【芝居】「ティアーズライン」キャラメルボックス
2017.12.16 14:00 [CoRich]
作家の書き下ろしとしては数年ぶりの新作。120分。25日までサンシャイン劇場、そのあと明石。
探偵の男が同僚の無事を確かめに訪れた家には二人を殺すよう依頼された男が待ち伏せていた。記念日なのだという殺し屋は、死にたくない理由を嘘偽りのない話で感動させたら逃がすと約束する。 監禁されていると同僚からの電話を受けて助けに向かった探偵はその部屋の主が大臣の息子で同僚は素行不良や裏カジノへの出入りの証拠をつかむために忍び込んだのだということを知る。 海外旅行に夫婦で出かけていたはずなのに探偵の母親だけが戻ってくる。息子が怖い目にあっている夢をみたので心配になったのだという。
居ないはずの母親が息子を心配して現れるクリスマスの奇跡。心暖まる物語を紡ぐザ・キャラメルボックスな仕上がり。 劇団稽古場にお誘いいただいたり(facebook)もしましたが、セットが建て込まれた劇場で拝見するとずいぶん変わるというのは、芝居をする側ではないワタシには新鮮な体験。倉庫のような雰囲気、ところどころはハードボイルドでアクション多めだったりもして、スピード感ある展開。
様々な想いが描かれる中でとりわけ恋人たちの恋心よりは親が子供を思う気持ちが色濃く描かれていると感じます。母親が遠く離れた息子を心配してピンチを救う奇跡という主軸となる物語に加えて、心配するあまり持てる権力を総動員して行きすぎた手を使ってでも息子を救いたいと願って手を下すもう一人の母親の姿も描かれます。あるいは仕事が長続きしない娘婿と結婚してしまった娘を想う気持ちもまた、母親が気を揉むことなのです。 そういう意味では若者よりもむしろ、年齢を重ね子供を育てた世代にこそミートするかも知れません。もっとも、いい歳をして独り者のアタシにはちょっと遠くかんじるのもまた一面なのですが。
この枠組みの中で描かれる若者たちの姿もまたもう一つの軸で、とても大切な者を亡くし気力を失ったり、何か抗い難いおおきな力で押しつぶされそうになったり、自らのやんちゃさで苦境に陥ったり、あるいは強くはないメンタルゆえに困窮するかも知れないことも、どれも生きがたく理不尽で、そのなかで懸命にもがいています。そんな若者たちを見つめる親たちの視点で描かれていると強く感じてしまうのは、ここで描かれる親たちの方がワタシの世代には近いからかもしれないけれど。
圧倒的に強い殺し屋を演じた阿部丈二は、やけに昭和に拘る豆知識を挟みながら語り部を兼ねます。ややしつこいほどの数字と昭和の蘊蓄はワタシは結構好きだけれど物語に対しての貢献があまりないのは勿体ないところ。ワタシはキライではなくて、コミカルでリズムを作っていて結構捨てがたいのが悩ましい。 調査会社の男を演じた畑中智行は真ん中に居続け物語に翻弄されながら強く前進する主人公をしっかりと。いくつかの殺陣もパワフルで見応え。その同僚を演じた多田直人は深刻な物語を背負いつつ、所々にややお調子者の軽やかさが魅力的で、とりわけ、井の頭線の中での畑中・多田のシーンのわちゃわちゃした感じは微笑ましく楽しい。大臣の妻を演じた坂口理恵は手段を選ばず強健な心臓を持ち合わスジは通すという政治家の妻の姿がどこか今っぽい。用心棒を演じた三浦剛はターミネータを思わせるほどの絶対的な強者として君臨する説得力。 婚約者を演じた森めぐみはちょっとおきゃんで、しかし相手の男の心の支えに鳴り続ける芯の強さをしっかり。
正直に云うと、アタシの友人の感想で「ものがたりが難しい」というのがワタシも感じるところです。一度観てから振り返れば、母が子を想うことで起こった不思議な出来事というシンプルな物語のはずなのに、もう一つの母親の話があったり、恋人を亡くし失意に暮れる男が話し続ける恋人との電話というのもある意味「不思議なこと」だし、ハードボイルド風味だったり、昭和豆知識だったりと、ともかく対等に並べられる要素が多すぎて観ている最中は物語に没入できない感じが残ります。繰り返し観る映像ならそれもいいかもしれないけれど、ほとんどの人が一度きりしか観ない舞台には少々盛りだくさんだと思うのです。
政治家はなんか悪いことをしても権力と金でなんとか隠し通してる、というのは今の私たちの実感によりそう感じもある、というのはワタシの感想のバイアスが強すぎるでしょうか。そういう意味では2017年らしい要素だともおもうのですが。
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