成し遂げるのです。まったく意味合いは違うけれど、アタシが子どもの頃に桃太郎が鬼を倒したような、勝てそうもない相手を倒す喝采と、その血みどろの戦いでも勝ち取らなければならないことの大変さに、絶望的な気持ちにすらなるのです。
終幕は、もう女たちは隠すことはしないで声を上げよう、行動しよう、というこれからも長い道のりだけれど、光明が差す希望なのです。弁護士が女たちを助けた理由は単に正義感だけではない、というのもちょっと人間臭くて説得力を持ちますが、もしかしたらこれも新たな監禁かもしれないとも思うのです。
小劇場の終演後、いわゆる出待ちはよくある風景ですし、ワタシだってそれを全くしないわけではありません。 そのご挨拶でみせる俳優たちの笑顔や嬉しさを表す言葉、営業のためのスマイルだとしても自分への好意だと勘違いすること。演出家の権力みたいな話が世の中にはあったりするけれど、観客だって一歩間違えば、互いの距離感の齟齬が犯罪の境界を越えてしまうことに思い及び、ちょっと自分に絶望を抱える気持ちにもなるのです。そう知り合いという座組ではなかったからだけれど、この芝居をみて俳優女優の出待ち挨拶はできないぐらいに気持ちをえぐられるのです。
前半では所々の笑い。ワタシは女優の出待ち男たちのシーンで自分を観るようで笑ってしまうけれど、後半のかなり陰惨なシーンで起こる笑いは違和感を持ちます。おそらく作家の意図ではなくて、観客の何人かが自分の内面に照らしてのものだろうけれど、自分の中で生じた違和感の正体はちょっと知りたいような怖いような気がします。
三人のストーカーを演じた男たち、溶鉱炉の持ち主を演じた江原大介は犯罪への後押し、がさつさをもって物語を転がす重要な役が巧い。同僚の女に言い寄る男を演じた小平伸一郎、言い寄っても成し遂げられない想い、断られている言葉は聞こえているのに変わらないことの怖さ。近所の顔を合わせている女に想いを寄せる男を演じた 酒巻誉洋、静かな狂気、とりわけ後半の本当に身勝手な手紙をフラットに読む怖さ。
襲われた女を演じた女優たち。それぞれのシーンのストレスは演じているのだとしても(舞台ではそれを何ステージも)相当なものだろうと想像します。顔を合わせていただけの女を演じた奥野亮子は何事が起こったか判らないなかの恐怖という前半の骨格をしっかり、キャリアを取る女を演じた川添美和は前半の凛とした力強さ、終幕のもう次を殺しに行く思いきりの力強さの対比の迫力。女優を演じた堤千穂は営業スマイルの可愛らしさ、勘違いされかねない、という説得力。金を払えば何でもする探偵社の女を演じた湯舟すぴかのフラットさも怖い、がこれを演じるのもストレスだろうと思うのです。
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