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2017.12.25

【芝居】「LOVE〜Chapter1再放送」シンクロ少女

2017.12.15 19:30 [CoRich]

オーラルメソッドと題した複数を交互上演のうちの再演作、第一章ということは続くのか、な80分。 ワタシは初見です。

中国人の恋人のもとに行く昔からの男友達ふたり、深酒のあと。公園で酔いつぶれていた女に声をかける。PCを無くしたことに気づいて一晩かけて探し回るが見つからない。道すがら話すうち、女は今晩、元カレに出会ったために混乱しているのだという。家に行くものの何も起こらないまま朝を迎える。
女と最初一緒に飲んで居たのは恋愛関係にならない貴重な男友達だというが。

酔っぱらった若くはない男と女。おそらくはそれぞれにそれぞれの浮き名を流したぐらいにはモテそうな二人、深夜に歩き回り続けるうち、元カノのSNSを追い続けたり、許されない恋だったりという互いのみっともないことを話したり、元の恋人に互いにLINE送るというイタズラっぽいことしたり、少しずつ距離が近づいて。ちょっといい感じの距離に近づいてきたなぁと思っても、それ以上には簡単には踏み込めないぐらいには大人で。

「リビドーの音がする」ことをおそらくは二人とも感じているけれど、とりわけ男の方はしっかりと何かを感じている風。朝になって女がPCを無くしたのではなく捨てたことが明らかになると、この一晩が何だったのか、失望するような気持ち。ここからがもうひと味。男の友達をちゃんと後押ししよう、と四人のドライブ。

作家はクルマに乗る何人かというロードムービー風の芝居が結構多い気がします。今作もまたその例に漏れず、ごくシンプルに応援するだけのことなのだけど「その手間をかける」こと、「幸せに向かって近づいていく」こと、それを後押しする人々が一眼となる終盤は軽快で、楽し気持ちになるのです。

微妙な恋心の萌芽はあっても、深い恋愛に踏み込まない(或いは踏み込めない)若くは無い男女四人の物語、もしかしたら、そういうことがあってもいいかもしれないというちょっとファンタジーな味付けが心にしみるのです。 細かなシーンがとても良くて、男女二人で深夜あるくうちに買って飲むのがスミノフボトルだとか、川を見に行きたいと突然言い出す女に付き合う男とか。

酔いつぶれた女を演じた名嘉友美と、声をかけた男を演じた櫻井智也の二人の徐々に詰める距離感、モテるだろうけれどそれなりの年齢という絶妙さ。女の男友達を演じたおがわじゅんやは、微妙にマウンティングする感じだけれど、巻き込まれていく情けなさが可愛さすら感じさせます。中国に旅立つ男を演じた泉政宏は序盤の酔っ払い感も楽しいし、ぐじぐじ悩む終盤の人間臭さがちょっといいのです。

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【芝居】「40歳の童貞男」シンクロ少女

2017.12.15 17:00 [CoRich]

オーラルメソッドと題した複数を交互上演のうちの新作。135分。17日まで駅前劇場。 家電量販店にまじめにつとめる男は40歳になっても未だ童貞だった。休憩室でたむろする三人の男たちが閉店後に店に酒を持ち込んでやっているポーカーに誘われ遊ぶうち自分が童貞であることがばれてしまう。一度は大笑いした男たちだが、やがて応援するようになり、クラブに行って女の子に声をかけたり、吉原のお姉さんを呼んでくれたりする。店に客として訪れた女が独身と知り、断然応援する友人たち。

そこそこに長いけれど、いい歳になっても高校生のようにつるむ男たちの物語。ご機嫌なナンバーがいくつも重なり、ミュージカル風なシーンもあって実に幸せな気分になるのです。 くそ真面目な男を応援する三羽がらすの男たちは女のことばかり考えて自堕落だけれど、あたりまえのようにひと肌もふた肌も脱いで応援する人々。クズに見えるけれど実は善人なのだという味付けが嬉しいアタシです。音楽のせいかいまどきの気楽なデートムービーのよう。と思ったら、これ原作(未見)(wikipedia)があるようで、なるほど。

