【芝居】「神奈川かもめ短編演劇祭」(Aブロック)
2018.1.25 19:00 [CoRich]
公募した日本全国・海外の団体の20分の短編を上演し投票・審査を行う短編演劇祭。第三回ですが、ワタシは初めて拝見します。28日までKAAT・神奈川芸術劇場。120分。
肉を焼く3人の「おかまの仲間」はとりとめない会話を続ける。「大好きなものを食べる」(シャカ力(高知))
蕎麦屋を訪ねる侍。主人の蕎麦はいまいちだが、盲目の女房が切るネギが絶品だとほめる。どこかで殺人を犯した男を追いかける侍だが、殺されたことによって救われた男も居るという。「酒とお蕎麦と男と女」(亀二藤(島根))
口述筆記の音声データを再生する男。結局、作家は書けず、口述筆記者が書いていた小説を持っていた編集者が、作家に渡して手直ししながら読み上げさせる。探偵と依頼者の話がスーパーの店長とパートにつとめる女の話に変化する「机上の空論」(戯曲選抜)
人間界の中で妖怪と共存して生活するエリア。町の活性化のための祭りを盛り上げようと考えるスタッフの妖怪たちだが、人間たちとの関係はいまひとつ。「くよくよ、迂回」(チリアクターズ(神奈川))
「大好きなものを食べる」は、 ホットプレートで実際に肉を焼き匂いまき散らしながらのとりとめない会話。「おかま」の人々は少しばかり戯画的に恋い多き人々の話を描こうと選んだシチュエーションなのかと思います。何かの物語を紡ぐかと思うと実際にはそれらしい話はほとんどなくて戸惑いますが、冒頭に切り取られた腕を抱きしめた一人のシーンが一瞬あることを思い出すと、なるほどと思うのです。人を殺しひときわ大きな肉=「大好きなもの」を焼くのは、腕を抱きしめていた一人。ほかの二人はその事情を知っているのか知らないのかはわからないけれど、何かを失った友人を慰め、食べれば元気になる、という物語を共有している、その場が実にいとおしく悲しいのです。
「酒とお蕎麦と男と女」は、 蕎麦屋の主人、盲目の女房がネギを刻むリズム。殺した男を追いかけているが、それゆえに救われた男もいる。その犯人とおぼしき男の名前は出るけれど、それが入れ替わった瞬間があって、ぼんやり観ていたワタシは少々混乱するのです。殺された男の娘がこの盲目の女房、ほぼ全編ネギを刻むリズムをつくっていた包丁は結末に繋がる道具立ての妙で洒落ています。
「机上の空論」は戯曲のみの応募を受けて選ばれたものを、演劇祭が推薦する劇団によって上演する企画チームで、劇団・平泳ぎ本店の手による上演。 人が喋ったものをテキストにする口述筆記、結局作家は書けなくて、編集者が持っていた、口述筆記者が書いて渡していた小説を読み上げさせるのです。作家が少し手直ししながらというのがミソで、手直しした設定がなぜか聴いている口述筆記者の妻とパート先の店長が、自分を殺しにくる、というサスペンスに。口述筆記者の冴えない現実、きっと不満を持っているだろう妻が浮気してるという妄想に鮮やかに変わっていく切れ味が見事。ごく短い上演時間なのに、きっちり分厚い物語になっていて、なるほど最優秀賞(かもめ賞)、戯曲賞、観客賞の三冠に輝くのも頷けるのです。
「くよくよ、迂回」は、 妖怪と人間が共存している町だけれど、必ずしもうまくはいっていなくて、妖怪側から歩み寄ろう、そのための祭りだという背景。ろくろ首と言い張る女は人間なのに妖怪の男に惚れ自分も妖怪と思いこもうとしていたり、吸血鬼なのに太っていていたって陽気だったりというそれぞれが何かを持っていて。この祭りを成功させなければ人間との共存などうまくいくわけがないという原動力。どちらかというと追い詰められ、差別すらされてるかもしれない虐げられる側の涙ぐましいまでの思い入れの悲壮感を描くのです。/P>
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