【芝居】「真っ赤なUFO」青年座
2017.10.6 19:30 [CoRich]
太田善也による青年座の書き下ろし、第二段。 8日まで青年座劇場。休憩10分を含む150分。
親から受け継いだ町の印刷工場の社長。先代ほどの威厳はなく業績も思わしくない。近所の親戚からは妻の浮気をほのめかされている。娘は恋人を紹介しようと父親の誕生日にあわせて母親と会食を計画するが、手違いで対面した恋人はいい歳をして定職につかず芝居をしている男だった。何もかも絶望的になったとき、庭で強い光を浴びて気絶する。
気絶しているところを家族に発見されたが、その記憶からUFOにさらわれたのではないかと思われ、テレビのミステリ番組のために、ロケ隊がやってくる。
前半は平和な日々に見えて、働き盛り中年男が八方ふさがりに追いつめられていく様をゆっくりと。日々うまくいかない町工場の仕事の中、妻の浮気、穀潰しな恋人を紹介する長女というショックが気持ちをおそいます。その中で体験した強い光と、白くかすんだ先にぼんやり見えた人影。昭和のある時代、信じる信じないにかかわらず世の中では間違いなくメジャーな話題の一つだったUFOや宇宙人といったミステリーに組み合わされる物語の枠組み。 中盤では圧倒的な力を持っていて視聴者も出演者もテレビを半ば盲目的に信じていたころの少しばかり牧歌的な風景。UFOを信じる信じないをまじめに議論するゲストたち、カメラが到着せず録音とスチルカメラだけで乗り切ろうという勢いも時代の雰囲気。 ディレクターが地味な絵を少しでも魅力的にしようと、少し「盛った」演出を仕掛けたことで展開する物語。
こういう話題だからこそわずかな嘘があってもいけないと信じ、あるいは多少の同情はしながらも容赦なく事実を追求する研究者の狭間で、そのUFOの話は作り話だったとされてしまうこと。せっかく盛り上がった家族だけれど、水を差されすべてを失うかにみえたけれど、そこから仕事に再起をかけてしばらくたった終盤、地道に生きるようになり再び絆を取り戻した家族なのです。
休憩を挟み長い芝居ですが、追いつめられたりコミカルだったり、大騒ぎだったりのお茶の間ドラマのような物語の運びはよどみなく、少しのデフォルメで描かれる人々がとても愛おしいのです。それはシリアスな芝居からこんなハートウォームな芝居までカバーする青年座という劇団の強さでもあるのです。 父親を演じた山﨑秀樹は追い詰められた男からUFOにさらわれ明朗快活になる後半のコミカルな仕草まで物語の中心にどっしりと。母親を演じた小林さやか、姫とよばれるほどの可愛らしい女優だけれどもうすっかり母親もきっちりと。とりわけ後半、変わった夫に対して見守るような視線がしっかり。UFOを信じる小説化を演じた平尾仁は奥行きと慈愛、しかししっかりとした矜恃。UFO否定側の学者を演じた山賀教弘は(今作の)作家を思わせる癖のある造形がちょっと楽しい。
真っ赤な嘘、の筈の出来事が本当かもしれない、という終幕はちょっとばかばかしく、そしてファンタジーがちゃんとあって作家の遊び心。舞台となる1978年はワタシにもどんぴしゃな世代、有償パンフにあるその時代のできごとが、いちいちワタシにヒットする(「微笑みがえし」に「600こちら情報部」だ、なんせ)選択なのがまたよいのです。
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