ここ数作のシンクロ少女のいくつかは、実に愛すべき男たちのバディ感のある芝居 (1, 2, 3, 4) が何本かあるけれど、小劇場の芝居でそれがあまり見られないのは意外な気もします。決してかっこよくない善い男たちが、歌い、踊りながらちょっといい物語を紡ぐというのは、結果としてわりとほかに見られないスタイルを確立しつつあると思うアタシです。

登場人物がみなとても魅力的で、それを支える俳優の選択も見事。 童貞男を演じた諫山幸治は生真面目さが勝つ造形だけれど、職場の男たちとつるむ楽しさもまた楽しく。つるむ男たちを演じた泉政宏、横手慎太郎、野田慈伸はモテ男、ストーカー気質、クスリを常用してる若者なのに熟女にからめ取られたりとそれぞれのダメっぷりが楽しい。クラブで出会う女を演じた田中のり子はビッチさ全面な雰囲気楽しく、デリバリのお姉さんを演じた菊川朝子はあくまで冷静でしずかにいい女、実子・泰然の動じなさも大物の予感。加藤美佐江はなかなか女を感じさせる役は珍しいけれど思いの外ぴったり。シングルマザーを演じた川崎桜はカジュアルで清楚っぽいけれど、連れ込んだりはする若くはない女性をしっかり。 元夫を演じた本井博之はいけ好かない無自覚なマウンティングが腹立たしくもコミカルに。なにより、息子を演じた小日向星一が実によくて、したい!年頃の高校生の幼い性欲全開さと、一人育ててくれている母親への優しさが実にいいバランスなのです。

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2017.12.24

【芝居】「THE GATE」仮想定規

2017.12.14 19:30 [CoRich]

エジンバラの演劇祭で上演したあと横浜への凱旋。65分。若葉町ウォーフ。

葉っぱのお金で縁日のあと、 ようこそ死体のみなさま、「あなたは何ですか、次になりたいのは何ですか」と問われる。ゲートをくぐったりくぐらない人々、死んで次までに集う場所。

アングラ風味で楽曲に乗せつつ、生き死にの境界「GATE」という場所の物語。人はいつか死ぬ前提で、集う場所ややり残したことを語るのです。男に会いに行きたい男がメイド姿だったり、男子生徒からの告白に気づけなかった元教師だったり、社に詣でる女がその向こう側で叫んでいる子供の声に気づけなかったり。その「境界」は終盤に至り舞台と客席の境界に相似をみせます。踏み込んでその先に行くか、まじるべきか混じらぬべきかを語りつつ、終演後、劇場を抜けることも「境界」なのだと描くのです。

クリアに目を惹く映像を交えつつ、アングラっぽい化粧や装束というハイブリッド、イマドキっぽい装いなのです。

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2017.12.22

【芝居】「ちゅらと修羅」風琴工房

2017.12.10 19:00 [CoRich]

詩森ろばが長く続けてきた劇団の最終公演。名前が替わって続くことは発表されていますが、日英含めた名前の素敵さが名残惜しすぎる130分。13日までスズナリ。2016年に外部へ書き下ろした一本ともつながります。

沖縄に関するドキュメンタリー映画を見た直後、沖縄での基地移転に反対する人々に会いにいこうと考えた若いカメラマン(田島亮)。現地で人々に会うが、そこで不思議な格好の男に出会う。
この土地で起きたこと、琉球王国から太平洋戦争を経て基地に囲まれ、悲惨な事件が次々と起き、いままた県内だけで基地が移転しようとしているそれぞれの場所へ。

名護への空軍基地移転を阻止する、しかし非暴力を貫く人々を中心に据え、その人々を訪ねる人、そこに合流してきた人、その地で暮らし酷い目に遭った人々。そうなってきた歴史、地勢上のこと、政府がしてきたこと、政府に抗う人々。沖縄が抱えることをぎゅっと濃縮して描くという明確な意図が芯にあるうえで、それをテンポを落とさずポップに描くというのが作演の凄さなのです。

たとえば、語り部として機能させるセジ(佐野功)の存在。時空を自由に越え、舞台上にSF風味に設けた多くのモニタ画面で、わかりやすく、しかしテンポを落とさない工夫。あるいは広場のように設えられた舞台、バンクをつけてトランポリンを置いて(実はそれほど若くない)役者を跳躍させること、あるいは、沖縄民謡のリズムを舞台上で叩きあるいは音を出すというライブのような雰囲気。

