【芝居】「風紋 ~青のはて2017~」てがみ座
2017.11.11 14:00 [CoRich]
てがみ座の新作。19日までRED/THEATER。125分。
花巻と釜石の間を繋ぐ鉄道で鉄路の繋がらない交通の難所にある乗換の駅。駅は宿を兼ねている。この家の主は津波で亡くなり、その父親と妻が切り盛りしている。
大雨で山道が崩れ、足止めを喰らう乗客たち。高熱で倒れる男、炭鉱に向かうカップル、マグロ漁船の男、貧しく口減らしの為に家を出た女。
熱に倒れた男はうなされるうち、亡くして10年になる妹や、憬れていた親友のことを思い出す。
三陸の大津波や世間がきな臭くなっている時代、宮沢賢治の最晩年、病を抱えながらセールスマンとして売り歩く日々の、おそらくは創作されたエアポケットのように隔離された数日を描きます。 きな臭くなる日々の中で生きる人々。「アカ」と呼ばれる共産主義狩りも見え隠れし、あるいは一切れの干し芋と汽車賃だけで稼ぎに行く娘、あるいは東京の踊り子や炭鉱を目指す男。 気候も社会情勢も嵐の中のように荒れているけれど、描かれるのはむしろ台風の目のように静かな空気で 宮沢賢治自身の妹や親友の姿を走馬燈として、あるいはこの時代それでも先に進み生きていこうとする市井の人々の姿なのです。
心は傷つき身体は弱っていても実は裕福な家に生まれ、自分の生活そのものよりも、深く信仰する心とよりよく暮らしていきたいという理想のために生きる賢治と、生きることそれ自体が目一杯な人々は実は対照的だけれど、その両者が自然の大きな力という偶然によって一瞬だけでも交差した、というそのさまを穏やかに描くのはまるで絵画のようでもあります。 そう、穏やかなのです。 少しばかり不穏な物語を抱える人物もいるけれどこれもまた時代の不穏な背景を描いていて、この小さなエアポケットの物語を脅かすものではなくて、そこが繋がらないのは、全体として、ちょっと勿体ない気がしないでもありません。
未亡人となった女を演じた石村みか、その義父を演じた佐藤誓は実直にその場所に留まり続けしっかりと生きる人物を造型、静かな迫力といった風情。宮沢賢治を演じた山田百次は感情を抑え、死期の近づきすら感じさせます。口減らしされた女を演じた神保有輝美は健気さとしっかりと生きる力強さを描き出します。
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