【芝居】「荒れ野」穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース
2017.12.16 14:00 [CoRich]
団地のベランダから見えるニュータウンのショッピングセンター。土壌汚染が判明し空き家が増え再開発は失敗している。そのショッピングセンターが火事になり、周辺へ延焼している。かつてこの団地に住んでいた家族が連絡し避難してくる。
この部屋の主は父親と二人暮らしをしていた女で、長い在宅の看病をして父親を見送り一人になっているが、上階の老人と若い男が頻繁に出入りする日常を過ごしている。
かつてはモテていたが父親との二人暮らしの看病のまま独身のまま歳をとっていた女。避難してきた家族の夫もまたこの女に言い寄っていたことを妻も知っていて、娘に至っては不倫を疑っていて、その娘はかつて、入り浸っている若い男と何かがあって。夫もまた心臓の病を抱えていたりしているし、若い男は老人の教え子でなぜか同居をしていたり。多くはない人数であまりに濃密な小さく凝縮しているコミュニティの距離感が実にいいのです。
歳をとりあまり気を遣わなくなったのか、狭くものがあふれる生活感あふれる部屋(ワタシの部屋のよう)で見えてくる濃密な人々の関係。過去の想いが内面には溢れるけれどなかなか吐き出せないこと、何が正義かを声高に言うのではなくて、老人には老人の、中年には中年の、若者には若者の溜まったものがぐるぐると渦巻く様子。
外からやってきた家族は、両親と子供という「標準的な」家族の姿で、世間一般でいう常識の視点で暮らしていて、もちろんそこにはかなわぬ恋心とか、病気とかの「標準的な」悩みはあります。対してここで暮らす三人はそう変わらない年齢構成でも、他人同士が肩寄せ合ってくらしていて、しかも独身だったり、同性愛だったりと、いわゆる「標準」からはちょっとはずれるように思われる関係で、でもこちらの方が安寧な暮らしをしているようにも見えるのです。
「標準的な」家族のきらきらした若い娘の姿はもしかしたらかつてのこの家主の姿が見えるようです。モテて何でも手に入れられたかもしれない頃。歳をとり、外見的にも生活もどこかくすんでしまったかもしれないし、「標準的」ではなくなったかもしれないけれど、穏やかな日々を手に入れているのです。どちらが幸せか、みたいな二者択一ではなくて、さまざまな暮らし方があるということを、誰にも優しく投げかけるのは作家の視線なのです。
いっぽう、くすんだ生活である団地を抜けてニュータウンに家を建てたのに、そもそも開発が失敗していて町全体として成立しなくなりつつあったり、取り壊すはずの団地から出て行かない住人たちがいて、確実にスラムへの道をあゆみつつあるとか、地方都市ならどこにでもありそうな光景でもあって、これはこれで今の私たちの生活の地続きにあると思うのです。
老人を演じた小林勝也は、飄々として軽やか。しかし気負い無くかつての教え子に対してのある種の責任の取り方がカッコイイ。
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