2時間を超える上演時間をもってしても、つながりを意識させつつ、全体の印象は点描という感じは否めません。が、それは、あまりに多くの問題を抱えそれが解決されないままに時間が過ぎている沖縄ゆえだという現実だとも思うアタシです。

左に寄ってる自覚のあるアタシですが、劇中の台詞にある 右も左もない、生活なのだということはとても腑に落ちるのです。女たちの名前は生活用品(なべ、とか)にするのだということなど、地に足を着けて生きて前に進むことこそが尊いこと。センセーショナルではなく、いつ、どういう状況でそうなったかを淡々と語るシーンが延々と続くシーン。とりわけ女たちが遭うレイプの数々。私には耐え難いほどに長く続くシーンで、その現実と隣り合わせに生きている人々が今現在でも居るということを強く思い出すのです。

沖縄出身の役者やスタッフが居るかどうかはわからないけれど、絶妙に奄美・沖縄のイントネーションが実に私には心地いい、というのは祖父母(鹿児島ですが)がそうだったなぁ、ということがアタシに働きかけてくるということかもしれません。

カメラを構える女・アマミクを演じた林田麻里はとても美しく凛として、子供も兼ねて地元の女を演じたししどともこ、娘を演じた白井風菜もまた美しい建築士を演じた井上裕朗の誠実に一人で戦う(別の役者が、官僚を演じる)格好良さ。婆を演じる西山水木の力強さ。人々を束ねる男を演じた杉木隆幸、中野英樹も人々が頼り、集うという説得力。

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2017.12.21

【芝居】「ホテル・ミラクル5」feblabo

2017.12.10 16:00 [CoRich]

ラブホテルの一室を舞台にしたオムニバスの人気シリーズ。140分。10日までシアターミラクル。

三人の女が。「ホンバンの前に5」
戦隊の男女二人、緊急出動命令が出るかもしれない前日夜、女はセックスが好きで童貞の男に教えたいぐらいの心意気。「ミラクル戦隊」(作・坂本鈴/劇団ダルメシアン)
演出家の先生と生徒がそのシチュエーションでラブホテルへ取材に訪れる「クロースチーム」(河西裕介/Straw&Berry)
作家、女優、俳優。ベッドの上の男女をテンションがアガるシーンを書きたい作家だがなかなか台詞が書けない。 「やっちゃん×チャーコ+ミズオ」(藤原佳奈/mizhen)
レズビアンで風俗嬢を呼んだ女。デリバリされてきた女は自信がなくて、呼んだ女がリードしている「きゅうじっぷんさんまんえん」(屋代秀樹/日本のラジオ)

ダブルベッドとソファ、テーブルと椅子、小型の冷蔵庫というスタイルはいつものとおり。今回のシリーズは全体に静かな印象で、間が長めにで、芝居としてみると、空白が多い感じがします。

「〜戦隊」は心を開かない童貞男と、それをちょっと弄ぶような慣れた雰囲気どころか、ともかくセックスが好きだというポジティブな女。あの手この手でともかく解きほぐそうとする女と頑なな男の駆け引きがコミカルで楽しい。今回のラインナップの中では唯一笑いに振っていて、見やすくて印象に残ります。出動命令の前日にホテルに男女というシチュエーションなのに、死を目前にした悲壮さはみじんもない違和感もちょっと面白い。

「クロース〜」はセンセイと呼ばれる年上男が手慣れた雰囲気で若い女をリードして、という雰囲気のちょっと鼻持ちならない感じで始まりつつ、しりとりとかじゃれ合ったりとか流れる時間、ちょっと強引に一歩踏み出そうとする男、あるいはトラウマで男が怖いのだと告白する女。ステロタイプに過ぎる定型な流れだなぁとおもっていたら、〜というシチュエーションでエチュードで作り出そうということ。序盤で台詞が出てこない男が「エチュード」という言葉を言うあたりからなのか、そもそもの芝居の頭からが女の嘘なのかわからないけれど、女が強くくるりとひっくり返すのは、夢落ちとも云えるのですが。

