【芝居】「骨と肉」JACROW
2017.11.19 19:00 [CoRich]
家具販売店、大塚家具を巡る父娘のお家騒動の実話に着想した120分。 20日まで雑遊。
コンシェルジェ方式を取り入れ高級路線で規模を拡大してきた日本一の家具販売会社。ここ数年低廉な家具で拡大する他社との競争に低迷している中、創業者社長は不祥事の責任を取る形で会長に退き長女を後継者としてきた。カジュアルな路線への変更を図り、透明性のために社外取締役を導入するなどの改革をおこなってきたが、売上の低迷は続いている。
一度は社外にでた長男が専務として戻り、会長となった父親は、ある日クーデターを仕掛けて、長女を社長から解任してしまう。
囲みの客席。 タイトルの骨肉(の争い)を象徴するかのように、中央のテーブルは白く周囲の椅子は赤くコントラスト鮮やか。取締役会の会議テーブルから二つの家のリビングテーブルまでテーブルと椅子の位置すらほとんど変えることなく人の入れ替えだけで実にスムーズ。時にそこに居ない人物やスポットを浴びせる人物を外周の隅に置くことで、カットを切り替えるかのような効果も(時折ファッションショーのようなポージングも楽しい)。
たたき上げで会社を大きくしてきた、泥臭くて勘に頼ったかのような社長と、理詰めで会社を護ろうとする長女の対決。終幕こそ勝敗明確にしないものの、全体の描き方の雰囲気は、社長側には人情派ではあっても経営という点では考えの浅そうな造型の人物を配し、長女側にはスマートで理知的に造型した人物を配することで、少しばかりのバイアスはあって、理詰めで押し切ろうとしても暖簾に腕押しだったり空回りだったり、あるいはいろいろな無茶振りということを含めて笑い処が多くつくられています。ヒトゴトのお家騒動は蜜の味とはいえ、深刻で後味の悪い「骨肉の争い」になりがちな題材をエンタテインメントにつくりあげ、会話劇にもかかわらずリラックスしながらも集中して観ていられるように仕上げているのは、このコミカルな味付けによるところが大きいと思うのです。もっとも、上演回によって客席の反応も随分ことなるようで、ワタシの観た回は笑いが多かったという話も耳にしますので、その客席の雰囲気というのも大きな要素なのかもしれませんが。
お家騒動的な要素はこれでもかと詰め込まれていて、たとえば長男の妻が在日ゆえに結婚に反対された会社を飛び出したのに男子の孫が生まれればそれで戻れるとか、三女の夫のちょっと弱い立場の立ち振る舞いなどの見応え。
実際の大塚家具では創業の地で再起動した父親の会社の方が成功している現在のようです。もっとも、それは負債や雇用といったしがらみを切り捨てて優良客を引っ張ってきたからだろうとも思うあたしです。今作はどちらかといえばジャンヌダルクに例えて描かれている長女の側にバイアスがある気がしますが、デフォルメしつつそれぞれの人物が見えてくる楽しさ。終幕近くに挟まれる、長女が社長を引き受けた頃の回想、今は骨肉の争いとなった関係でも、それがかつて幸せな時間を共有していたこともあった、というシーンを挟むことでもう戻れないほどに離れてしまった二人の距離が強調されるようで効果的。
高いヒールを履き、小さな身体にもかかわらず大声で声を張り続けて長女を演じた川田希は劇中でも喩えられるジャンヌダルクが時に重なり凛々しくカッコイイ。三女の夫を演じた小平伸一郎は入り婿的な立場の微妙な立場の立ち振る舞いの絶妙さと、それでも正しいことを表明するということの難しさとその格好良さをリアルに。 会長を演じた谷仲恵輔は人情派でかつ叩き上げの頑固な昭和の男をきっちりと造型。 昼行灯のような社外取締役を演じた霧島ロックのふらふらした感じがまた、じつにいい味わいにもなっています。
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