「やっちゃん〜」はこちらも書けない女性監督が別の男女を使ってラブシーンを作り出そうとしていて。「クロース〜」が作家自身がカップルの片方になろうとしているのに対して、今作はカップルを外から眺めて書こうとするシチュエーションになっている対比。じつは年増の作家と男性の俳優は恋人なのだけれど、男は最近もう一人の若い女優との関係が進んでいて、というシチュエーション。隠れてつきあってるつもりの若い男女だけれど、監督はそれは承知の上で若い女優を誘って作品を撮ろうとしている、男の言葉を二人が共有していたり、女優の意に反して暴力的に犯そうとしたり。もう最近はこちらを向いてくれない若い男に対するフラストレーションがどんどんゆがんでいくのが、ちょっとホラーな感じすらあるのです。終盤近く、全身タイツ姿のコミカルが入るけれども、やはりホラーな感じは否めないのです。

「きゅうじっぷん〜」は静かに流れる女二人のシーン。風俗嬢はひたすらに自己評価が低く、それをなんとかしようと風俗を始めるぐらいで「人間と交際したことがない」とすら言い出す女。一方の客は手慣れた感じ、ふとつぶやく「アタリかも」という台詞がやけにリアルに感じるアタシです。風俗嬢は人に優しくされる経験、客は自分がレズビアンだということに最近気付いてじつはちょっと戸惑って早口で喋るところを風俗嬢が唇を塞ぐラストが美しい。

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2017.12.15

【芝居】「スカイスクレイパー」あひるなんちゃら関村個人企画

2017.12.10 14:00 [CoRich]

あひるなんちゃらの関村俊介による個人企画、70分の爆笑編。

漫才師の男女、合わせたネタとはまったく別の宇宙エレベーターをしたり、頭の中でこっそりUNOしてたりするボケ担当の女。

大事な舞台なのにいままで一度も話したこともない宇宙エレベーターの話を持ち出す女。練習した漫才はいまいちだったとはいえ、せっかくのチャンスをフイにする危険を冒してまで(というよりその自覚なく)宇宙エレベータへのこだわりを切々と語り、会話がかみ合わないと思ったら頭の中で別のことをしたりと、ずれる会話。このシリーズの二人芝居にぼんやり共通に現れる宇宙や宇宙飛行士の話が薄くつながっていくのも楽しい。 空を擦るぐらいの高い建物=スカイスクレーパーというタイトル、それほどに高いところで漫才してみたいんだよ、とちょっといい話っぽくしても、宇宙エレベータがあと何年なんだろうと先の見えないのが「宇宙の話をしよう、果てしないから」な気持ち。

ともかくボケる女を演じた鈴木朝代が実に可愛らしく、表情一つかえずにぼけるのが楽しい。つっこみまくる堀靖明はその役割がよくあっているけれど、怒りキャラというよりは時々女性に優しかったりへなっとするのがちょっとカワイイ。

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【芝居】「熱狂」チョコレートケーキ

2017.12.9 14:00 [CoRich]

劇団の人気作らしいのですが、ワタシは初見です。19日までシアターウエスト。125分。

ミュンヘン一揆を起こすが失敗し禁固刑を受けたヒトラーは、今度はクーデターではなく合法な方法で権力を握ろうと考える。ナチ党としての国政選挙を重ね、大統領戦には敗北するも国会では第一党にまで登りつめ、首相指名、さらには独裁を手にする。

第一次大戦後、小さな党からあっという間に合法的な選挙で独裁を手にするまでの軌跡、語り部となる世話係の視点から、周囲の幹部たちを時に恫喝し、時に演説によって人々を巻き込み服従させていくさまを描きます。 自分の周りの幹部たちも、従順だが凡庸な者、優秀だが思想に差がみられるもの、あるいは友としての立場を重視するものなどさまざまに。実際の会話と云うよりはぎゅっと圧縮し、ごく近い人々がヒトラーに魅せられ巻き取られていくさまを細やかに描くことで、舞台では描かれない一般の人々の「熱狂」が生まれていく様を描きます。

名前ぐらいは聞いたことはあっても、何度か出てくる「指導者原理」も「ミュンヘン一揆」も知らなかったぐらい、この手の史実にとことん疎いアタシです。ヒトラーに対して友人という立場を取る者、ナチ党には社会主義を取り入れることが必要だと考える者、美しい国の完成に向けて高度な完成度をもった宣伝をつくりだす者、上流階級出身で国の英雄という立場を存分に生かす者。ナチ党の理想と、それぞれの思惑と。ヒトラーというある種特別な存在に対して心酔するのか、あるいは表面的な従順さの裏に別の思惑が存在するのか、さまざまな人々との密室での会話だけで紡ぐのです。おそらくは史実に忠実な流れをぎゅっと圧縮したつくりなので、このあたりに詳しい人にとっては評価は分かれるところかも知れません。

若者たちの強い支持を受けて、彼の考える「美しい国」は作れるし、「取り戻す」ための犠牲は仕方ないし、それはたいした問題ではないと考える人物。良識はあったはずなのに止められない人々。特殊な出来事ではなく、普通の人々がその狂気を支持してしまうということが、だんだん自分の身近に迫りつつあるな、と感じる昨今は身に染みるのです。

終幕、セピア色のような写真、これは過去のことだけれど、しかし、またあるかもしれない怖さを印象づけるのです。

ヒトラーを演じた西尾友樹は力強い声、人を取り込んでいく人垂らしという人物を高いテンションで演じきるのです。上流階級出身の英雄を演じた中田顕史郎は気持ちを隠しつつ抜け目ない男の説得力。突撃隊を率いる男を演じた大原研二は少々がさつな荒くれ者の役はめずらしい気がしますが、情に厚い感じもふくめて印象に残ります。

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2017.12.11

【芝居】「たまご祭」味わい堂々

2017.12.3 18:00 [CoRich]

劇団10周年記念公演として。 5日までスタジオ空洞。70分。上演回変わりのゲスト、日曜夜は笹野鈴々音。

誰がトイレで流さなかったのか、互いを疑う稽古場の三人。
製缶工場で働く工場長のところへ社長の娘が業績不振の工場を閉鎖するために交渉に訪れる。
ミュージカルの子役を選ぶオーディション。騒がしい子供たちの中で一人本気の応募者だが、実は33歳の大人が年齢を偽って背水の陣。
婚約を報告するために友達二人が集まった。本人は幸せいっぱいだが、相手に会ってもいないしボンヤリしている。友人たちは警戒警報を発令して。 それぞれの女が捕まり留置場で再会する。三人はかつて高校の演劇部だった。10年前に一度集まって劇団を作ることを言い出せなかった人生が現状になっている。あのとき三人がぼんやり感じていた劇団を作っていたら。

劇団の10年に呼応して、10年前に劇団を結成しなかったらそれぞれの女たちがどんな生活をしていたか三人別々にを並行世界のように描きます。

製缶工場の工場長となった女の話は、工場を理不尽から守る守る正義の人かと思っていたら、実は社長の愛人だったりして、終盤に至り一人工場の中で幻想のまま生きているという少しホラー風味の仕上げ。工場長を演じた浅野千鶴はまじめにまっすぐで思い入れが強すぎる女を好演。社長の娘を演じた宮本奈津美はクールビューティでかっこよく。

ミュージカルの子役オーディションに意識高く背水の陣で挑む女の話、背丈が小さい、子供っぽく見えるという岸野聡子の特性がこの無理筋な話に説得力を持たせます。大人偽ってでもかじりつきたい気持ちをしっかり。この回のゲストだけ、という子役の妹を演じた笹野鈴々音もまたこのわちゃわちゃした子役オーディションの雰囲気を作り上げます。

結婚の報告を友人にする女の話は、一度も会ってないとか雲行き怪しく友達が警報を発令して問いつめる流れが楽しい。ジェーン・スーの本にあるような独身女友達の海賊のよう。がんばって貯めたにしてもかなりの大金というのが少々信じがたいけれど、それだけ仕事ができてもなにか魔が差してこうなってしまうかもしれないということには説得力がある仕上げ。クールに見えるのに肝心なところが抜けてる女を演じた宮本奈津美が、可愛らしく、不思議ちゃんの片鱗も楽しい。

それぞれのいけてない人生を留置場に集約する吹っ飛び方は少々独特ではあるけれど、芝居の道を選び取っていなかったらこうなっていたかも、なもしもの世界の楽しさ。なるほど10周年楽しめる一本なのです。

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2017.12.10

【芝居】「ゴールデンバット」うさぎストライプ

2017.12.2 18:00 [CoRich]

うさぎストライプ名義、菊池佳南の一人芝居。大人になれない、と銘打って。70分。石巻から、★まで春風舎。 亀山浩史の「セブンスター」との交互上演。

うさぎ、昭和歌謡、喪服とコンセプトを変えてきた地下アイドル。マネージャーとの恋仲が噂されながら壊れてからのトークショー。 そのとき、マネージャだった男がみかけた池袋パルコ前でビールケースに上がって歌う女の姿。今の自分はそのパクリという自覚もありつつ、あるライブで客席の奥から側から声をかけてくる女は、会ってなかったけどきっとパルコ前の彼女で、逆にずっとライブに来るようになり、受付に預けられたカセットテープには唄と、何をいってるかよくわからないMCには生い立ちが吹き込まれていた。

街頭で歳を重ねた女がビールケースに乗って歌っていた昭和歌謡というコンセプトをパクった地下アイドル。マネージャと別れて喪服アイドルとしての活動を初めてからあの時のことを語る、という幾重にも重ねるという体裁。正直に云えば、一人芝居にしては少々凝りすぎな感はあるし、いくつかの昭和歌謡で尺を稼いでいるというのはいいのか悪いのか。もちろん女優が割と上手く昭和歌謡というのはもちろん嬉しいオヤジなアタシです。

ビールケースの女は宮城生まれ。東京には何かがあると信じて疑わない幼い頃にやっとの思いで妹を連れて行く許しを親から貰って原宿・竹下通りを何往復もしてしかしスカウトはされず、オリンピック記念硬貨を買ったり、妹は太って引きこもっても自分は東京に出たい一心で大学進学を成し遂げてチャラチャラとサークルの男に恋をして流しのように酒場を回ったりして何も成し遂げられないまま東京でくすぶり続けてビールケースで歌うまでの何十年。

一人芝居でこの歳を重ねたビールケースの女と若い地下アイドルをわりと継ぎ目なく行き来して進める物語。くすぶっていた女が地下アイドルを目にして刺激を受けてオーディションを再び受けて歩き出す、という物語は年齢を重ねても前に進むきっかけはあるのだ、という力強いメッセージなのです。 演じた菊池佳南はこの前ここで観た芝居でもアイドル役だった気がするけれど、やけに似合うのがご愛敬。宮城の言葉で喋るいくつかのシーンの自然さは出身地ゆえか。

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2017.12.07

【芝居】「光合成クラブ・Ⅱ --- 男のいない女たち」菅間馬鈴薯堂

2017.12.2 15:00 [CoRich]

80分。3日までワンズスタジオ。

東京タワーの見える公園。夜の10時。独り者の女たちが集まり酒を酌み交わし、雑談したり歌ったりしている。ホームレスが通りかかったり、ティッシュ配りを練習する若い女や葬式帰りの男が混じったりする。

80分の間に17の短いシーン。もっとも、全体としては夜の公園の連続した時間を描いていてあまり独立した感じはありません。月に一度、夜な夜な公園で安い焼酎を酌み交わす女たち。 酒が進むうちに語られるのは、生活のこと。野菜が高かったり、家賃が値上げされたり、男に縁がなかったりと、厳しい生活を愚痴るような話題なのだけれど、語り口は後腐れ無く実にドライ。作家の持ち味なのです。

当日パンフによれば、何本かに一度書いてしまう「わけのわからない」ものと作家は謙遜するけれど、町の片隅に片寄せあう夜半の風景は確かバラバラとも云えるけれど、市井の人々をみつめる作家の視線はどこまでも優しいのです。

ごく短いシチュエーションの数分の会話劇の断片はどの作家にもストックはありそうです。今作があらかじめ書き貯められたものかは知りませんが。「東京タワーが見える公園」という世界に閉じこめられそうなものを選んで、芝居に仕立てるというのは、ある意味、老練な作家だからできることなのかもしれません。今作に関して云えば、現実の場所を想像させて、若くはない女子たちが集いそうで、ホームレスも通りがかるかもしれない、静かな場所という想像力で設定された場所と、そこに集いそうな人々(もちろん、登場人物と役者のどちらが先に決まった要素かはワタシは知る由もありませんが)を、短い会話劇でつなげていく、しかも時にそれはミュージカルのようでもあるのです。

ティッシュ配りのバイトの練習、家賃の値上げを大家に手紙を書いて交渉する、もんじゃ屋に通う女が同じ常連と初めて会話を交わす一瞬、古い日記の発見、この集いを去るけど言い出せない、亡くした友人を弔った後に気になっていたこの集いに混じる、その間にホームレスが歌ったり、はとバス風のいろんな外国語などのバラエティを。なるほど盛りだくさん。しかし濃すぎず後味すっきりの不思議。

年上の女を演じた稲川三代子はダンスもキッチリでちゃんと安定感。去る女を演じた舘智子は思いの外(失礼)美しくちゃんと歳を重ねた説得力の存在。トラック運転手を演じたシゲキマナミの元気さ、小説を書く植木屋を演じた加古まなみは静かに秘めた雰囲気、若い女を演じた目黒ひかるは元気というコントラスト、踊る男を演じた村田与志行、これだけの大声が出るんだと今さらながら思ったり、年上のホームレスを演じた植吉のヨレヨレ感も楽しく、もう一人のホームレスを演じた加藤和彦は偽外国語の圧巻、タモリの四カ国語麻雀を思い出すアタシです。葬式帰りの男を演じた西山竜一は圧倒的に格好良く、なるほど女子たちが色めき立つという説得力。

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2017.12.05

【芝居】「パン屋爆発」FunIQ

2017.12.1 19:30 [CoRich]

数ヶ月をかけたFunIQの連続公演のラスト。年末らしい賑やかな90分。3日まで梟門。

東京から引っ越してきた夫婦が開いたパン屋は圧倒的な人気店になっている。常連客の頼みで貸し切りのクリスマスパーティを開くことになった。隣町で知り合った女を招待し、最高のパンをごちそうしたいのだという。普段は食パン専業だが、気合いをいれて、数日をかけてシュトレンを仕込んでいる。
果たしてその女はやってきたが、姉がついてきている。隣町はこの町を見下していて、仲が悪く、この姉妹は隣町の町長の娘だった。 近所にはもう一軒昔からのパン屋があるが人気がなくなっている。近所に住み込んだ旅の画家はこの町のシロアリに魅せられている。パン屋の職人はかつて東京の人気店で厳しい修行に耐えてきた過去を持っている。

ストイックなパン職人に秘められた過去。一人の男の恋心と、それを応援する友人たち、田舎町と隣町の確執による妨害。寂れたパン屋やらシロアリに魅せられた画家、さらには「バカと味の素」なる旨いけれど馬鹿になる調味料なる飛び道具も数多く、賑やかに進みます。 正直に言えば物語の歩みは早々に着地していて、ドリフよろしく大騒ぎのようなわちゃわちゃ感になだれ込む、という感じ。 終盤の物語の幹になるのは、パン職人とその妻の間のまっすぐな愛情をめぐる物語で、それは ビデオドラッグのような華やかだけれど少々危うい多幸感と現実の厳しさの落差を交互に示して、振り幅のある描き方。確かに賑やかではあって、連続公演の最後のお祭り感はあるけれど、ここまでの公演で積み上げてきたある種の緻密さには欠ける感じではあります。そもそもそういう物語ではない、というだけのことですが。

前園あかりはヤンキー風味な美容師、ちょっとバカっぷるっぽいところも可愛らしい。妻を演じた金沢涼恵は優しく太陽のような存在、終盤のあのワチャワチャの中でも輝き続ける説得力。 辻貴大はチャラくヤンキー気質な男はちょっと珍しい。日比野線は地味な男かと思いきや踊ったり弾けたりとこちらも珍しい。連続公演を走りきった二人、振り幅の広さは間違いなく彼らのちからなのです。

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2017.12.04

【芝居】「ちょっと、まってください」ナイロン100℃

2017.11.25 18:00 [CoRich]

12月3日まで本多劇場。そのあと、三重、兵庫、広島、福岡、新潟。 休憩込み3時間15分。

金持ちの家族が毎日同じような話をして退屈を持て余して暮らしている。内実は借金がふくらみ続けているがそれを知っているのは妻と使用人だけだ。
その家の庭に乞食の家族が住み着く。乞食の娘は金持ちの家の息子と結婚するのだというが、声すらかけていない。屋敷に入り込むことには成功したものの、お目当ての息子にはフられ、代わりに屋敷の主人に見初められれて兄ともども家に入る。金持ちの妻は捨てられ、乞食に身をやつしている。

ペテン師の語りという体裁で、金持ちと貧乏人が入れ替わる話。 娘を預かったという脅迫電話なのに本人が居て仕立て屋との間違い電話かと思えばその家には娘なんか居ないうえに、この町に仕立て屋なんかいない、といった感じの細かなナンセンスを幾重にも積み重ねて紡ぐ物語。 乞食の娘がこの金持ちの息子と結婚するといっても、会ったことすらない、けれどそれを不思議とも思わず突き進むことで大きく進む物語。 全体の雰囲気は何かの含蓄があるような気もするけれど、するりとそんな解釈をすり抜けるよう。 日本の不条理劇の第一人者、別役実へのオマージュと銘打ち、実に丁寧に、ごくまじめに、食い違ってみたり存在するべきものが存在していなかったりといった物語をきちんと語るのです。

きちんと作り込まれたセットや端々で使われるプロジェクションマッピング、役者たちもみな達者。こんなにも詰め込まれた不可思議でとりとめない話の世界に取り込まれ、浮遊するような感じすら抱くのに、3時間を超える上演時間、不思議と見入ってしまうのは間違いなくこのまじめに作り込まれた緻密さゆえの、一つの世界がそこにあるからだと感じるのです。かと思えば、狂犬病で物語がかき回されて一気にバカバカしくなってみたり。

電柱とか受付といった別役アイコンがそこかしこに。それほど深く知るわけではないあたしですが、それでも気づくのだから、知っていればもっといろいろと原型が見え隠れしたりして楽しそう。

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2017.12.01

【芝居】「もう少しだけましな理由。」クラゲズ

2017.11.24 [CoRich]

安東桂吾と太田善也によるユニット、旗揚げ公演。 26日までワンズスタジオ。休憩10分込みで115分。

一軒家に住む姉を妹夫婦をが訪ねる。姉と連絡が取れなくなって一週間が経っている。姉は作家と結婚しているが、作家は一度はヒットを出したものの、そのあとが続かず稼げていない。
しかし妻は起き上がりお茶を淹れたりしている。性格は別人のようだし頭のニット帽には血がついている。その帽子は池袋のサンシャイン通りで神々しく見えた知らない男から貰い、半年以内に殺されると予言されたのだという。
片言の男が上がり込む。作家の妻と月に一度は会いつづけているという。

二組の夫婦と一人の男を巡る物語を根幹に。夫婦の間の記憶違い、その勘違いを正せるとか正せないとか、相手が浮気しているかもという疑心暗鬼の物語を纏います。 一度はヒットしても稼げなくなっている男とそれを支えている女。女が不満をもっているかどうかは明確には語られない気がしますが、それは内に秘めた、ということは伝わる役者の力。女性の視線で世界を描くのが得意な作家ですが、どちらかというと男の視座から、女性を不可思議な存在であったり、きっちり正しい存在であったり、あるいは押されるような強さを持つ者、という畏敬すら感じるように描かれた物語だと思うのです。 男の側のある種の理想というか、現実の女性に対しては、その裏返しな恐怖心というか。

殺してしまった男と殺された女。そう簡単には覆らないはずの生死があっさり乗り越えられること、それによって性格がまったく替わってしまうこと。堪え忍ぶように物静かだった女の内側にはこんなあけすけな性格が秘められているかもしれないというのも巧い語り口。云えなかったことを云う存在もまた、不可思議なことなのです。

心配して訪れる妹夫婦だけれど、こちらもこちらで問題を抱えています。妻の記憶違いは親戚だけれど、夫はバツイチ再婚なのに前の妻との浮気のシーンを妻と勘違いしていて。本を読んでるとか、という問答も、ちょっと弱みというか、男のダメ加減を描きます。

作家を兼ねる太田善也は片言の怪しい外国人を演じさせたら逸品なのを久々に観られて嬉しいアタシです。 妹の夫を演じた安東桂吾は後ろめたいことは隠しつつ、ちゃんとしたように見える男をしっかりと造型。 売れない作家を演じた坂口候一は激昂の怖さ、静かな会話とのギャップというか振れ幅が圧倒的なのです。 姉を演じた市橋朝子は、物静かでしかし暗い感じと、あまりにもあけすけなキャラクタの落差、 妹を演じた武田優子は美しいけれど、負けん気の強さというキャラクタがすてき。 この姉妹二人の会話、いじめられたなど話す二人のシーンが実にいいのです。

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